JTB交流創造賞

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交流創造賞 組織・団体部門

第13回 JTB交流創造賞 受賞作品

最優秀賞

被災地域再生に挑め。「仙台の農村」を活かした学生の挑戦

一般社団法人ReRoots (宮城県仙台市)

日本中が不安と恐怖にさいなまれた東日本大震災。仙台市中心部にあり東北大学にも近い川内コミュニティセンターには、学生を含めた地域住民が暗闇の中で身を寄せていました。すべてのインフラがストップした混乱のなかで、地元住民とともに大学生たちは避難所運営ボランティアを開始しました。

比較的内陸にあり、被災も大きくなかった川内コミュニティセンターは約1か月ほどで避難所としての役割を終えました。だが、学生たちは避難所運営を行う傍ら、仙台市のボランティアセンターに登録して沿岸部の津波被災地に赴き、がれき撤去などのボランティア活動にも参加していました。

どこに行っても直視できない惨状ばかり。

しかし、行政のボランティアセンターはお役所体質があり融通が利かず、民間のボランティア団体は自分の熱意でなんでもやろうと引き受けてしまう状況。

「こんなにも悲惨な状態から、自分たちはどうしたら被災者の生活を回復できるのか?」

行政にも民間のボランティアにも欠けていたのは「被災者である当事者の目線」がないこと。この避難所運営ボランティアと沿岸部でみた実体験から、学生たちは自分たちでボランティア活動を行おうと団体発足を決意しました。

仙台市若林区沿岸部には、南北10キロ東西5キロにもわたる広大な農地が広がります。だが、すべての農地ががれきだらけで、家や車だけでなく農業機械もビニールハウスも流出し、農家の生活再建が困難な状況でした。

そこで、学生たちは農家の目線に立って、生活の回復までを見据えた長期的支援の必要性があるという考えにたどり着きました。

がれきを撤去し農地を回復する復旧支援、次に営農を再開する復興支援、さらに過疎化や農業後継者不足を改善する地域おこしへと、被災からの再生を「復旧から復興へ、そして地域おこしへ」のコンセプトにまとめ、若林区の農業と農村の再生にむけて持続的・長期的に支援することに決め、震災から約1か月後の4月18日、震災復興・地域支援サークルReRootsを発足させました(2012年10月一般社団法人登記)。

農家の立場に立って、相手の目線から生活を取り戻すには、まず農地を回復させなければなりません。そこで、7月にReRoots若林ボランティアハウスを設立し、全国から農業支援ボランティアを受け入れました。

ひっきりなしに寄せられる「畑のがれきを取ってほしい」「側溝のヘドロをかき出してほしい」といった住民の依頼を受け、スコップで畑とは思えない固い土を一刺ししながら、土の中に埋まっている細かいがれきを手で取り除いていきました。

その時に心掛けたのは、相手のことを考え「今どきの学生らしさ」を排除し、信頼される労働をすることでした。

全国から来たボランティアには、依頼する農家がどのような人なのか、作業する農地ではどのような野菜が植えられてきたか、どれほど農作業に熱意があるのか伝え続けました。

作業に入れば、全力疾走、手を抜かない。へらへらしない。

土を掘りだす労働がどれほど大変かは、農家自身が知っている。それでも丁寧にがれきを掘り出す姿が信頼を生みだす。そして、参加するボランティアの方々から見ても、本気で復旧に取り組んでいる姿が認められなければ応援されない。学生であっても責任は社会人と変わらない。

それでも周りを見ることを忘れず、どうすればより相手のためになるのかを考えることをやめはしない。

その学生の姿勢が評判を呼び、2014年3月までに延べ3万人にも及ぶボランティアを受け入れて500件近い依頼をこなし、無事復旧支援活動は終了。

この復旧支援そのものが農村へのボランティアツーリズムの役割を果たしていたことは重要な成果といえます。

復旧ボランティアを行いながらも、これだけでは本当の復興はできない。本当に成し遂げたいことは、農家の生活再建であり、コミュニティの再生であり、地域に人々の往来が増えること。

「地域の方が望む復興を成し遂げるには?」

復旧段階のがれき撤去活動が2014年に終了する前から、学生たちは復興段階の取り組みを見据え農家から悩みを聞き、行政の政策も調査して、復興段階の課題を明らかにしました。

①農業の再生② コミュニティの再生③ 景観の再生④防災の4点に課題があることを分析し、それに対応できるようにチームを編成して、各プロジェクトを創作、実施することにしました。

若林区沿岸部は、被災後、個人農家が激減し、集団化・法人化・大規模化が進みました。

被災前は把握しているかぎり集落営農組合と法人は3つしかなかったはず。だが、震災後は13法人にも激増。しかし、平均年齢66歳を超えた農家が初めて行う法人経営は簡単ではない。しかもそのおよそ半数には若手の後継者はいない。

これでは10年後も農業は続いているだろうか?

一方、もともと被災地域には約1500世帯が住んでいたが、被災後はたった400世帯に激減し、2つあった小学校も両方閉校した。過疎化と高齢化の勢いはとどまることを知らない。

このような現状においてもともとの豊かな農村である若林を復興させるには、「農業とコミュニティの再生」と「地域資源を活用した魅力発信・人の往来の促進」が必要だと考えました。

そして、仙台の地元大学生が、住民とともに実際に野菜をつくり、コミュニティ形成のための話し合いを行い、地域資源を生かしたグリーンツーリズムを行い、被災農家の野菜を販売するといった、多岐にわたる活動に取り組みながら若林区の復興を目指しています。

取組内容

❶地域資源を活用した魅力発信・観光促進

①わらアート

2015年2月にReRootsが取り組み始め、12月の仙台市地下鉄東西線開業イベントの展示で一躍人気になりました。津波被災から再開した田んぼでとれた稲わらを農家から無償で譲り受け、高さ約4mにも及ぶオブジェを制作します。

再開した田んぼでできたお米はまさに「復興」の象徴。

稲わらは古くから生活に欠かせない「農村文化」の象徴。

再び米がとれる状態まで回復したことを、農村特有の資源を使ってアピールするのです。

地下鉄東西線開業イベントには3万人、2016年からは津波被害から復旧した仙台市農業園芸センターに会場を移して実施し、3か月弱で約8万人が来場。

若林区役所、街づくり協議会、農業園芸センター、被災農家、地元の小学校(授業でつくった田んぼの稲わらを提供)と協力して実施しており、まさに農村資源を活用し、若林区に人を呼び込むイベントへと成長しました。

2017年度は地元商店に募金箱を設置する協力店が現れ、オープニングイベントには3000人が来場。子どもたちは恐竜に大喜びし、大人も作品のクオリティに驚き、3年目にして地域の行事に定着しています。9月17日から12月3日までの展示期間に8万人以上の来場者を目指しています。

②おいもプロジェクト

農業を通じたグリーンツーリズムとして、2013年から取り組んでいます。

被災した畑を再生させ、定植・生育管理・収穫といった年3回のプログラムで、サツマイモと里芋の生育を通して食育体験・農業体験・自然体験を行います。

各回約30名の親子連れや復旧支援当時からのボランティアが参加し、年間累計約100名が参加。

土に触れるだけでなく、地元農家や住民と一緒に郷土料理(ずんだ、漬物、芋煮など)をつくったり、農家から講話をいただいたりして、住民と参加者の交流、継続的な参加による若林区のファン拡大のために、顔と顔のみえる近い関係で企画を行っています。

③市民農園

若林区六郷地区に設けた三本塚市民農園では、被災地外から家庭菜園をしたい市民を呼び込み、継続的に畑づくりに来ることで人の往来を創出するとともに、地域住民との交流を通じたコミュニティ再生を行っています。

2017年は20区画中16区画が利用。市民農園は単発の往来ではなく、毎週野菜管理にやってくるので、持続的な往来を実現しています。

さらに春には歓迎会、夏にはBBQ、秋には芋煮会、冬には漬物づくりと地元住民やReRoots、利用者と一緒に各回20名程度の参加でイベントも行い、個人の家庭菜園としてだけの役割では終わらず、過疎化した地域の交流づくりとして機能しています。

❷交流促進

●ReRootsと住民の交流、往来の促進

被災した若林区沿岸部に若者はいません。

そもそも仙台市中心にある都市部から沿岸部の農村に人は訪れようとはしません。

だが、ReRootsが存在することで街中の大学生が毎週沿岸部の農村にやってきます。

これ自体が震災復興を条件に被災地に若者を呼び込み、地域に愛着を持ち、被災住民や農家と交流しながら復興を目指すという、交流と往来が生まれる仕組みそのものになっています。

現在のReRootsの大学生は約80名。そのメンバーが野菜づくりや野菜販売、町内の祭りや企画にやってきます。

毎年新しいメンバーが入り、若林区の復興のために地元密着で活動。

そして、野菜づくり、野菜販売、家庭訪問、祭りの手伝いなどの各プロジェクトを実施することで住民と交流し、住民自身が復興に立ち上がれるように促す役割を担っています。

各プロジェクトの実施においては、家庭訪問を行い、地域で抱える問題を聞いたり、高齢者の話し相手になったり、プロジェクトの実施を共同で行ったりします。

復旧支援のころは約150件の被災農家の支援に入ることとで地元で信頼され、復興段階では各町内会と協力した祭りや行事の実施、花壇や神社の美化活動の共同実施、地域課題を解決するためのワークショップの実施などを行って、もはや地元の一部として定着しています。

❸事業化

●野菜の移動販売

震災直後の農家は、復旧できたとしても販路がないという問題がありました。

そこで、2012年11月に仙台駅前で「庶民の台所」として親しまれている仙台朝市に「若林区復興支援ショップりるまぁと」を開店させ、被災農家の野菜を販売。

これは被災地の様子を市街地に伝える役割を果たし、若林のアンテナショップとして愛された。

その後、災害公営住宅の建設に合わせて、野菜の移動販売へと移行。

「被災地でとれた野菜は地元で消費してほしい。そのためには地域の人に野菜の魅力を認識してもらう必要がある。」

2014年8月に若林区荒井地区で「若林とれたて野菜お届けショップくるまぁと」をオープン。

毎週土曜日に軽トラックの移動販売車でReRootsの学生が育てた野菜と被災農家(5軒)の野菜を販売し、地産地消を促す取り組みを行っています。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

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