特定非営利活動法人シクロツーリズムしまなみ(愛媛県今治市)
共通のロゴマークをつくり、サイクリストを受け入れる住民参画型のしくみは、「おもてなし」というシンプルな目的、認定基準の明確さから、県境を超えた連携を生んだ。これまで愛媛県今治市と広島県尾道市をつなぐ海道において、両市の連帯感醸成は課題であった。爆発的に増えるサイクリスト受け入れに向け、調整している時間的余裕に懸念があったが、その心配は稀有なものとなった。整備初年度に、今治市の架橋された島々14軒整備を皮切りに、上島町の架橋されていない島々に6軒、尾道市に15軒、追随して整備が進んだ。
担い手の住民との交流を楽しみにリピートしてくれる来訪者、オアシスでの偶然の出会いを楽しむサイクリストなど、仲間・地域とのコミュニケーションの場としてファンが増えた。立ち寄った愛好者はブログ、FBなどの発信力が高く、その価値は口コミで拡散している。メディアなどで取り上げられる機会も増え、住民参画で観光交流振興を担うしくみとして、今や、しまなみの「自転車ブランド」形成の大きな柱となっている。
サイクリストへの情報提供という一義に加え、担い手がサイクリストから情報(応援)を得る価値も大きい。島民では見過ごしてしまう地域の魅力や都市的センスを加味した地域資源の加工への助言が得られるなど、知恵と発見を生み出す空間となっている。担い手の多くは景観、受け継がれてきた伝統・文化の価値を再認識し、誇りを取り戻している。担い手のモチベーションを培い、かつ、運営のノウハウをサポートする人材育成を進める中、「サイクルオアシスを担いたい」と地域から希望の声があがるまでになった。今治市臨海部、隣接市へ整備のエリア拡充は、自転車旅行者のニーズと地域のウォンツがバランスよく整うものとなった。
台湾、韓国、中国のサイクリング愛好者が増える中、サイクルオアシスでのおもてなしは日本でのサイクリング受入環境整備の好印象となり得る。旧来からの自転車先進地であるヨーロッパ圏からの来訪者増加も見据え、長期滞在を促すサービスを併設した総合拠点化に舵をとった。共同運営体構築へ向け、総合マネジャーの育成を図ると共に、全オアシスの情報・機能の充実、連絡網の整備に着手し、総合拠点化を進めている。
サイクリングモデルコースづくり事業の展開
架橋エリアである大島・伯方島・大三島において、島内の自転車モデルコースを島民主体で作成してきた。観光・交流まちづくりを住民主体で取り組む意義を学んだ。
しまなみスローサイクリング協議会設立
モデルコースづくりのメンバーの有志で島を越えたネットワーク組織を設立。資源発掘・発信、おもてなしの拡充を進め、実際にサービスを提供する担い手へ成長した。
しまなみ資源活用プロジェクト
協議会が中心となりWEBアンケート調査
(3,000人のモニター貸与による定量評価)、モニターツアー催行(定性評価)に取り組んだ。
シクロツーリズムしまなみ設立
企画旅行の販売可能な組織を目指し、法人化。サイクリング環境の向上に資する取り組みを継続的に展開。協議会の活動との両輪で進めている。
サイクルオアシスの整備スタート
ニーズ(トラブル対応など)を受け、試行錯誤の中、社会実験的にスタートしたしくみ。しまなみ海道の人気の急上昇と合わせ、しまなみブランドの根幹へ成長。
2011年:35軒・2012年:45軒・2013年:68軒・2014年:95軒の整備。
(活動の財源)*2013(平成25)年実績概数
会費・寄付 | 1,416千円 | 5.7% |
助成金 | 2,621千円 | 10.6% |
事業収益 | 6,873千円 | 27.8% |
受託金 | 1,3830千円 | 55.9% |
受託金(緊急雇用創出事業などの国の基金)に依存してのスタッフ雇用の現状である。新規サービス創出(マップ製作・人材育成・交通と連動したツアーなど)の社会実験を民間・行政の補助/助成金にて実施。事業収益はツアー、しまなみ土産や書籍の販売によるもの。売上は徐々に伸びつつある。今年度からオアシス総合拠点にゲストハウスを併設し、宿泊業をスタート。おもてなしを支える収益源を確保したい。
しまなみ島しょ部からスタートした「しまなみサイクルオアシス」は、しまなみの自転車ブランドを象徴するしくみとして評価され、瀬戸内海を見渡す臨海部に拡充。愛媛県下へのしくみ移転がはじまろうとしている。2014(平成26)年7月、各オアシスの中継地となり、「サイクルトレインしまなみ号」停車駅である「JR今治駅」前に「サイクルオアシス総合拠点」を設置、整備・充実に向けた取り組みを進めている。
バイクチェック、ルート案内などの起点サービス、シャワー、荷物の受け渡し、休息などの終点サービスを提供しはじめている。自転車に関するスキル、技能、地域に関する知識を保有したマネジャーを配した受け入れを行うと共に、各オアシスポイントの担い手への指導、相互交流の場づくりを行い、県内外・国外サイクリング愛好者の持続的な受け入れができるシステム構築を目指す。
〇総合拠点に技術・知識を有するマネジャーの育成と配置
〇多様なサービス(アクティビティ提供、飲食、バックアップ、宿泊など)提供のあり方を再確認
→非収益部門(おもてなし)と収益部門(利用者負担を求められる部分)を両輪で稼働
各オアシスの持続的な運営に資することにより、自転車先進都市としてのブランド確立
●宿泊者数4,000名:雇用・経営安定(収支黒字)。外国人客率5割。新たな顧客獲得。
●学生インターンなども含めた人材育成制度:参画条件(地域連携・成長体験・移住)の明確化。
●地域との共存・共栄:飲食・リラクゼーションを地域へ依存。win-winの関係構築。
●リピーター確保:旅人同士の交流、住民との交流による追体験感覚の醸成。
・宿泊者の内5割をリピーターとして確保。
・安定的経営と地域ファンづくり。
「しまなみ海道」は本州と四国を結ぶ橋の中で唯一、自転車歩行者道が設置されている。この独自性を活かしサイクル観光を推進している。地域住民が軒先を休憩所としてサイクリストに提する「サイクルオアシス」が始まり、現在は周辺含め95軒が参加、給水やトイレなどの提供のほか、交流が生まれ、しまなみブランドの根幹に成長。
●スポーツツーリズムへの期待が高まる中、タイムリー。
●行政主導の運動だけでなく、一般商店や住民まで、おもてなしのオアシスとして浸透している点が素晴らしい。
●完成度の高いモデルで、県をまたがる広い範囲にネットワークを構築しており、めざましい成果を上げている。今後、欧州など世界中からの訪問を期待できる。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。