JTB交流創造賞

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交流創造賞 組織・団体部門

第9回 JTB交流創造賞 受賞作品

優秀賞

負の遺産を町の宝に!
「尾道空き家再生プロジェクト」

NPO法人 尾道空き家再生プロジェクト(広島県尾道市)

古くから港町として栄え、多くの文人や芸術家に愛され、今もなお旅人の絶えない瀬戸内の小さな町「尾道」のイメージは、古いお寺や連なるレトロな家並み、海を見下ろす眺望、石畳、路地・・・など、都会では見られなくなってきた誰もが懐かしさを覚えるような、いわば日本の原風景的なものではないでしょうか? 坂の町・尾道の独特の景観は映画はCMをはじめとする様々なメディアで全国、全世界に紹介され、尾道の代名詞のように伝えられていますが、一方では、車中心の社会への変化や核家族化、少子高齢化による中心市街地の空洞化といった現代の社会問題を多く抱えているエリアでもあります。特に深刻なのは、車の入らない斜面地や路地裏などの住宅密集地に増え続ける空き家問題。もともとお寺しかなかった山手と呼ばれる尾道三山の陽当たりのよい高台に、当時の豪商達がこぞって「茶園」と呼ばれる別荘住宅を立て始めたのが始まりで、その後もハイカラな洋館付き住宅や旅館建築、社宅、長屋など様々な時代の建物が斜面地にへばりつくように密集して立ち並び、まるで「建物の博物館」のようなエリアになっています。それに加え、アップダウンの多い立地に工夫して立てた不定形の建築の面白さと海を見下ろす眺めの良さが、山手の建物をより一層興味深いものにしています。

しかしながら、そんな魅力満載の坂の町には、300を超える空き家が存在するという調査結果が出ています。南側以外の斜面や平地の路地裏、商店街の空き店舗なども合わせると駅から2キロという徒歩圏内に500軒近い空き家があるのではないかと推測されてます。そしてその多くは長年の放置により廃屋化してきており、立て替えや新築不可能なロケーションにおいて、現存する空き家をいかに上手く活用し、後世に伝えていくかが最重要課題となっているのが現状です。

取り組み内容

最初は空き家の再生に繋がることなら何でもがむしゃらに活動しました。再生途中の「通称ガウディハウス」を定期的に公開し、チャリティイベントや空き家談議などお金のかからない小さいイベントをひたすら繰り返し、尾道の空き家の現状と見捨てるにはもったいない尾道建築を見てもらい、坂の町の抱える問題を共有してもらいました。また「尾道建築塾・たてもの探訪編」というのを開催し、尾道の景観や町並みの魅力、再生物件などを紹介して回る町歩きのイベントも企画し、多くの方に参加してもらいました。同時進行で第2号物件として、元用品店の廃屋の再生に着手し、1年間「家をつくるということ」を学ぶ場として多くの参加者を募って再生して行きました。ボランティアによる片付けやゴミ出し、「尾道建築塾・再生現場編」という職人さん講師による実技体験のワークショップ、空き家に移住してきた若手のアーティストさんによる作品による仕上げなどたくさんの方々の手により、一軒のお化け屋敷のような空き家は再生されて行きました。そのプロセスをビフォアーの部分から共有、公開することで、どんな空き家も捨てたものではないということを証明でき、多くの若者に希望を与えたのではないかと思います。現在はNPOの事務所と子連れママの井戸端サロンとして活用し、空き家再生の拠点になっています。次に着手したのは、その「北村用品店」の路地裏にある古いアパートで、共有部分の中庭やギャラリー、カフェスペースを再生し、他の8室それぞれに多様な作家さんやまちづくりをする方に入居してもらって、それぞれ好きなように内装をリノベーションしてもらいました。現在ではものづくりとアートの拠点「三軒家アパートメント」として、若い作家さんたちの拠点となっています。他にも「尾道空き家再生!夏合宿」というのを行って、全国から学生などの参加者を募って1週間、坂の町の空き家に暮らしながら、空き家を再生するという交流型体験イベントも毎年開催しています。他にも坂暮らしを体験できるレンタルハウス「坂の家」など、我々の再生事例だけでも13軒近くなっています。どの再生事例もその特徴を生かして主にコミュニティの場として活用されています。

2009年からは尾道市と恊働で「空き家バンク」も行い始め、民間のフットワークの軽さを活かして利用しやすい窓口へと進化させ、4年間で約70軒近い空き家が新たな担い手の手に渡っていきました。成約後もセルフビルドによる改修の補助や残存荷物の片付けの手伝いなど、ちゃんと移住、定住していけるようにサポート体制も整えて来ています。荷物がぎっしり残っている空き家では、「現地のチャリティ蚤の市」を行い、投げ銭方式で好きなものを好きなだけ持って帰ってもらい、人海戦術による運搬の苦労を軽減させ、家だけでなく中身もリユースしていく試みも随時行っています。車の入らないエリアでの大量のゴミ出しや資材の搬入は、地元の居酒屋グループの若者が「土嚢の会」という名で20〜30人集まってくれて、まさに人海戦術でのリレー方式による作業が展開されています。

新築不可能な荒れ地は、地元の若い夫婦を中心に「空き家再生ピクニック」という名の下に集まり、手づくりの公園や花壇、菜園をつくっています。ただ単に作業をするだけでなく、親子や会員さん同士の交流にもつながっています。

このように、普通に考えたら不便な場所での辛い地味な作業の連続ですが、それをいかに楽しく、いかにイベント的に盛り上げて大勢で無理なくやっていけるような仕掛けをつくるかというのが、車の入らない大変な場所における活動のコツで、我々が工夫しているところです。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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