JTB交流創造賞

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交流創造賞 組織・団体部門

第11回 JTB交流創造賞 受賞作品

優秀賞

漁師が帰りたくなる港へ
―気仙沼つばき会による女性目線の観光・まちづくり

気仙沼つばき会 (宮城県気仙沼市)

宮城県気仙沼市は、かつて日本一の遠洋漁業の基地として栄えた港で、現在でも魚市場とその周辺の水産業が町の中心産業です。しかし、近年魚価の低迷や漁獲量の減少により、徐々に港の体力が失われてしまっています。水産業は市の中心産業。港がうるおわなければ、陸も潤いません。

かつて気仙沼の港は、航海に出る船を見送る「出船送り」でにぎわっていました。威勢のいい演歌を流しながら港を出ていく漁船、風に舞う七色のテープ、手を振り見送る人々…。しかし、そんな風景は、漁業資源保護のための減船(漁船を減らすこと)、収益性の低下による外国人船員の増加などにより、だんだん規模も小さく、少なくなっていきました。

漁師さんたちが挑む海の険しさは変わらないのに、活気だけが失われていく。かつて港を彩った風景が、徐々に失われていく―。

そんな状況に危機感を抱き、市内の女性でつくる「気仙沼つばき会」が始めたのが、一般市民や観光客を巻き込んだ新たなる「出船送り」です。それまでは、家族や関係者だけで行っていた出船送りですが、出船情報をつばき会が収集し、メールで発信。希望者からなる「出船送り隊」が、その情報をもとに勝手連的に出船送りができるようにしました。「長く危険な漁に出る船出の際に、せめて大勢の人に安全と大漁を願って出航してもらいたい」。そんな思いが、活動の原点です。

荒れる海に命がけで魚を獲りに行く漁師の生き様。船上にいる夫の代わりに、陸の家庭生活を守る女性の強さと明るさ。日本全国から来る漁師さんたちを迎える港町だからこその、飾らないおもてなし文化。

漁師・港町文化は、まさに気仙沼の生き方の根底でもあり、貴重な観光資源でもあります。「漁師が帰ってきたくなる港町」を作ることで街のにぎわいを維持し、さらにその文化や人、にぎわいに触れるために訪れる人を呼び込んでいく。気仙沼本来の文化を核としながら、街を活性化していけるよう、活動を継続しています。

取り組み内容

また帰ってきたい港へ「出船送り」

気仙沼において、古くから行われてきた「出船送り」。

減船や漁獲量の減少により、その港の風景が失われてきたことに危機感を抱いたことから、気仙沼つばき会では、関係者だけではなく、広く市民へ、観光客へとその取り組みを開いてきました。

まず、元々関係者にしか知らされなかった出船の情報を、漁協や船主さんとの交渉を重ねて、つばき会にお知らせいただける体制を作りました。一方で、希望者を募って「出船送り隊」を結成。メーリングリストでつなぐことで、いただいた出船情報を広く市内外に発信できるようになりました。今では観光案内所の入り口でも、出船の日時がお知らせされています。

出船を彩るため、つばき会オリジナルの「福来旗(ふらいき=大漁旗)」を製作。1本1,200円で販売することにより、新たな気仙沼名物の誕生と、活動資金の確保の両方につなげています。

出船は基本的には単船で行われ、漁の状況などによって直前に日時を定めることが多いため、観光客に周知するのは困難でした。しかし、漁の解禁日があり、船が一斉に出漁する「サンマ漁」に目をつけ、今では年に一度、約10隻が一斉に出漁する姿を大勢の人が見送る「サンマ船出船送り」も恒例化しており、多くの市民、観光客の呼び込みに成功しています。

産地のど真ん中で朝ごはん「市場で朝めし。」

かつて「東洋一」と言われた気仙沼魚市場は、気仙沼の港文化の象徴でもあり、観光スポットでもあります。魚がずらりと並ぶ姿は圧巻ですが、普段は一般の市民や観光客は2階に設置された見学デッキからしか見ることができない、「聖域」でもあります。

この「聖域」を解放し、市場を巨大な朝食会場へと変貌させるのが、「市場で朝めし。」です。もともとは、「ほぼ日刊イトイ新聞」主催のツアーが催行された際に、気仙沼を訪れるお客さまに美味しい朝ごはんを食べてほしいと、旬のサンマ焼きとご飯でもてなしたのが始まりでした。しかし、産地のど真ん中である「魚市場」で食べる朝食の現場感とプレミア感が非常に好評で、かつ気仙沼らしいと評判になり、2014年からは市の伝統行事である「気仙沼産業まつり」と同時開催で継続しています。今年も10月18日に開催予定であり、3年連続の開催となります。

普段「食品」を扱う市場であり、また第1回の開催時には、東日本大震災からの復旧も重なっただけに、多くの人が訪れるイベントに市場を利用することには、高い壁がありました。しかし、漁協など関係団体との交渉を重ねて実現にこぎつけました。今は気仙沼市内の水産・観光・物産関係者が総力を挙げて取り組むイベントの一つとなっています。

漁師文化の発信ツール
「気仙沼 漁師カレンダー」

港町文化の根っこにいる人たち、それが、「漁師」です。彼らが気仙沼港に魚を水揚げしてくれなければ、気仙沼市の市場も水産加工も、仕込みも造船も、ひいては飲食もサービス業も成り立ちません。

まさに気仙沼を一番下から支えてくれている「ヒーロー」である漁師さんたちに、ぜひとも表舞台に立っていただきたいと始めたのが「気仙沼 漁師カレンダー」です。2013年に一作目(2014年分/2,000円)を作成し、2014年はお休みしたものの、2015年は再び制作しています。

海を見据える力強いまなざし、力がみなぎる腕…。海の上で戦う漁師さんたちのたくましく凛とした姿を写真で伝えるとともに、海に抱くロマンや気仙沼の復興にかける熱い思いなどのメッセージを盛り込みました。一作目となった2014年分のカレンダーは、写真家の藤井保氏に撮影にご協力いただき、制作した5,000部すべてが完売。第65回全国カレンダー展で、「経済産業大臣賞」を受賞しました。

このカレンダーは、漁師さんをただ発信するだけではなく、漁師さんたちに「その気」になっていただくことも、もう一つの目標として置いています。日ごろは、まさに縁の下の力持ちとして気仙沼を支えていただいていますが、交流してみると、実に知的で男気あふれる方々です。しかし、活躍の場が海の上であるため、なかなか一般の人がその魅力を知ることはありません。

これまで隠れていた漁師さんたちの魅力を引き出し、さらに、それに注目が集まっていることを知っていただくことによって、漁師さんたちに陸でもさらなる活躍のフィールドを広げてほしい。カレンダーには、そんな思いも込められています。

2015年も、また新たな漁師さんたちの魅力を切り取るべく、制作中。今年11月にも販売開始予定です。

※会社名・団体名は各社・各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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