旧服部医院を再活用する会(島根県邑智郡邑南町)
舞台は島根県邑南町宇都井。赤褐色の石州瓦で屋根を葺いた家が並ぶのどかな田舎町です。古くは、たたら製鉄と江の川の水運で栄えた地区でした。この70年間で人口は78%減少し、高齢化率は56%の限界集落です。地区を通るJR三江線は、去年3月末で廃線となりました。100キロ以上の路線が廃止されたのは、本州では初めてのことでした。
地区にある旧三江線の宇都井駅は、駅舎の高さが地上20メートル。日本一高い駅舎として“天空の駅”と呼ばれ、廃線のニュースの中でよく紹介されました。
宇都井駅から歩いて3〜4分のところに、以前は病院だった建物、旧服部医院が残されています。95年前、無医村だったこの地区に、地元出身の女性、服部世津子さんが医者として赴任することが決まり、喜んだ地元の人たちが木や板、労力を出し合って建てました。亡くなってからは、35年間にわたり空き家となっていました。
邑南町内にある宇都井駅と口羽駅そして周辺の施設を、町がJRから譲渡を受けることになりました。来年春の開業を予定して、駅を利用した鉄道公園構想が進んでいます。すでにトロッコの試運転も始まりました。訪れるお客さんをもてなす場として、田舎の良さが実感できる場として、旧服部医院をカフェ&ゲストハウスに改修して来春のオープンを目指しています。
〇2010年から宇都井駅をライトアップする「INAKAイルミ」を開催。今年で10回目を迎えます。三江線が廃止になった去年(11月23日.24日)も、2日間で7000人が訪れました。(廃線前、最後の2017年は2万人。)今後の継続も決まっています。このイベントには、のべ200人以上のボランティアが町内外から駆け付けます。
〇2018年3月末の廃線後も、宇都井駅を中心にマルシェやトロッコ乗車体験イベントを開催。集客実績をもとに、邑南町は宇都井駅(口羽駅を含む)と周辺施設の取得を決定しました。
〇築95年の病院跡を改修して、交流カフェ&ベッド「うづい通信部」にします。鉄道公園を訪れる観光客をもてなし、田舎の自然に親しみたいお客さんが寛ぐ場所にします。カフェでは地元の食材を使ったメニューを提供。炭焼きや地酒を楽しむ会、ホタル観賞会など、田舎体験を楽しむワークショップを開きます。
〇宇都井駅を中心に廃線の聖地として認知されることを目指します。宇都井駅は“天空の駅”として認知され、廃線後も、広島を初め、関東・関西・九州からも訪問客があります。「うづい通信部」には、三江線の歴史が分かる写真や本などの資料を展示し、200万〜800万人いると言われる鉄道ファンを呼び込みます。鉄道公園運営を町から委託されているNPO法人「江の川鐡道」と共同で運営します。
10月19日には、「旧 三江線の鉄道遺構について」と題したシンポジウムを開催します。築造後50年が対象となる土木学会選奨土木遺産の認定資格を得る2025年を見据え、宇都井駅の「廃線の聖地化」について機運の醸成を開始します。
〇7月12日〜9月2日の期間で、病院跡改修の資金を集めるクラウドファンディングを実施しました。256人の支援を受け、金額は330万円あまりとなり、目標金額を大きく超えました。廃線を乗り越えて地域が立ち上がる。このプロジェクトは大きな共感を得ました。
〇「うづい通信部」という名前は、カフェ&ゲストハウスとしては妙なネーミングです。活動の中心メンバーに元新聞記者がいます。新聞社の地方での取材出先拠点を〇〇通信部と呼ぶことから、その名を付けました。また会の代表である私は、30年以上放送局で勤務しました。お客さんをおもてなしするだけではなく、マスコミでの経験を活かして、積極的に情報を発信していきます。
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