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交流創造賞 組織・団体部門

第15回 JTB交流創造賞 受賞作品

優秀賞

JR三江線の廃止を乗り越え“天空の駅”一帯を廃線の聖地に

旧服部医院を再活用する会(島根県邑智郡邑南町)

取り組みによる効果

三江線の廃止が全国的なニュースになり、“天空の駅”の知名度が上がり、廃線直前は多くの人が訪れました。廃線後もトロッコを走らせるなどして、関心を繋ぎ止めることに成功しました。その実績から、邑南町は旧三江線の廃線跡は観光資源になると判断し、JR西日本からの譲渡を受ける決定をしました。

「INAKAイルミ」は、当初は地元の人たちが中心で開催してきました。廃線決定の発表から、宇都井駅への関心が高まるのに合わせて、大学生を中心に若い人たちのボランティアが増えました。島根大学の地域起こしサークル「島大スピリッツ」は、活動の一環として、毎年参加してくれるようになりました。

クラウドファンディングでは、開始前半は起案者の関係者が多かったものの、後半になるほど名前に憶えのない人が増えました。プロジェクトの趣旨に共感した人たちです。その人たちのお陰で、当初の目標金額250万円を大きく超え、330万円あまりの浄財が集まりました。支援者からのメッセージの多くは、ぜひ現地を訪れたい、というものでした。廃線を乗り越えて地域が立ち上がる動きに、賛同をいただいています。

「関係人口」という言葉を目に耳にするようになりました。地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。関係性は、濃い薄いが混在します。クラウドファンディングや“天空の駅”に関心を持つ鉄道ファンは、濃い「関係人口」です。定住に至らないまでも、年に数回、後々まで継続的に宇都井駅やカフェを訪れて、地元の人と交流することになります。

 宇都井地区の少子高齢化社会は50年以上前から進み、若者は都会へ出、限界集落と呼ばれてきました。外の人たちが足を運んでくれ、宇都井の魅力を口にしてくれることで、地元の人たちは手放しかけていた誇りを取り戻すことに繋がっています。自分たちが地域を一所懸命に守ってきたことは決して無駄ではなかった、ということを、確信することができました。

これまでの取り組み期間、継続期間について

・2010年〜 宇都井駅のライトアップイベント「INAKAイルミ」を開催。

・2017年9月〜2019年3月 旧「うづい通信部」を開設し、三江線廃線を惜しむ人たちが集うカフェ&ゲストハウスを運営。

・2018年7月〜11月 トロッコ型車両を使って、来場者数を把握し、満足度を測る社会実証実験を実施。

・2018年 GWや連休に宇都井駅で駅舎開放とマルシェ。夏は階段116段を利用したそーめん流し。

・2019年7月 実証実験結果を受けて、邑南町が宇都井駅と口羽駅、その周辺の取得を決定。

・2019年7月12日〜9月2日 クラウドファンディング実施。

・2019年8月〜11月 新型トロッコ型車両を運行。

・2019年8月〜11月 交流カフェ&ベッド「うづい通信部」を地元の人とボランティアを中心に改修工事。

取り組み体制・組織、財源について

鉄道公園及び宇都井駅の「廃線の聖地化」については、NPO法人江の川鐡道が運営。交流カフェ&ベッド「うづい通信部」は旧服部医院を再活用する会が運営。江の川鐡道は「うづい通信部」の中に事務局を置き、両者は連携を取って全体の運営に当たる。

財源は、クラウドファンディング(達成金額337万円)、邑南町地区別戦略拠点整備事業補助金(500万円)。

今後の展望について

A級グルメの町として、藻谷浩介氏の著書「里山資本主義」で取り上げられ、全国的にも有名になった島根県邑南町。里山イタリアン「ajikura」など、A級グルメを象徴する施設は町の西側が中心でした。“天空の駅”宇都井駅や交流カフェ&ベッド「うづい通信部」は、東側に位置しています。この取り組みを進めることで、観光客が邑南町全体を回遊するようになります。訪問地が多様になることで、お客さんの邑南町での滞在時間が伸びます。

“天空の駅”と鉄道公園は、全国の鉄道ファンが一度は訪れたい「廃線の聖地」として認知を広げます。旧三江線の歴史を展示する資料館として、また休憩場所として「うづい通信部」を利用することになります。

鉄道ファンと併せて、近年増え続ける田舎暮らしに憧れたり、実際に移住を考える人たちが、田舎体験ができる場所として「うづい通信部」を訪れます。AIが進化する時代になるほど、人間の自然を求める欲求は高まると予想できます。広島市内から車で1時間半弱の宇都井地区は、そのような人たちにとって、格好のドライブコースとなります。

鉄道ファンと田舎体験に関心のある人。両者に魅力を発信し続けることで、“天空の駅”と「うづい通信部」は、持続可能な観光地として存在し続けていくことができます。

概要と評価ポイント
【概要】

2018年3月に廃線となったJR三江線の邑南町にある宇都井駅と口羽駅、その周辺施設一帯を観光と交流の拠点として盛り上げていく取り組み。宇都井駅は日本一高い駅舎で“天空の駅”と呼ばれ、また、周辺には邑南町宇都井の歴史を物語る旧服部医院が残されている。この宇都井駅と旧服部医院を中心に、周辺一帯の観光資源・資産を活用しながら、観光人口、交流人口の継続的な増加と地域を活性化させる取り組みを続けている。

【選考委員の評価ポイント】

・ライトアップイベント「INAKAイルミ」やマルシェ、トロッコイベントなど、観光資源の魅力を最大化しながら、鉄道ファンに限らず多くの方々との交流を生み出す取り組みが評価に値する。
・宇都井駅だけでなく、旧服部医院などの周辺の観光資源を再発掘・再利用・再発信することで、「うづい通信部(カフェ&ゲストハウス)」、ワークショップ、交流会など、地域全体を回遊する仕組みをつくっている。
・象徴的な観光遺産や里山の風景、地区の歴史、グルメ、クラウドファンディング財源、鉄道公園構想など、地域資源を活用した交流の促進や活性化、そして持続可能な観光地化計画など、地域が一体となった模範的なプロジェクトとなっている。

※会社名・団体名等は、各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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