JTB交流創造賞

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交流創造賞 組織・団体部門

第9回 JTB交流創造賞 受賞作品

最優秀賞

負の遺産を町の宝に!
「尾道空き家再生プロジェクト」

NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト(広島県尾道市)

取り組みによる効果

地道な活動を続け、6年が経ちました。今ではこのような尾道らしさを活かした「尾道スタイル」のまちづくりがずいぶん定着して来たように思えます。町中魅力的な再生空間が散りばめられています。現在では移住者も増え、若者も増え、小さな命もたくさん芽生え始めてきました。我々が手掛けた空き家は10軒を超え、空き家バンクでも70軒近い空き家が次の担い手の手へ渡って行きました。

何年も空き家でボロボロだった家が見違えるようによみがえり、新たな息吹を始める事例が増えたことにより、地域の方の理解も深まりました。空き家の提供者も倍増し、そういう使い方をしてくれるなら、持ち家を無償でNPOに譲りたいという方まで出てきています。尾道市も今まで負の遺産ととらえていた空き家でしたが、これだけ可能性が高いことを知り、新しく空き家の補助制度も新設してくれるまでに至りました。

また多くのメディアに取り上げてもらい、全国から視察や講演の依頼が舞い込むようになったことで、尾道に訪れる交流人口も増え、再生空間を巡るだけが目的で尾道を訪れる若者もたくさん増えてきました。外国人やバックパッカー層の若者をターゲットにしたゲストハウス「あなごのねどこ」をオープンしたことで、尾道を滞在する外国人観光客が前年比の7倍に跳ね上がり、今まで尾道に来ていなかった層の旅人が長期的に滞在してくれるようになりました。

最近では、中四国間の地方都市との交流が盛んで、それぞれの町の特徴を活かした市民目線のまちづくりが主流になってきており、瀬戸内海周辺は、訪ねたい小さな町がたくさんちりばめられているようなそんなエリアになりつつあります。若者の都会流出や地方の疲弊が叫ばれる中、UターンやIターンを増やすことで、地方の活性化につながることを期待されています。

これまでの取組期間、継続期間について

2007年5月 再生第1号物件「通称尾道ガウディハウス」着工
 (完成未定)
7月 任意団体「尾道空き家再生プロジェクト」発足
9月  「尾道空き家談議」開催(以後毎年開催)
2008年3月 「尾道まちづくり発表会」を開催(以降毎年開催)
6月 NPO法人を取得
 「尾道建築塾」開催開始(以降毎年開催)
2009年2月 「子連れママの井戸端サロン・北村洋品店」完成、活用中
3月 「空きPress」発行(以降毎年発行)
9月 「第1回 尾道空き家再生!夏合宿」開催(以降毎年開催)
10月 「三軒家アパートメント」始動、活用中
 「尾道空き家バンク」を事業受託開始(受託5年目に突入)
2010年2月 「つるのハウス完成」イラストレーター居住中
10月 「森の家」完成、活用中
2011年6月 「ツタの家」完成、カメラマン居住中
9月 「アクアの森」完成、ファミリー居住中
 「光明寺會舘」完成、活用中
11月 「前田荘」完成、シェアハウスとして活用中
2012年1月 「坂の家」「路地の家」完成、活用中
12月 尾道ゲストハウス「あなごのねどこ」営業開始
取組体制・組織、財源について

尾道市の市長、政策企画課、まちづくり推進課、文化振興課、観光課、観光協会、各町内会などの「官」と尾道大学、東京工業大学、大手前大学、福山大学などの「学」、商店街、地元企業、青年会議所、映画館、造船会社などの「産」の「産・官・学」の連携が確立されている。その他、多くのまちづくり団体やNPOとも協力体制にある。組織は、正会員、賛助会員、ボランティア会員の3種に分かれ、合計で180人の会員で成り立ち、半数が実際の空き家への入居者や再生人で、20〜30代の若いメンバーが中心で活動。

財源は、会員さんの年会費や「尾道市空き家バンク」の委託費、各種助成金、イベント参加費、再生物件の活用による家賃や利用料で今までは成り立っていたが、昨年初めて開始した収益事業であるゲストハウス「あねごのねどこ」の収益も新たに加わり、経営が落ち着いてきたため、助成金に頼りすぎなくてよい自立した運営が可能になってきている。

今後の展望について

今の我々の課題は、個人では動かすのが難しい大型の空き家の活用や、若者の雇用問題です。この二つの課題解決に向けて、2012年から「空き家 × 観光」に力を入れ始め、新たに大型空き家によるゲストハウス展開に取り組んでいます。一人旅の若者や外国人などの今まで尾道になかった観光市場を広げ、もっと多くの人びとに尾道の面白さを感じてもらいたいと考え、路地の魅力の古くて細長い町家を移住者や若いアーティストと一緒に1年かけて再生させ、尾道ゲストハウス「あねごのねどこ」という簡易宿泊所をオープンし、運営も若い移住者や地元大学の卒業生を起用しました。小さな町なので、そのコミュニティの中でお互い助け合い、支え合いながら尾道に暮らしてもらう努力をしています。また数年以内に斜面地のみはらしのいい場所に建つ元旅館の大型物件も着手し、同様のゲストハウスに。また、活動のきっかけとなった「通称ガウディハウス」の再生を完了させ、1棟丸がしタイプの滞在型の宿泊施設や貸しスペースとしての活用を考えています。

もちろん、これからも変わらず空き家バンクを通じて、なるべく家が傷んでしまう前に空き家の担い手探しとマッチング作業を続け、移住定住の支援をし続けて行く予定です。また平行して、尾道の建築や景観、再生空間やそこで活躍する多才な人々の魅力の掘り起こしと発信もし続けていきます。

もともと車がなかった時代に形成された尾道の町は、道幅も狭く、見知らぬ人同士でもすれ違うとき挨拶をするほど人が近い町です。商店街を自転車で駆け抜けているとひとりふたり必ず知り合いに出会います。どこそこの誰々といえば、すぐに顔が浮かび上がるそんなヒューマンスケールの町が私にとっては非常に心地よく、安心感を覚えます。これが本来あるべき町の形だと感じます。

近代化する都会のまねをするのではなく、それぞれの地域資源を見つめ直し、若者の新しい価値観をもって力強く生き抜いて行く町がひとつでもふたつでも地方に増えることで、日本社会は本当の豊かさを取り戻すのではないかと信じ、「尾道」というローカルにとことんこだわって日々活動しています。

評価のポイント

瀬戸内らしい港町である尾道。坂の町の狭い路地に寄り添う家々が、懐かしさを覚える日本の原風景を醸し出してきたが、ここにも空き家・廃屋の増加という問題が進んでいた。その故郷の風景を守るため、スクラップ&ビルドをするのではなく、地域の人の手で再生し、外部の学生達も一緒になって楽しみながら街並みの保全と空き家の新たな活用に取り組んでいる。地域の様々な主体を巻き込んで連携を進め、若いメンバーが積極的に参加してその良さを磨き直す活動は、全国の町並み再生事業にも参考になる試みである。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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