JTB交流創造賞

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交流創造賞 一般体験部門

第11回 JTB交流創造賞 受賞作品

優秀賞

障害があっても旅は楽しめる!「旅を楽しむための6箇条」

西本 幸司

雨が降った最悪のシナリオを想定し、「ホテルステイを楽しむ」というプランを、出発前に打ち出していたから、何の躊躇もなく、やるべき行動は、すぐに切り替えられた。ホテル内では、変化に富んだ、美しいマウントクックの写真が、随所に飾られていて、(こんな美しい山の近くに来て、すぐそこ目の前なのに見られないなんて!こういう写真、私も撮りたかった…)と、恨めしそうに見て、回った。お土産売り場では、絵葉書も沢山、販売されていて、気に入ったものを5枚購入した。そのうちの1枚が、後に、この旅、(最高に素晴らしく、楽しい旅だった)と、感じさせてくれる事を、この時の私はまだ知らない。

翌朝、跳ね起きるなり、窓の外を見る。が、まだ雨模様。その雨、昨日よりは小降りになっていたものの、依然として山は見えない。仕方なしに、泣く泣く荷物をまとめてチェックアウトを済ませ、ガイドが迎えに来るのを待った。その時間、1時間ほどで、この間に少しずつ晴れて来て日差しが差し込んだが、肝心の山は長雨で、まだ霧が濃くかかったまま。ここは、ガイドが来るまでに霧が晴れてくれるのを祈るしかない!もう、時間との戦いだ。しかし、無情にも霧は晴れてくれず、こうしている間にガイドが来てしまった。そのガイド、昨日と違う気さくな人だった。「雨で何も見れなかった…」と、落胆の表情で答えると、「分かりました。大丈夫!」と言って、なんとOKサインまで出してくれたのだ。(えっ?それってどういう事?まさか、見れるって事??)なら、もう最後の望みは、このガイドだ!(全てを託そう!!)これで、完全に諦めていた私たちが、ガイドに対する期待は、いや応なく高まった。かくして結局、何も見れぬまま、マウントクック地区を出発した。

クライストチャーチ空港まで移動する車中は昨日に続き、ガイドと私たちだけだ。しばらく走った所で、いきなり停まった。「2人だけで時間があるので特別、見れるかは分からないけど、ここで少し待ちましょう」と、ガイドが言った。(お願い!最後のチャンスだから!!)と、必死で祈りながら待っていると、徐々に霧が晴れ出し、ついに、マウントクックがその姿を現した。「見える!見えるよ!!」歓喜の声を上げて山の方を指す妻。でも、私には遠くの山を見る事が出来ない。そこで、ようやく用意していた、超望遠レンズの出番。カメラに装着したレンズを通って、ファインダー内に映ったその「山」は、くっきりと私の目と脳裏に深く焼き付いた。「見える!これが世界に名だたる名峰!夢にまで見た、マウントクック!!」妻に続いて歓喜の声を大きく上げ、思わずガッツポーズ!「やった!ついに見たぞ!!」もう感無量で、妻もガイドも笑って、一緒に喜んだ。

山を見ながら無我夢中で写真を撮り、この後も特別で別の絶景ポイントにも、いくつか案内してくれて、見る場所によって様々に表情を変える山を、心ゆくまで堪能し、デカポ湖を経て、当日中にクライストチャーチ空港経由で空路、オークランドへ。その翌日、(どうにか、こうにか見るもの全て、見られた)と、胸をなでおろしながら帰国の途に。でも“旅のドラマ”は、これで終わりではなかった。

帰国後、旅先で撮った写真をPCに取り込んで、マウントクックの画像を初めて見た時だった。(…この画像、見た事がある)初めて見るものなのに、以前に、どこかで見た事がある感覚…。(なんだろう?これ??)考え込んで私は、はっとした。(そうや!あの時の絵葉書の写真だ!!)その1枚を取り出し、PCの画像と照らし合わせて、自分の目を疑った。驚く事にその画像は、絵葉書と全く同じ場所と風景だったのだ。しかも、フレーミングした構図まで、非常に酷似していた。これには正直、驚いた。絵葉書の写真は大概、よほどの絶景でないと商品化されない。(そんな素晴らしい場所に行って、そこに私は立っていたんだ!)あとになって気付いた事だったが、(これまた、運がいい!雨で泣いたけど、こんな偶然って、そうはない。凄い経験を私はしたんだ!!)なんだか最後に、超特大ホームランを打った気分で、最高に素晴らしく、旅を楽しんだ感じがした。

旅は、最後の最後まで、本当に何が起こるか分からない。だから「何でも、用意周到にいって、屈強な体力で、無理をせず、欲張らず、常に探究心を持って、最後に、運」の「旅を楽しむための6箇条」という自身の、旅のスタイルを貫いたからこそ、このような巡り合わせと、奇跡を呼び起こせたんだと思う。だからこそ、障害が二重にあっても、旅は本当に楽しめる!どんな状況に陥っても、この「6箇条」さえ、うまく噛み合えば“最高に素晴らしく、旅は楽しめる”という事を私自身、確信している。この旅を通じて今後も、そのスタイルを貫き、進化させながら、真の“トラベラーズ・プロフェッショナル”になれるよう、更に磨きをかけたい!と、感じさせてくれた思い出深い「旅」となった。

概要と評価のポイント
【概要】

聴覚と視力に障がいがある筆者は「6か条」を信条に旅を楽しんでいる。妻とニュージーランドに出かけたがあいにくの雨。6か条の「無理をしない」に従うが、最後にガイドの機転で素晴らしい光景に出合う。

【評価のポイント】

旅行への熱意や、自分が見る風景を目に焼き付けようという気持ちがよく伝わってきた。障がいがある方でも楽しめるよう、受け入れの整備がますます進むようになってほしいと感じた。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

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