JTB交流創造賞

  • トップページ
  • 受賞作品
  • 第15回JTB交流創造賞選考委員

交流創造賞 組織・団体部門

第12回 JTB交流創造賞 受賞作品

選考委員特別賞

「芸能の都・大阪!」〜the capital of performing arts in Japan!

公益財団法人 山本能楽堂(大阪府大阪市)

大阪は、関西の経済・文化の中心地であり、西日本最大の都市であるが、一般的には「文化レベルが低いまち」「危険で訪れたくないまち」「下品で教養のかけらもないまち」といったステレオタイプ化されたイメージを持たれがちであった。しかし、本当の大阪の姿は、全く逆である。太閤秀吉が能を愛好して以来、大阪では「嗜む文化」が形成され、文楽、上方歌舞伎、上方落語、上方講談、浪曲など、豊かで多彩な芸能が生まれ、現在まで育まれてきた。大阪、実は他に類を見ることのできない「文化集積都市」である。この大阪が本来持つ文化資源を、観光に活かし、地元の誇りを喚起し、連携を生み、地域活性化につなげていくことができればと活動を続けてきた。

そして、この取り組みにより、大阪のイメージを「下品で訪れたくないまち」から「歴史と文化のある上質な憧れのまち」へと転換し、多くの人々に愛されるまちにしたいと思い、活動を続けている。

大阪は古くは大坂と表記され古都としての歴史を持ち、飛鳥時代の難波長柄豊崎宮や、住吉津、難波津を起源に持つ港湾都市であった。江戸時代にはほぼ現在の大阪市の中央部を町域とする大都市となり、日本経済の中心として栄えた。

また、能楽は、約700年の歴史を持ち、それまでに発祥した舞踏・劇・音楽などさまざまな要素を取り入れ、観阿弥・世阿弥親子によって大成され、足利義満の庇護をうけて発展した。そして、大阪において、特に豊臣秀吉が能の愛好家として能に熱中したことが転機となり、能面や能装束をはじめとして全てにおいて秀吉好みの豪壮なものとなり、大きく発展をとげた。秀吉は、大阪城に能舞台を作らせ、自らも舞台に立ったといわれているが、秀吉によってそれまで「観賞して楽しむだけ」であった能に「自ら演じ、舞う楽しみ」が生まれ、以後大阪では「嗜む文化」がうまれた。

その後、大阪では江戸時代になって文楽や上方歌舞伎が生まれ、その後上方落語や上方講談など様々な芸能が育まれ、それらの芸能は今なお演じられ続けてきている。それらの芸能を底辺で支えたのは、芸能を稽古し嗜む人々が、分厚い観客層になったからである。大阪はいわば、多彩で多様な芸能が育まれた「文化集積都市」ということができるが、現在の大阪は、「下品で教養のかけらもないまち」「お笑いとコナモンだけのまち」「危険で文化度の低いまち」といった、本来の姿とは全く逆のステレオタイプ化されたイメージを持たれがちである。

本来の大阪は「芸能の都」であるということができるが、これほどまでに豊かで多彩な芸能が育まれ今なお継続して演じられ続けているまちは他には類をみない。京都や奈良は大阪よりも豊かな文化を持つイメージを持たれがちであるが、実は大阪にはかなわない。大阪こそが「芸能の都」である。しかし、現在の大阪は、その貴重な文化遺産を観光資源として、あるいは地域の個性ある地域資源として活用されていないように感じている。同時に伝統芸能が伝えられるために、その周辺で同時に培われてきた、上質な大阪を演出する大阪人の知恵や工夫、ものづくりの精神も一般にはあまり理解されていない。

そこで、この貴重な地域地減である「芸能」を、観光資源として活用し、大阪の本来の魅力を伝え、国内外から多くの観光客が大阪に訪れることで、地元住民にも「大阪人としての誇り」を喚起し、地域活性化につなげていくことができると考え、平成18年に大阪商工会議所の指導の下、大阪市、財団法人大阪観光コンベンション協会(現:大阪観光局)の協力を得て、事業化に取り組み、平成18年大晦日に「初心者のための上方伝統芸能ナイト」公演を開始し、現在まで約150回公演を繰り返し継続して実施することで、約10年間、大阪の地域活性化につとめてきた。

10年前にはなかった取り組みを、芸能に携わる者同士の連携をはかることで実現化し、継続して実施する中、本事業が全国の伝統芸能を介した地域活性化に新たな可能性を提示し、大きな影響を与えてきたと自負している。

目的

■伝統芸能の演者たちが協力して企画・出演し、地元住民や観光客が楽しめる新たなエンターテインメントを提供することで、大阪の文化度の高さをアピールし、その魅力によって内外からの観光集客につとめ、「ほんものの大阪の魅力」を発信すること。

■大阪は、他に類をみない「文化集積都市」であり、大阪でしかできない、大阪で生まれた、大阪独自の公演を実施することによって、大阪を他の都市と差別化し、大阪独自の魅力を確立し、強力に発信すること。

■昨今、大阪は、たこ焼きやお笑いだけのまちであると思われがちであるが、「ほんものの大阪」は全国の他のどの地域よりも多彩な芸能が育まれた「文化集積都市」であり、その豊かな文化をアピールすること。

■大阪は「危険で訪れたくないまち」というイメージを持たれがちであるが、そのマイナス面を払拭し、文化の力で大阪を元気にし、大阪を活性化し「訪れてみたい憧れのまち」へとイメージを転換すること。

■地元住民に、本来の大阪の「文化集積都市」としての面を周知し、「大阪人としての誇り」を喚起しすること。

■海外からの観光客ならびに日本在住の外国人にも「文化の香り高い大阪」のイメージを伝え、楽しんでいただくことで、世界の中で大阪の認知度を上げ、「訪れてみたい憧れのまち」として大阪のインバウンドの増進に寄与すること。

■「上質な大阪」という本来の大阪の姿を広く周知し、観光集客、地域活性化に役立てること。

取り組み内容

【 地域資源の活用について 】

大阪では、約700年前に生まれた能楽、約400年前に生まれた文楽、上方歌舞伎、約200年前に生まれた「落語」「講談」そして約100年前に生まれた「浪曲」など、多彩な芸能が途切れることなく現在まで上演され続けてきている。しかし、趣味や娯楽が多様化した現代において、これらの「伝統芸能」は、若い世代を中心に「敷居が高い」「自分とは関係のない特別なもの」といったイメージを持たれてしまいがちな傾向がある。しかも、伝統芸能はどこで上演されているのかさえわからない場合も多く、また、劇場に足を運んだとしても、1公演の上演時間が数時間から半日程度かかってしまうことが多く、初心者や観光客に敬遠されがちの現状があった。

そこで、この貴重な大阪の文化資源である「上方伝統芸能」を観光に活かし、もっと気軽に楽しんでいただく方法がないかと、大阪商工会議所の指導の下、リサーチを行い、模索し、伝統芸能に携わる演者とも調整を行い、「初心者のための上方伝統芸能ナイト」公演を平成18年に立ち上げた。

具体的には、大阪に伝わる「上方伝統芸能」である、能、狂言、文楽、上方舞、上方落語、上方講談、浪曲、女道楽、お座敷遊び、活動写真などの中から、一晩に4種類の芸能を面白い部分のみを「ええとこどり」で次々と上演する、上方伝統芸能のショウケース的な公演である。一つの演目の上演時間は、約20分程度の「飽きない程度の時間」に設定し、一番最初に出演者がトークで各芸能の見どころを話し、落語家が司会と演目の間を解説でつなぐことで、初心者でも気軽に上方伝統芸能を楽しむことができる。さらに途中に「体験コーナー」を設け、客席から観客の3名が舞台に上がり、芸能を体験することで、参加者の芸能に対する理解が深まり、客席と舞台の距離が縮まり、会場全体の一体感が増すよう工夫をこらしている。この公演は、いわば「デパ地下」の試食コーナーのような催しであり、参加者が各芸能の面白い部分を「つまみ食い」することで、おいしい部分のみを楽しみ、また気に入った芸能があれば、本格的な公演に誘導するしくみもつくり、上方伝統芸能の世界全体の活性化にもつなげている。

プログラムの一例
18:15〜  開場(場内で軽食を提供)
19:00〜  開会(落語家による挨拶)
19:05〜  各芸能のみどころトーク
19:20〜  落語上演 
19:40〜  お座敷遊びの解説
19:45〜 お座敷遊び 上演
20:00〜  体験コーナー
(お客様のなかから3名に舞台に上がっていただき、 伝統芸能を体験していただきます)
20:20〜  上方舞の解説
20:25〜  上方舞上演
20:40〜  能の解説
20:45〜  能上演
21:00〜  閉会&アンケート記入

【 観光や交流の促進について 】

①充実した内容の「配付資料」を用意し、「字幕」を掲示することで、観光客や初心者でも気軽に大阪のほんものの文化に触れ、楽しむことができるよう工夫をこらし、観光客の集客に役立て、観光促進を行っている。

②外国人対応にも、事業開始当初より取り組み、独自のノウハウを蓄積し、日本人も外国人も同じように楽しめるよう事業を実施し、日本文化の本質を外国人が楽しみ、理解することで、草の根的ではあるが、国際交流・親善につとめている。

③日本人・外国人ともに観光客の受け入れ施設となり、内外からの団体客も訪れ、観光による文化交流の役割を担っている。

【地域の活性化や事業化について】

①山本能楽堂は、現存する大阪で一番古い能楽堂であり、木造3階建の定員227名の昔の芝居小屋と同程度の収容人数であり、現代の他の劇場に比べ客席と舞台との距離が通常よりかなり近く、演者の息づかいや汗などが直接感じられ、しかもマイクを通さない「生音」で公演が可能である。古典芸能の楽しさや魅力は、そのような空間でこそ生き生きと伝わると考え、本事業を実施している。

②山本能楽堂は「国のたから」として、文化庁の「重要建造物等公開活用事業」の採択を受け、平成23年度より3年間、文化庁の初のモデル事業として改修工事を行った。この事業は、国登録有形文化財の衛生面、機能面を改善することにより、国登録有形文化財を訪れる人を増やし、地域の観光振興に役立てることを目的に実施されたもので、改修後は国内外からの観光客が増加した。この事業の採択を受けるにあたり、「初心者のための上方伝統芸能ナイト」公演を継続して定期的に実施していることが高く評価され、芸能と観光振興を結びつけることができた。

③他の都市にはない、大阪独自の観光商品として、大阪を訪れる外国人に大阪が豊かな文化が育まれた文化集積都市であることをアピールし、MICE参加者など文化レベルの高い外国人観光客にも、「本物の日本文化」を知ることができるとして高く評価され、高い満足度を得ている。

④伝統芸能の演者間のつながりは、これまで希薄であったが、本事業を通して、新たなつながりや関係性が生まれ、本事業の楽屋から新たな公演の企画が生まれ、上方伝統芸能全体の活性化に役立っている。

⑤本事業の内容をふまえた貸切公演などの要望も多く、上方伝統芸能を活用した新たな雇用や経済効果を生みだしている。

⑥個別対応の貸切公演などは早朝など、あらゆる時間帯に対応をし、観光振興に役立てている。

⑦インバウンド推進に約10年間携わらせていだたいたノウハウを集積し、上方伝統芸能の海外に向けての普及に貢献している。

※会社名・団体名等は、各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

  • 受賞地域のいま
  • 受賞地域の取り組み
  • 交流創造賞 組織・団体部門
  • 交流創造賞 一般体験部門
  • 交流創造賞 ジュニア体験部門

JTBの地域交流事業