JTB交流創造賞

  • トップページ
  • 受賞作品
  • 第15回JTB交流創造賞選考委員

交流創造賞 組織・団体部門

第11回 JTB交流創造賞 受賞作品

最優秀賞

元快集楽歓交立克(げんかいしゅうらくかんこうりっこく)
―世界棚田連邦をめざして―

NPO法人 英田上山棚田団(あいだうえやまたなだだん) (岡山県美作(みまさか)市)

取り組みによる効果

●市村交流による訪問者数の増加

棚田団の農林作業に参加した人は8年間で、のべ7,000人。それまでは訪れる人もない限界集落一歩手前の山村であったことを思えばかなりの数だと思う。特筆すべきはその多様性。様々な業種(機械、土木、建設、マーケティング、コンサル、損保、商社、貿易、広告、出版など)の会社員、行政書士、会計士、薬剤師、医師、看護師、陶芸家、IT技術者、カメラマン、ヘリコプター操縦士、主婦、小学生等々…。個々の専門分野、得意分野を活かした企画力、実行力を発揮することが可能である。

●居住人口の増加

現在の上山地区居住者は68世帯、170名。そのうちIターン居住者は7世帯13名。

地域おこし協力隊の任期満了後も定住した若者、家族を伴って移住の植物博士、薬剤師、女医、元放送局アナウンサー、電気工事士などこちらも多様な専門家集団である。今後はさまざまな産業の育成により都市住民の移住や地元住民のUターン帰住が期待できる。10年後には居住人口を現在の2倍にすることを目指している。

●地域おこし協力隊、美作市導入地第一号

棚田団の活動により、地元自治会からも棚田再生へ動きが明らかとなった2010年に、美作市は総務省の地域活性化事業「地域おこし協力隊」を導入。以来、市内の梶内、巨勢地区にも導入された。

●出版、マスコミ取材による知名度の向上
訪問者数の増大

現在上山に関する本は、@「愛だ!上山棚田団−限界集落なんて言わせない」(2011年)A「上山集楽物語−限界集落を超えて」(2013年)(以上吉備人出版)B21歳男子、過疎の山村に住むことにしました(2014年)(岩波ジュニア新書)C物語る「棚田のむら」中国山地「上山」の八〇〇年(2015年)(農文協)の4冊。

山陽新聞、読売(地方版)など記事掲載多数。山陽放送でのゴールデンタイムのドキュメンタリー番組「メッセージ」での特集放送が2回、同局朝のワイドショー出演などで岡山での知名度が上がり、全国ネットもTBS「サンデーモーニング年末特集」に出演、県外にも知られるようになった。「愛だ!上山棚田団−限界集落なんて言わせない」は2012年ブックインとっとり第25回地方出版文化功労賞奨励賞を受賞。

●古民家リノベーションによるカフェ開設

竹やぶに覆われていた古民家を発見、改修して、「いちょう庵」と命名。交流カフェとしてオープン(2012年)。メディアでの露出により周辺からの訪問者が増加中。

●上山棚田大学開校

棚田を舞台に自然と調和した暮らしの技術や昔ながらの知恵を学ぶ実践型研修。水路掃除、田植え、稲刈りなどのタイミングで実施。大阪や岡山市からの参加者で賑わいを見せる。

●診療所開設

過疎地となる要素の一つに医療へのアプローチの不便さがあるが、往診・予防医療を標榜する医療法人との協力により、医師が派遣され、診療所が開設された。

●歴史的景観の再生、文化の継承

かつて「耕して天に至る」と詠われた棚田の美しい景観を再生することで、風景が観光資源となり、旅行者、写真家などの訪問者が増加した。また、8年間中断されていた、上山神社の盆踊りを復活させたことにより(2012年)、地元の風習、文化を絶やすことなく継承。さらに、台湾からスカイランタン(天燈)を導入して呼び物に。

●棚田ブランドの商品開発と販売

収穫したお米を「棚田米」としてパッケージして販売。価格は600g入り袋で1,000円。市販品に比べると高価であるが、棚田の保全や里山の景観全体の価値を含めた値付けである。このお米で清酒「棚田米」を地元の酒造メーカーと共同で販売も開始。その他、鹿皮の加工商品化。薬草の商品化などにも着手。これらの製品を、ネットで販売するとともに、グランフロント大阪でのマルシェにも出店販売している。

●台湾の棚田地域との交流

台湾の棚田「八煙聚落」との姉妹棚田提携により、新米交換会など定期的な相互の訪問は継続中である。また、台湾などアジア各地での風習である、スカイランタン(天燈)の打ち上げを実施、上山神社の夏祭りのメインイベントとして、近隣の人々の人出を誘っている。今後も、棚田のある風景を有するアジア各国のコミュニティと関係作りをして、互いの文化交流事業を展開することにより、海外からの訪問者の増大が見込まれる。

●産官学各分野からの視察増加
協力、提携、共同研究の話も

全国の自治体、企業、大学、高校などからの視察が増加。そのうちの何件かは、具体的な協力関係、共同研究のステージに進んでいる。

●電子出版化

棚田本第一弾「愛だ!上山棚田団−限界集落なんて言わせない」(吉備人出版)は初版2,500部を完売。電子出版として再販売されることとなった(2015年9月)。

これまでの取組期間、継続期間について
取組開始:2007年9月(任意団体)/NPO法人認可:2011年8月
項目 単位 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(見込み)
都市農村
交流事業
参加者数 1,060 901 911 1,000 1,221 1,500
解説:月に1〜2回程度、都市住民が参加する棚田再生、農作業体験を実施。
耕作放棄地再生 アール 127.79 314.75 324.75 50.73 180 500
解説:地元住民と協力して耕作放棄地となっていた棚田を再生。年々面積が広がっている。
水稲収穫量 キログラム 1,600 3,700 3,900 6,000 7,000 10,000
解説:再生した棚田で再選した米穀をブランド米として販売。
取組体制・組織、財源について
●創立年:2007年 任意団体として発足
設立年:2011年 NPO法人格取得

○代表理事(1名):猪野全代
○代表副理事(2名):武吉栄治、梅谷真慈
○理事(14名):石黒佳世樹、高橋善一、小原千賀、菅野浩平、西口和雄、畑田昌輝、濱口浩二、福末彰洋、掘之内卓、西口しのぶ、安田聖子、山武m、松原徹郎、水柿大地
○監事(2名):小林俊宏、原田明
○特別顧問:萩原誠司(美作市長)
○名誉顧問:安倍昭恵(首相夫人)
○賛助会員:124名

●財源:賛助会員費46万 助成金(都市農村共生・対流総合対策交付金)400万
今後の展望について
●小型モビリティ導入による次世代型交通アメニティの創出

循環型エネルギーを使った、将来の交通システムを研究、実験することにより、ツェルマットのように化石燃料系交通手段を遮断し、地域内の移動を次世代型のシステムに移行させる。このことにより、地域内の移動、農林作業への応用、グリーンツーリズムの先進地域とする。

●電力会社創設と地域内電力自給事業

中山間に豊富に存在する自然エネルギーの活用を推進し、地域内の電力を自給するオフグリッドを推進。具体的には上山地区において電力会社を創設し、地区内で消費し必要経費を捻出できる売電規模を想定し、小中規模のソーラー、小水力、バイオマス発電を行う。

●棚田再生事業を世界遺産登録運動へ

棚田はすでにライステラスとして世界遺産登録されている地域も多く、SATOYAMAイニシアチブ、生物多様性の保全と防災や気候への公益性などその価値は非常に高い。「棚田」を地域ごとに登録するのではなく、「和食」のように大きなカテゴリとして「無形文化遺産登録」できないか検討中。

●コミュニティファンド設立
→「棚田基金」運用事業

行政ではカバーしきれない地域内サービスの充実、NPOやベンチャー企業などへの融資を目的として、コミュニティファンドを設立する。棚田を有する地域間の連携も考え、国内・海外企業などから出資を募り、棚田基金を設立する。

●滞在型観光事業(ヘルスツーリズム)

欧米に広く見られる滞在型の観光業を目指す。日本の原風景である棚田、山村の自然と文化を資源とし、農林業や健康・医学面まで考慮したエコツーリズム、ヘルスツーリズムプログラム、温泉やインフラの充実、ネット、マスメディアへの情報発信、広告展開と体制構築を急ぐ。

●教育自給事業
→里山文化を世界に伝える「棚田大学」構想

教育方面では岡山大学、岡山ESD、美作高校、IPU大学ら教育機関と連携し、上山地区内に日本の里山文化を世界に伝える「棚田大学」を設立する。

●医療自給事業
→地域内薬草の活用、未病促進

医療ではすでに地元住民と医療法人出資による診療所が2014年に開業しており、薬草の生産採取による医薬品の自給と未病状態の推進も計画中。

◎最後に…
元快集楽歓交立克(げんかいしゅうらくかんこうりっこく)

粛々と棚田の保全作業や稲作を行いながらも、気で活な集楽をつくり、びを流させるために自分の足でち上がり、課題を服する活動を提案、実施していきます。その提案に呼応する、全世界中の強者たちとの出会いを楽しみにしています。めざせ、【世界棚田連邦】!

概要と評価のポイント
【概要】

美作市上山に定年後移住した元商社マンとその息子らが、かつての棚田を手作りで再生。村人の協力の輪も広がり、ブランド米販売や活動記録出版、祭りの復活、台湾の棚田との提携など進化を続ける。交流、定住人口の増加や、景観の再生や文化の継承にも繋がっている。

【評価のポイント】

●棚田の復興だけでなく、ブランド米や酒などの商品づくり、環境に配慮した二次交通や宿の整備など、ダイナミックで質の高い取り組みで、感動した。
●移住した人が子供を産むなど「田舎」の復活に繋がっており、移住促進の成功事例として、評価できる。

※会社名・団体名は各社・各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

  • 受賞地域のいま
  • 受賞地域の取り組み
  • 交流創造賞 組織・団体部門
  • 交流創造賞 一般体験部門
  • 交流創造賞 ジュニア体験部門

JTBの地域交流事業