2021-2022シーズン欧州遠征
ワールドカップ・世界選手権レポート
JTB スポーツブログYELLをご覧の皆様、ご無沙汰しております。
JTBコミュニケーションデザイン所属 小池岳太です。
10/22より3ヶ月強に渡る欧州遠征を終了、1/26に帰国し、現在は都内でできる範囲でのトレーニングに励んでいます。
今回のレポートでは今季前半の練習期から中盤戦までの振り返りについてレポートいたします。
WCレース スタートの様子
欧州遠征レポートと試合状況について
3ヶ月強に渡る欧州遠征に参加しました。主にオーストリアのInnsbruck(インスブルック)市を拠点とし、全16試合と練習に専念することができました。
各試合間で都度帰国した選手もいましたが、私の場合は隔離期間や時差の順応に時間を取られないことを優先し、欧州滞在を続けたという経緯でした。
<練習期振り返り>
柔らかい雪質での雪上練習
10-12月上旬まで氷河スキー場拠点の練習期では、降雪が続き柔らかい雪質での練習でした。練習の質としては、硬い雪質に比べて難易度が下がりますが、自然のスポーツのため仕方ありません。
この点、欧州のトップ選手達は、雪が降る前の夏から秋にかけて氷河むき出しの硬い雪質(氷)で練習や用具のセッティングを積み重ねてきますが、私は大学院の都合もあり、秋からの雪上練習でした。
雪上練習では標高3500m付近の低酸素下で低速練習から実践的な練習まで行い、フィジカルは主に筋パワー向上(一瞬で出し切る速さ)を求めたメニューをみっちりと積めました。宿泊地も標高1800mと高地環境で、消費カロリーに対して食事が足りず(食べられず)体重が減り始めた以外は、非常に順調で特にフィジカル面で質の高い練習期間でした。
スイス南部・saasfee合宿の様子
オーストリアロックダウン中のアパート自室練習の様子
<試合期振り返り>
非常に硬い雪質(アイスバーン)での試合期
結果:WC最高14位、世界選手権最高16位
12月中旬からの試合期では、W-cupや下位大会11試合、世界選手権5試合に出場しました。
試合期に入ると天候は一転雪不足となり、練習会場と打って変わって非常に硬い雪質(アイスバーン)の連続となりました。
試合では同じ旗門のライン上を100名前後が滑るため、溝も多くでき、荒れてきます。その上硬い雪質なので、うまくズラせられない、またはうまくグリップさせられないというエッヂ調整の難しさを痛感する苦しい試合展開でした。
夏季に調整できなかった用具のセッティングを試合に出場しながら調整し、それに慣れ、かつ成績を出すというプレッシャーと闘いながらの試合は、やはり甘くはない厳しい結果でした。
カッチカチのアイスバーンの様子
アイスバーンと一口に言っても、湿度や雪温、気温差によるためか、欧州の中でも会場によって異なります。異様にグリップが強い会場もあれば、全くグリップしない会場もあり、屋外スポーツならではの環境変化への対応力が求められます。
エッヂ調整の例では、サイド角度、滑走面側のビベル角度の調整を0.1度単位で微調整しますが、メカニックとのコミュニケーションが欠かせません。(包丁の先端をギザギザにするのか、キレながらも滑らかにするのか、それらを端と中央はどう変えるか、といった調整例)
特に世界選手権ではメカニックなしで選手のみでの出場だったため、選手独自での調整は、体への負担も強く難しい環境下でした。各国見回しても日本だけがそのような体制でした。(コロナ禍でチームを分けて活動している事情の為)
世界選手権の会場は、過去最も硬いアイスバーンと、北欧ならではの白夜状態の見にくさも重なり、エッヂ調整は難航し1回の調整にも2 ﹣ 3時間は要するため、夕方以降の作業でも疲労が蓄積し続ける難しい大会となりました。
直面した壁、そして高速系種目への手応え
<思うようにいかない日々>
今季前半の練習期では非常に手応えあったので、いざ試合期に入り、WC・世界選手権で思うようにいかない日々では、こんな思いや壁に直面していました。
・「自分どうしたのか?こんなものか?」というもどかしさや焦り
・試合独特の雰囲気に飲まれていたこと(準備万端な他国との差にも焦りました)
・長期間の欧州遠征でパンやチーズ主体の食事が体に合わず痩せてしまい、パワーも落ちたこと
これらの影響も積み重なり、20位前後の順位が続く苦しい試合が続きました。
SLレースの様子
しかし、苦しいながらも、大きな怪我もなく乗り越えられ、特に高速系種目では一定の手応えを得られました。
<高速系種目での手応え>
結果、WCの高速系種目はSG最高17位、世界選手権のDH種目では16位となりました。
私の最も得意と自負する種目が高速系種目の滑降(DH)やスーパー大回転(SG)です。
実は、これらの種目は練習というものができず、実戦が練習代わりなんです。
というのも、日本人がアルペンスキーで欧米に勝てない要因の1つが練習環境と言われますが、2 ﹣ 3kmのコースを貸し切り、防護ネットを張り巡らし100km/h以上の滑走スピードで大小様々な起伏に富んだコースでジャンプ練習も積んでいく・・・このような練習環境はなかなか整えられるものではないのです。国内では健常者代表チームでも1998年長野五輪以降、高速系チームは廃止されており、練習自体が不可能なのです。
唯一、障害者アルペンスキーが高速系種目を行っている状況ですが、必然的に試合で経験するのみの限られた数本で自分の限界を急激に高めていくしかありません。そのため非常に怪我のリスクがあり、精神的にも相当な覚悟が必要です。
例えば、世界選手権中のSGレースでは、自分の限界を超えてジャンプ方向を間違えて衝突寸前のシーンがありました。滑りながら、あわや大惨事! 脛の脛骨腓骨の複雑骨折を覚悟しました。オペ室に運ばれながら、全て終わったことに「ごめん!」と謝っている自分の姿が走馬灯のように脳裏に浮かび、ゴール後はしばらく放心状態・・・なぜ無事にゴールできているのか分からず、あまりのリスクに涙が溢れている自分が居たレースもありました・・・。同時に、そのミスがなければ1桁順位には届いていたことも実感しました。
こういったレース含め、今季の試合を経てみて、特に高速系種目ではリスク承知で覚悟を持って攻め切れることが私の持ち味であることも再認識できたレースでした。
トップとは大きな差がありますが、一番通用するのが高速系種目だと改めて実感できたので、最優先で取り組んでいきたいと思っています。
滑降レース 時速100km/h超えジャンプ中の様子
タイムアップに向けて、これから取り組んでいきたいこと
<大会を通じてテストし、修正していく試み>
以下の修正点1つ1つは、コンマ数秒速くする作業でしかありませんが、これらを積み重ねていくことで、数秒単位の大きなタイムアップを狙っていきます。
①最速のライン取りを作り上げるメモ作業
一度で覚え切れない為、二度三度と叩き込むことが私なりの対策の一つです。
大会中、下見(inspection)の時間でコースを覚える際、逐一メモに記入し、地形、スピード感、雪質、見えない斜面変化の飛び出し方向を頭に叩き込み、何回も何回もイメージで滑り限界を超えられるようにしていきます。
コース下見中とメモ書きの様子。
小メモが現場にて。大メモは夜の振り返り
②ワックス塗り込み作業
・走る板を作る滑走面を鏡面仕上げ(鏡のようにテカり、滑る状態)に仕上げていく作業
・ワックスを塗り込み→ワックスを剥ぐ段階でのブラッシング作業→滑走時の雪による摩擦
この工程をひたすら反復して作り上げていきます。これらの工程には熟練の技術が必要で、また雪質に合う良い質のワックスを手に入れる必要があります。本来プロのメカニックに頼る部分ですが、今季はチーム事情により自分でできる限り作業しています。日本で売られていない選手用ワックスも、現地に居たからこそ使うことができました。
ワックス作業、エッヂ研磨作業の様子
③姿勢のテスト
左腕麻痺の影響を最小限にするための姿勢改善の一つで、左腕の位置をどう固定するかのテスト。
体の前面を固定・背面を固定・そして固定しない状態、それぞれタイムを取りつつ評価。
結果、テストの条件や時間が足りず、北京に向けては通常の固定なしでいくこととしましたが、障がい者スポーツ特有のクラス変更(重いクラスは実測タイムに付くハンディも重くなる制度)にも該当することは、今後の伸び代の1つと分かっています。
<試合結果>
※全試合中種目別最高位
2021/12/7-9
Brenner/Austria戦WC: SG18位、GS14位
2021/12/17-21
St moritz/suiss戦WC: GS17位、SL20位
2022/1-8-23
Lillehammer/Norsk世界選手権: DH19位、SG16位、GS22位、SC19位
※用語説明
SG(スーパー大回転、スーパーG)
GS(大回転、ジャイアントスラローム)
SL(回転、スラローム)
以上、欧州遠征の練習期・試合期で学んだこと、テストしてきた内容のレポートでした。
日頃から支えてくださっているすべての皆さまの応援・ご支援のお陰で再び世界に挑戦できていますことに、改めて感謝しています。引き続き応援のほど、よろしくお願いいたします!
JTBコミュニケーションデザイン(JCD)
小池 岳太