株式会社BrewGood(ビールの里まちづくり協議会 事務局)(岩手県遠野市)
昨年のビアツーリズム受け入れ実績は450人、同じく昨年遠野醸造にビールを飲みに訪れた方は約8000人。今年は現状その1.2倍を超える来客数である。また、今年の遠野ホップ収穫祭の来場者数は12,000人(昨対1.6倍)。これらは数年前までは無かったものであり、年々ビールの里・遠野に向かう観光客は増加傾向である。ホップ畑という資源を使ってツーリズムやイベントを開催し、地域のホップを使ってビールを醸造して現地で飲む、という新しい体験や価値を創造できたということである。
私たちはビールの里というビジョンや、その取り組みの過程を共有し、情報発信を続けている。遠野のビール関係で行ったクラウドファンディングは3つあるが、全て達成し、多くの方の支援を受けている。前述したように、今年の遠野ホップ収穫祭では参加者の1割を超える方が私たちの活動に金銭的支援をした。(事前に行ったクラウドファンディングでは127人の支援、サポータータオルは220枚販売、サポータービールは1000本販売、Tシャツは80枚販売、募金してくれた方は約400人)これは、消費する観光ではなく、参加者が私たちのビールの里ビジョンに共感して、ともに目指す仲間になってくれる方が増えてきているということである。
この3年でホップ農家になったり、ビール醸造会社を起業したり、ホップやビールにまつわる事業に関わるために外部から移住してきた人材は合計20人であり、ほぼ全てのメンバーが定住し、活躍している。冒頭で、ホップ生産者の減少は全国的に課題だと記載したが、遠野は3年で12人がホップ農家として就農している。移住者たちは大手企業など様々なキャリアを辞めて遠野に飛び込んできた。そのような移住者たちが地域の人々と協働しながらビールの里を目指し、新しい動きをつくり、その結果、また移住希望者が増えるというサイクルが生まれている。
上記のように、ただ観光客が増えていくのではなく、活動を応援してくれるサポーター、関係人口を増やしていくことを大事にしている。そして、定住人口の増加、観光コンテンツの開発、持続可能な農業への挑戦など、地域が抱える課題を解決する効果を生み始めているのである。また、地域住民は、ホップを地域の誇りとして再認識し始めている。駅前の店舗では朝顔やゴーヤの代わりにホップを育てて小さなグリーンカーテンを作ったり、地域の高校生がホップの蔓から和紙をつくり、その和紙を神社が御朱印に使ったりするなど、それぞれの活動をホップやビールに寄せていく動きも始まっている。
ビールの里に向けた動きは2007年から始まっており、今年で12年目である。当時は、TK(遠野・キリン)プロジェクトを遠野市、遠野ホップ農業協同組合、キリンビール岩手支社で発足した活動だった。活動が加速したのは、2016年から移住者の積極的な受け入れが始まった頃である。現在は、構成メンバーも増え、行政や大手企業主導から、民間主導へと大きく変化している。2018年10月にはこのビールの里構想を持続的にマネジメントしていくための事務局として株式会社BrewGoodが設立された。
ビールの里プロジェクトが目指しているのは、一つの大きな組織をつくるのではなく、まち全体をビジョンに向けて取り組む生態系のようにしていくことでもある。行政・大手企業・民間事業者が緩やかに繋がりながら面として機能し、共通のビジョンを目指すモデルである。ビールの里プロジェクトに取り組むことで、その会社や個人にどういうメリットをもたらすのか、持続可能なのかを問いながら全体を事務局がまとめている。
一つの大きな組織ではないということは、自由に、速く、挑戦しやすいというメリットがある。他にも、まだ取り組みに参加していない個人や会社に対しても関われる余白を残し、どう関わっていけるかを考えてアクションできる土壌を作ることができるのである。
活動の財源は一部、キリンから支援をしていただいている。これは、CSRの活動ではなく、CSV(CreatingSharedValue)としての活動である。キリンとしても、地域でのホップ産業が持続可能になることで継続的な原料調達が可能になり、また日本産ホップの特徴を活かしたビールの開発・販売を通じてビールマーケットの再活性化に寄与していくことで自社の利益にも繋がっていく。しかし、より持続可能な地域主導の取り組みに昇華していくために、キリンからの支援も将来的に縮小する予定であり、これは必要なことであるとビールの里チームでは考えている。代わる財源確保のための方法としては、ふるさと納税の仕組みの活用など、検討が進められている。
私たちが思い描くビールの里は、そう簡単には完成されない。10年、20年をかけた取り組みである。その未来を確実に手繰り寄せるために、現在次のプロジェクトが開始されている。それは、ビールの里の次のコンテンツをつくるものであり、具体的には3つめのブルワリー建設、ビールとホップを体感できるゲストハウス、ホップ博物館などである。2018年に設立された株式会社BrewGoodは全体のマネジメントをしながら、次の企画のプロデュースに動いている。そして、その過程も全てシェアしながら、仲間やサポーター、ファンを増やしていくのである。ビールの里づくりの過程の中に観光客も一緒になって入ることで、交流が生まれ、遠野が特別な場所になっていくはずである。
ビールの原材料に欠かせないホップの日本有数の栽培地である岩手県遠野市。56年の歴史があり、今も日本一の栽培面積を誇る一方、高齢化や後継者不足によって生産量は激減してきている。このような状況を前にキリンビール株式会社と遠野市はホップ農業衰退の解決を目指し、2015年からは「ホップの里からビールの里へ」というビジョンを掲げ、2018年10月からは「ビールの里構想」を持続的にマネジメントしていくための事務局「株式会社BrewGood」を設立。ホップ農業の未来だけでなく、地域全体を含めた活性化を目標に多角的な取り組みを行っている。
・ホップ栽培農業が直面する危機を乗り越えるだけではなく、明確なビジョンのもと、遠野市のビールづくりを起点にした6次産業を体系化し、様々なセクターにメリットや利益をもたらす事業構造を創出している。
・観光交流として着実に来場者実績を伸ばしており、ビールを消費するだけではないファンやサポーターなどから多くの支援を受けている。若手のサポーターや移住者なども増えており、遠野市の国産ホップ栽培の次世代を担う人材に成功している。
・地域が抱える課題を新しい視点と斬新なアイデア、実利的な事業構想などによってブレイクスルーし、さらなる可能性へとつなげている。北海道や青森のホップ農家も遠野市同様に状況は深刻化しており、日本全国でも農業の衰退や後継者不足に悩む地域は多いが、今回の取り組みは1つのモデルケースとして着目すべき。
※会社名・団体名等は、各団体の商標または登録商標です。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。