みのわの里のきつねの嫁入り実行委員会(群馬県高崎市)
最初は地域公民館活動の着物着付け教室から産声を上げました。そこで上がったのは、「自分で着られる様になったが、着る機会が無い!」。この声に応えるべく、地域に伝わる忘れられた昭和30年代の貰い祝儀を再現し、さらに地域の伝統として映像資料をつくって町の図書館に収蔵することで儀式の伝承を図りたいと、当時の衣装・料理・式次第を再現しました。このことを契機に、新しい伝統文化を自分たちの手で創造したいという強い思いにかられ、隣の父ちゃん・母ちゃんたちのエネルギーを結集することになりました。生きがいを見出せる事をテーマに、地元が誇る国の指定遺跡「箕輪城跡」と和装文化を融合させ、稲荷曲輪のきつねの姿を借りて異次元の世界へと誘う〈まつり〉を毎年創っています。地元は都市部から離れ、高齢化による活気減少や多世代が楽しめる行事が少ないという課題を抱えています。秋の夜の夢物語ではありますが、「何も無い」と言われている忘れられた地域の起爆剤に、さらに地域住民が楽しく遊び、郷土愛を生み出す心の拠所として育てたいと考えています。
この地域には、西暦1500年前後に長野氏が築城した箕輪城がありました。その後、武田、織田、北条、徳川と次々と主を変えましたが、その度に各大名の有力家臣が城主として配置された歴史があります。剣聖と名高い上泉信綱が仕えた長野氏滅亡の悲哀を、廃墟となった箕輪城に住み着いたきつねの幻想とともに描く創作野外劇を、実行委員や公募で集まった住民が練習を積み重ねて演じます。劇中では昭和30年代前半まで箕郷地域で行われていた伝統的な婚礼儀式の輿入れ行列と三三九度による祝いの宴の場面も当時の衣装で再現されます。かかあ天下で知られる群馬のパワフルなおっかさんたちが、数十人分の着付けやメイクで大活躍します。劇終盤にはきつねのお揚げがキャストから観る人に配られ、最後まで楽しんでいただいています。
地域に愛されるイベントとして、きつねメイクをした花嫁行列を各種行っています。箕郷地域の小学生を中心に実行委員会所有の着物を着て地域内を練り歩く「子ども花嫁行列」、自前の着物を持ち寄ったり独自のきつねメイクをして老若男女が参加できる「華行列」、実際の夫婦やカップルが花嫁花婿を務めることもある「大人の花嫁行列」、そして夕闇の中、里山からあらわれ、篝火のもとで幻想的な「輿入れ行列」を行います。後者2つの行列では、箕郷地域の伝統である、婚礼の際にお太鼓(結び)を前にした「お待ち女房」と呼ばれる女性が花嫁に付き従います。毎年4種の行列で150人以上が参加して賑わいます。
地域の新しい伝統行事として継続性のあるものにするため、一緒に盛り上げてくれる若者を募集しています。きつねメイクと華やかな着物を着てコンテストを行い、観客の投票によって見事選ばれた「ミスきつね」には、年間を通して一緒にPR活動をしていただいています。同時に、フォトコンテストも行っているため、多くの方がカメラを構えてコンテスト参加者や行列、野外劇、ミスきつねを撮影し、入賞作品は毎年市役所などに巡回展示されています。老若男女を問わず、当行事や箕郷地域、着物文化に興味を持ってもらえるように、実行委員会もSNSなどを用いて情報を発信しています。
以上の①〜③を主活動として、イベント当日は他にも「きつねメイクと着物のファッションショー」を行ったり、会場を茶席や雅楽、木遣り、剣舞などの地域住民の活動発表の場にしています。さらに年間を通して、様々な地域で行われるイベントなどに出前行列として参加したり、市の児童文化スポーツ連合会のメンバーとして小学生による「きつねのお面の絵付け教室」を開催するなど、様々な取り組みを行っています。
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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。