自転車競技挑戦レポート:総括編
JTBスポーツブログをご覧の皆さま、こんにちは!
猛暑が例年にも増して驚異的で適切な冷房と水分補給が欠かせませんね。
皆さんもしっかりと熱中症対策していますでしょうか?
水分補給に私は炭酸水を愛用していますが、一度に多く飲み過ぎず、こまめに摂取できる点で今年も欠かせなくなっています。
皆さまも例年以上に、積極的な水分摂取をお願いいたします!
さて、今回は、ここまで4年強(通年2年+夏季のみ3期分)取り組んできた自転車競技の総括編をレポートさせていただきます。
東京パラリンピック出場は残念ながら叶いませんでしたが、私なりに学んで来た自転車競技の過酷さ、そして魅力をお伝えします。
お時間許す時にご覧ください。
【自転車競技 挑戦総括編】
<自転車競技挑戦のきっかけ>
自転車自体は、幼少期からの新聞配達、学生時代の通学、そしてスキーに向けた持久力練習メニューとして馴染みのあるものでしたが、競技としては、2015年夏季より始め、年間通じての本格挑戦は2018平昌冬期パラリンピック終了後にスタートしました。
自転車の種目は、公道を使用する「ロードレース種目」、競輪場のようなバンクを使用した「トラック種目」と分かれていますが、主にトラック競技(200m、1km、4km個人追い抜きといった単走種目)において挑戦してきました。
競技として始めたきっかけは主に以下の3点です。
・アルペンスキーでお世話になってきたJISS国立スポーツ科学センターでの体力測定の医科学サポート(乳酸測定)から、短・中距離種目の適性があると証明されていた事。
・2020東京開催が決まり夏冬通じた挑戦をしたかった事。
・当時のトレーナーの先生から推薦いただいた事。
これらの経緯から、母校の日体大自転車競技部や、パラサイクリング連盟の強化合宿にお世話になり挑戦することとなりました。
これまでの主な取り組みをまとめました。
<2015~2018年度:基礎構築>
月間1500~2000kmを乗り込み、ペダリングの基礎を覚え、基礎体力を養いました。
ロード練習では隊列を組んだ走行、バンク練習ではライン取りといった走り方の基礎も学びました。
★拠点
伊豆サイクルスポーツセンター、競輪学校、他連盟の強化合宿参加
★主な大会成績
1.長野県チャレンジトラック大会(松本市美須々湖競輪場・2018年4月)
1kmタイムトライアル:54位
200mタイムトライアル:47位
2.全日本ロード選手権兼パラサイクリング大会(石川県志賀町・2018年6月)
16km個人タイムトライアル:5位
3.ワールドカップ・EMMEN(オランダ)戦(2018年7月)
24km個人タイムトライアル:15位
88kmロードレース:21位
4. 全日本選手権兼パラサイクリング・トラック大会(伊豆ベロドローム・2018年9月)
1km個人タイムトライアル:2位 タイム:1分14秒213 日本新記録・大会新記録
4km個人タイムトライアル:1位 タイム:5分15秒412 大会新記録
5.全日本マスターズ・トラック大会 35歳~40歳の部(2018年10月)
1km個人タイムトライアル:8位 タイム:1分14秒413
3km個人タイムトライアル:4位 タイム:3分55秒
<写真:短時間高強度の練習用パワーマックスと、漸増負荷測定の様子>
<2019年度:専門性向上のトレーニング>
狙いを1kmタイムトライアル種目に絞り、乗り込みの量を月間500km程度に減らす代わりに、筋力増加、瞬発力向上の短時間・高強度の目的に特化したメニューに切替えました。
ウェイトトレーニングでは体重5kg増に対して体脂肪は変わらず12%。
自転車競技で全国有数レベルの学生達に叱咤激励してもらいながらのトレーニングの日々は、吐くほど過酷ですが非常に学ぶことの多い実りある期間でした。
競輪選手にお世話になった事も多くの学びがありました。
★拠点
日体大自転車部・短距離班の部活動や境川(山梨)・美鈴湖(長野)各自転車競技場
★主な大会成績
全日本トラック(パラサイクリング)C5クラス1km:日本記録2年連続更新 (2019年9月)
国際トラック大会個人参加(ロサンゼルス・ブリスベン・NZ)1km:種目最高2位 (2019年12月)
<写真:ブリスベン戦単独遠征の試合と荷物の様子(自転車はプラスチック段ボールに入れ移動)>
<振り返りと装具づくりの取り組み>
東京オリンピック出場を断念したのは、努力の方向性・狙いが甘かった結果だと思っています。
パワー増の練習は順調に進みましたが、自転車に力を伝える技術が選考期限内に伸ばしきれず、目標のタイムを出せませんでした。
技術部分に付いて具体的に説明します。
トラック競技1km種目では、爆発的なスタートと加速、最高速度を上げ切って後半の垂れ幅を少なくする戦略で強化してきました。
この上で特に重要なことは、スタートの瞬間立ち乗り時に重心を前に移動しつつ、同時にハンドルを強烈に引っ張りながら、全身の体重で力強くペダルを踏み、脚の筋力に頼り過ぎないこと。
この時の立ち乗り動作が左腕麻痺でハンドルを握れない私には非常に困難であり、最初から脚を使いすぎてしまう課題を克服できませんでした。
そこで、装具メーカーにご協力いただき、装具作りを進めました。
・強くハンドルを握れるグリップ感
・全体重を乗せても壊れない強度、手首の動きも再現する構造
・「ハンドルに安全上の理由で固定してはいけない」パラ特有のルールを守ること
これら全てを実現する装具を目指しましたが、予想以上に複雑で難しい作業でした。
(その分、手の機能とはもの凄いものだとも痛感しています。)
<写真:(左)手首外側にリングを設けて引っ掛ける装具、(右)グローブ型装具の様子>
カーボン製制作の資金高騰などもネックとなり、とても2、3年では作り上げることができませんでしたが、ご協力いただいた装具メーカーの職人の皆さまには、私のイメージを様々な形に工夫して作り上げてくださったこと、心から感謝しています。
<写真:手首内側にリングを設けた装具、肘を支える装具の様子>
<私の思う自転車競技の魅力>
自転車競技の中で特に、1人で走るタイムトライアルは、ロードレースもトラック種目もラッキーな勝ちは絶対に無く、練習や体調管理、マシンのセッティングが直接結果に結びつく、“努力した事が全て”の競技だと痛感しました。
とくにトラック競技の国際大会は屋内で行われるため、風も天候も気温も関係無く、走路も一定です。
自転車の性能差はありますが、それはほんの僅かなものであり、大切な事はいかに身体を作り上げてきたか、かつ、用具を使いこなす(用具に伝える)セッティングを見つけられたかどうか、つまりは準備してきたことが全てだと学びました。
<環境からの学び>
また練習環境においても大きな魅力と気付きがありました。
伊豆サイクルスポーツセンターの広大な施設では、高低差100mのロード5kmコースや、バンクも複数備えられており、特にオリパラでトラック競技開催のベロドローム(1周250m、最大傾斜45度)は崖を走るようで圧巻でした。
<写真:板張りバンク走行の様子(3カ国それぞれ同じ250m周長でもグリップ感覚等特徴が異なりました)>
また、チーム練習では、下肢切断や、視覚障がい、脳機能障といった他の障がいをもった選手らの見事な技術力・体力を目の当たりにしました。
特に、ある片足切断の選手には坂道で何度も抜かれたり、100km走でもついていけない現状で、大変な刺激と学びがありました。
そして、競技レベルについて、健常者と変わらない強さがあるのも魅力の一つです。
例えば1km種目で2016リオパラリンピック優勝タイムは1分2秒台(私の属するC4ー5クラス)ですが、2018、2019全日本選手権優勝タイムは1分2秒~3秒台とほぼ変わりません。
パラスポーツの中でも、ここまで健常者と競れる競技は無いのではないかと感じています。
こういった競技特性もあってか、健常者の大会の一部でパラ部門大会を実施していることは、非常に良い事だと感じました。
<自転車競技で学んだ事>
夏冬のパラリンピック挑戦は結果的には実現ならずでしたが、多くの学びと収穫がありました。
特にこの2年間、全てを自転車競技に注ぎ、挑戦して来た事は私の人生の宝となる経験だったと思っています。
目的に向けて、全て数値に置き換えて日々の練習に落とし込んでいく科学的な強化方法や、過酷な練習(もがき練習)では交代でお互いに応援し合う事で何とか乗り越えるチームとしての一体感、礼儀や身なりを重んじる競輪の世界、年齢関係問わず守られている様子は初心を思い出すことができました。
また、日体大自転車部では、常に物事を公平に客観視することや目的に向けて本質からズレている時にストレートに指導くださることを教えてくださいました。
そして私のような部外者に対しても、本気の人間にはどんな忙しい時も向き合ってくださったことには、感謝の思いでいっぱいです。
結果を出せませんでしたが、自転車競技において私をサポートくださった以下の皆様には、心から感謝しております。
<写真:左鎖骨骨折後の様子(落車=骨折、全身擦過傷の経験からも過酷さを学びました)>
<写真:機材提供いただいたBOMA菊池さんとの様子>
・パラサイクリング連盟
・日体大自転車競技部 日体大NASSサポート
・機材サポートBOMA(ボーマ)
・メカニックサポート positivo永井考樹さん
・治療サポート 竹虎接骨院 ユナイテッド治療院
そして、何よりも私の挑戦に温かく応援くださった会社の皆さんに感謝です。
自転車競技で培ったこと、学んだことを必ず残りの競技人生に生かして参ります。
長文、お読みくださり有難う御座いました。
以上で、自転車競技挑戦の総括編レポートを終わりにします。
JTBコミュニケーションデザイン
小池岳太