NPO法人「街なか映画館再生委員会」(新潟県上越市)
支配人の奮闘が目に留まり、各種マスコミ媒体での取材が以前と比較しても増加しました。特にNHKのドキュメンタリー番組で本編及び特別編の二度に渡って取り上げられたことは大きく、上越地域内外での知名度は一気に向上しました。
そんな中、放送を視聴して活動に賛同した地元の若者によるボランティアスタッフが結成されました。各自、映画が好き、建物が好き、街づくりに興味があるなど活動の動機は様々で、ポップづくり、写真撮影等の特技を活かした活動を行い、運営補助に携わっています。それは、皆が活躍できる場を提供し得る可能性が、高田世界館にはあるということも意味しています。
高田世界館では映画の上映のみならず、人形浄瑠璃、寄席、アーティストによるライブやミュージックビデオの撮影、フラメンコの発表など様々な催しも開催することが可能で、「ここでしか味わえない」ステージの魅力を発信しています。近年では「映画館を使って○○したい!」という問い合わせも増加しており、相互乗り入れが可能なハコとしての映画館を舞台にした、様々な活動が今後も展開されることが見込まれます。
前述の「おそうじ会」はフランクに活動に携われる場として、「カレー会」は他者との会話によって異なる観点を共有できるディープな場として好評です。ひとつの目的を共有することである種の一体感が産まれるため、老若男女問わない幅広い年代の参加者へ「つながりの場」や「人が集まるきっかけ」を提供することに成功しています。
2018年(平成30年)には築約90年の町家を改装したカフェ「世界ノトナリ」がオープンしました。場所は高田世界館の隣で、ボランティアスタッフのひとりの「映画を見終わったあとゆっくりお茶や食事を楽しむ場所がほしい」という思いから、友人との共同経営で起業を果たすこととなりました。映画×食事という形で連携しながら、お客様に楽しんでいただける試みを打ち出しています。
・2009年(平成21年)中:「高田日活」営業終了、「高田世界館」と改称。「街なか映画館再生委員会」NPO法人化、運営を引き継ぐ。雨漏り修繕、床と椅子の張り替え、基礎の改修、ステージ拡張工事など。
・2011年(平成23年)中:瓦の修繕。
・2014年(平成26年)3月:現担当の上野迪音氏が支配人に就任。通常上映、トークショー、イベント開催が本格化。
・2014年(平成26年)中:映画館建物の外壁改修。
・2015年(平成27年)中:全国放送を視聴した地元の若者によるボランティアスタッフ結成。建物耐震化工事着手。
・2016年(平成28年)中:パート雇用開始。貸し館イベント、ライブ、PV撮影、応援(発声可能)上映、外国人の方向けのモニターツアーなど…多方面での並行利用も加速化。
・2017年(平成29年)中:支配人による映画の楽しみ方講座、託児付き上映など、多様な楽しみ方の提案を開始。
・2018年(平成30年)中:町家を利用したイベント「雁木フェスティバル」開催、当館も会場利活用で協力。近隣住民や上越市主催による、町家の利活用に向けた会議やワークショップもそれぞれ胎動した時期でもある。また、地元映画ファンによるカフェが本館隣にオープン。協働で活性化を目指す。
上映に関して本格的なDCPシステムを導入。鮮明な上映、封切りに近い時期での人気作品の上映が
可能となる。
・2019年(令和元年):映画館前の民間駐車場を行政取得。NPO設立当初よりの懸案であった映画館前の土地利活用が、行政との協働で可能となり、縁日や青空市場などを開催。今後は舗装工事に着手し、より良い空間利活用を目指す。
見学含む入場者総計
2016年(平成28年) 16,425名
2017年(平成29年) 14,141名
2018年(平成30年) 17,585名
・NPO会費収入、見学料、映画上映収入、貸館料収入、寄付金収入、民間財団や行政等の補助金収入
・NPO法人 街なか映画館再生委員会が運営主体。構成は正社員及びパート。また地域の方々や、ボランティアスタッフが、自発的に運営補助に当たります。
「この会は、上越市本町6丁目にある街なか映画館の維持運営をすること、それを通じて本町界隈の賑わいの創出に貢献すること、又映画、演劇、落語、コンサートなどの事業によって地域文化の向上に貢献すること」
日本映画界では、2013年(平成25年)にフィルム配給が終了し、機材も総入れ替えしてしまい、事実上一般映画館ではフィルムの映画が上映できなくなりました。その為、映画館では観られない作品も出てきてしまうのです。歴史の断絶は何としても避けなければならないと全国で多くの研究者や愛好家が声を上げていますが、経済効率という名のもとに衰退していくのは時間の問題です。
現在、数名の方が簡単な上映技術を会得して手伝いをしてくださるようになりました。今後もこの流れを維持しながらフィルム上映技術を継承する映画館としていきたいと考えています。
上越地域にはシネマコンプレックスが一館、新潟県内には当館を含めたミニシアターが二館存在しています。近年の当館は1スクリーンとしては多い、月に平均約5本の映画を通常上映しており、他館と切磋琢磨しながら営業しています。
東京を始めとする中央都市と地方都市の映画体験の格差の是正、新しい映画文化への出会いや「気づき」の機会の提供、これらの機能により文化面から地域を支えることが可能であると考えています。
映画というメディアの強みは「多様なテーマを有すること」「感情を揺さぶること」、そして高田世界館という施設の強みは「レトロなムードで作品を提供できること」「地域とのキーステーション化になり得ること」です。当館は映画という文化・芸術と地域社会を繋ぐ機能があると言えます。
また、我々の組織としても城下町高田地区の建物及び設備をリノベーションすることにより、映画館に付随する更なる事業の展開を計画しています。それを誘引要素として、追随する事業者を増加させることが、楽しく遊べる街の再構築になると考えています。
市民、行政、大学、商店街の“オール上越”で企画を進行させることで本流及び他流の面白いことを行い、ゆくゆくは周遊性を高める総合文化性をもたせた地域づくりに寄与することを目標としています。
「高田世界館」をメインステーションとした取り組み。NPO法人「街なか映画館再生委員会」は地域の方々との協力をもとに設立された運営団体で、「高田世界館」の保存や上映活動を行っている。日本最古級とも言われる、稀有な歴史的産業遺産・有形文化財である「高田世界館」の魅力を活用・発信していくことで、映画館だけでなく、人々、街、周辺地域の賑わいを再生させることを目標としている。
・古き良き日本の原風景とも言える「高田世界館」の魅力を改めて県内外へと広く発信することで、街の賑わいを創り出し、地域ブランド、市民のプライドやアイデンティティの象徴として、大きな価値をもたらしている。
・映画という既存のコンテンツに、交流を創出するユニークな企画を数多く盛り込むことで、施設の存続のみならず、再生〜さらなる発展を促すことに成功している点を評価する。
・再生を遂げる高田地区において、そのランドマークとしても注目を集め、今後も地域と観光客の交流のハブとして期待できる。また、このような地域市民主体での文化・芸術的取り組みの存在意義は大きいと考える。
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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。