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観る楽しさも整い始めたパラ射撃
(渡邊 裕介選手/パラ射撃/広島県府中市出身・在住)

JTBグループでは、パラスポーツの発展とともに、地域を元気にするアスリートを応援していきます。 今回は、パラ射撃で東京2020大会の出場枠獲得を目指す渡邊裕介選手にアスリートとしての地域の環境と魅力を語っていただきました。

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写真撮影:Norihiko Okimura

江戸時代そのままの白壁の町・上下町
 僕が生まれた上下町(広島県府中市)は、石見銀山から銀を掘って尾道へ運ぶ時に通る宿場町で、江戸時代が最盛期だったそうです。 白壁の町並みで、来られた人は雰囲気がいいと言ってくださいますね。 ザ・ニホンというか、江戸時代そのままの姿が残っているようで。
最近は観光に力を入れていて、ひな祭りとか端午の節句とか、秋の白壁祭り、かかし祭りとお祭りだらけです(笑)。 剣道体験ができたり、居合いを見せたりもしているので、インバウンドの“秘境ツアー”で外国の方が来られることもあります。 それとSNS映えと言うんですか、写真を撮りに来られる方もいらっしゃいますね。
 福山あたりに泊まって、鞆の浦とか仙酔島とかメジャーなところと、日帰りで“秘境”の上下町を両方楽しんでいただくといいと思います。 ぜひお祭りの時に来てほしいですね。

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写真撮影:Norihiko Okimura

砂漠のオアシスリゾート”UAE”
 海外で印象に残っているのはUAEですね。 UAEといえば、皆さんドバイって言いますよね。 でも射撃の試合があるのはアルアインという土地なので、ドバイは空港しか行ったことがなくて。 アルアインは、ドバイの空港から砂漠の中を数時間走った先にあるオアシスなんです。 オアシスって建物がひとつぐらいしかない小さなイメージでしたが、街が本当に広く形成されていて、しかも水が豊かなんです。 木を生やすために水路も整備されていて、水がまかれていて、ふんだんに水が使われているんです。 砂漠って本当に水が貴重なのかなって思いましたね。 日本人はほとんどいなくて、欧米人がリゾートでゆったり過ごしている感じです。 食べ物もとっつきやすいので、日本人にもおすすめですね。

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写真撮影:Norihiko Okimura

50m先にある5mmの円を撃ち抜く
 ケガをしたのが2004年のアテネパラリンピックの頃で、たまたまテレビの射撃特集を見た妻がすすめてくれたんです。 もともとアーチェリーをやっていたので、的つながりだし、射撃なら腕が無くてもできるんじゃないかと思って。 しかも日本代表監督が山口にいらっしゃって、広島には当時は日本一と言われていた設備(つつがライフル射撃場)もあって。 そんな縁で1年後には撃っていましたね。
 私が出場しているR6という種目は、50m先にある的を50分で60発撃ちます。 1分に1発では間に合わないので、時間的には短いですね。 50分のペース配分は個人の自由なので、私の場合は20秒で1発、インターバルを置いて、平均35分くらいで終わります。

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写真撮影:Norihiko Okimura

 的の直径は15.44cmで、一番点の高い中心はわずか直径5mmです。 しかも目線が1mmずれると、的では3mmずれると言われているんです。 私は義手でライフルを支えるので、固定されてしまい、そこで止まる? というところで固まっちゃったりするんですよ。 以前、スペインの有名な義手の選手が「当たる時は当たるし、当たらない時は当たらない」っていう、普通のことを言ってたんです。 普通やな!って思いましたけど(笑)、やってみて意味が分かりました。 義手を使って射撃をすると、温度であったり、義手の関節の動きであったりといった影響で、日によって本当に手の乗り方、銃の乗り方が違うんです。 最近は、ライフルの性能も上がって、いかに10点を並べるか(中心に当てるか)が勝敗を分けます。 義手も含め、道具の調整は非常に重要ですね。

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写真撮影:Norihiko Okimura

東京2020大会の出場枠獲得を目指して
 東京2020大会が決まり、ようやくナショナルチームができて、それまでは事務局も選手が自分たちで運営しているような状態でしたが、人が常駐することで組織としてちゃんと運営されるようになり、選手が競技に集中できるようになりました。 環境が変わったことで、私自身も変わってきましたね。 練習内容などに大きな変化はありませんが、気持ちの中の競技の比重が大きくなりました。
 今(2019年4月現在)は、東京2020大会の出場枠が付与される大会の半分が終わったところで、世界でトップの国が枠を取りつくしている状態です。 残念ながら日本はまだ枠が取れていないので、これからの後半が正念場です。 10月にオーストラリアで行われる世界選手権で、ぜひ出場枠を獲得したいですね。 開催国枠はありますが、それは考えずに自分たちで枠を取りに行きたいです。

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写真撮影:Norihiko Okimura

誰もが一度はやってみたい射撃
 射撃って、マイナースポーツですけど、誰もが一度は試してみたい競技だと思うんですよね。 パラスポーツを紹介するイベントでも、射撃コーナーはお客様でいっぱいになるんです。 しかもやってみると結構当たるので、面白いと思って始める方がいらっしゃいます。 本当にやっていただくのが一番だと思いますし、それが競技人口を増やす方法でもあると思います。 日本は銃規制が厳しいので本格的にライフルを持つのはハードルが高いですが、ビームライフル(実弾を使用せずビームで的を射る競技)なら免許もいらないですし、どこの射撃場にもあって体験できるので、ぜひ試してほしいですね。
 今までの大会は「静かに!」という感じでしたが、最近はお客様にも楽しく過ごしてもらえるように、ファイナルでは音楽を流してお祭り状態です。 ファイナルは8人で行いますが、試合が進むについて点数の低い人が一人ずつ脱落していくんです。 これは本当にドキドキで見ていて楽しいですよ。やっている方は気が気じゃないですが(笑)。

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写真撮影:Norihiko Okimura

ビームライフルを体験すれば東京2020大会を数倍楽しめる!
 にぎやかな会場はやはり負荷になりますから、それにも動じない強さが必要になります。 それで集中が途切れるようではトップにはなれない。 集中力がないと始まらない競技だからこそ、集中しきれて、いわゆるゾーンに入っている時は、本当に楽しいですね。 撃とうと思わなくても勝手に手が動き、真ん中に当たって、自動的に動きが流れていくんです。

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写真撮影:Norihiko Okimura

 ゾーンに入る練習は普段でもできるんですが、具体的には何もしないんです。 射撃自体が「静」のスポーツなので、動かない。 動物なので動くのが普通で、じっとできないものなんですよね。 それをじっとしなさいというのが、射撃の根幹なんです。 だから心臓が止まっていたら、もっと当たると思うんですよね(笑)。 動いているのに止めないといけないという、逆の作用が射撃の面白さでもあり難しさでもあります。
 ゾーンに入っている選手は、撃つリズムがとてもいいし、どんどん当たるので、見ていても分かると思います。 東京2020大会ではそれが生で見られるわけですが、その前にぜひビームライフルを体験してみてください。 競技が数倍楽しめると思いますよ。

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写真撮影:Norihiko Okimura

PROFILE
渡邊 裕介(わたなべ ゆうすけ)

1975年8月14日 広島県府中市生まれ
中・高校時代に軟式テニス部、大学時代にアーチェリー部所属。2004年事故で右腕を失う。 テレビでアテネパラリンピック番組を観た妻に勧められて射撃を始める。 2010年スモールボアライフル所持。 2011年タイ・バンコックワールドカップ R9優勝。 2014年正式種目R6(スモールボアライフル伏射)のSH1クラスへ転向。 2016年よりナショナルチームの主将を務める。 2019年UAEアルアインワールドカップ出場。 会社経営、三男一女の父でもある。

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