JTB交流創造賞

  • トップページ
  • 受賞作品
  • 第15回JTB交流創造賞選考委員

交流創造賞 組織・団体部門

第9回 JTB交流創造賞 受賞作品

優秀賞

八女の町家で暮らそっか?
−町並みの輝きを再び取り戻す人々の挑戦

八女文化遺産保存・活用ネットワーク(福岡県八女市)

八女市は福岡県の南部、福岡市から南へ約50kmに位置し、北は久留米市、広川町、西は筑後市、南は熊本県、東は大分県に接している。平成22年の近隣2町2村との合併後482.53km2となり、中南部は平野、北東部は森林で占められている。昨年の集中豪雨では、特に山間部が大きな被害を受けた。

八女市の中心市街地・福島は天正15年(1587)に築かれた福島城を、慶長5年(1600)田中吉政が、支城として大修築し、城下町をつくった後、大きく栄えた。福島城は堀で囲まれ、城を迂回する往還道路に沿って「町人地」を配したが、元和6年(1620)に廃城となり、以後、町人地は八女地方の交通の要衝の地として、また、経済の中心地として発展する。また和紙、ハゼ蝋、提灯、仏壇、石工品、茶など様々な特産品の開発やそれを素材とした工芸品の創作に取り組むと共に、積極的な商工業の振興による富の蓄積で重厚な商家が連続する町並みを形成していった。

八女福島の町並み保存の市民活動は、1991年(平成3)の大型台風によって被害を受けた伝統的町家が取り壊されて空き地になるなど、町並みが歯抜け状況になるのを見て危機感を感じた市民有志が、勉強会を重ね1993年(平成5)にまちづくり活動を展開する市民団体「八女・本町筋を愛する会」を発足させ、「八女町屋まつり」が開催された頃から始まる。この影響で八女福島の町並みに市民や観光客の関心が向けられるようになった。さらに、1994年(平成6)にはまちづくり団体「八女ふるさと塾」が新たに発足し、八女福島の町並みを活かすまちづくり活動が、市民が主体的に実践する形で充実してきた。

このような動きを背景に、1993年度(平成5)から市は、建築物等の修理・修景事業や住環境の整備を行うために、建設省(現国土交通省)の「街なみ環境整備事業」の導入を検討し、1995年度(平成7)から事業をスタートさせた。事業導入に先立って、1994年度(平成6)には事業対象地区の住民によって「景観のまちづくり協定」が締結され、協定者の代表による「八女福島伝統的町並み協定運営委員会(現:八女福島町並み保存会)」が組織された。1996〜1997年度(平成8〜9)には国の支援で保存対策調査(調査団:九州大学=当時・九州芸術工科大学)を行い、2002年(平成14)5月に国の「重要伝統的建造物群保存地区」(=重伝建地区、全国61番目)の選定を受けた。

以上のように、町並みを保存する仕組みや官民の協力体制は整えられてきたが、しだいに町並みの中に少子高齢化や人口減少により空き家が目立つようになってきた。応募団体の「八女文化遺産保存・活用ネットワーク(通称:八女町家ねっと)」は、NPO法人八女町家再生応援団、NPO法人八女町並みデザイン研究会、NPO法人八女文化振興機構、八女福島白壁ギャラリー企画室の4団体を中心に構成され、八女の町家を宝として磨き、町家の所有者と活用する担い手を繋ぐこと及び伝統的な建築技術を育成・継承することによって、町並みに再び賑わいを取り戻すことを目標としている。そして、山間部の木材を使って町並みを再生させていくことで、持続可能な社会を形成する活動にも取り組んでいる。

また、最近ではこれらの活動を全国に発信するためにドキュメンタリー映画「まちや紳士録」を製作(現在は全国各地で上映会を開催中、来年2月に渋谷の映画館で東京公開の予定)して、全国の町並み保存・継承の課題を抱えている地域との情報交換及び連携強化を進めている。

取り組み内容

1.八女町家ねっとを構成する4団体の取り組み

2.NPO法人 八女町家再生応援団(代表 北島力)

@空き家の調査、あっせん活動
地域資源として町並みの中の空き家を位置づけ、定期的な調査により実態を把握、家主の意向調査などを行い、活用を図るように働きかける。また、町家を希望される「借り手」に空き家を紹介している。賃貸などの契約成立後は、借り手と地元の人との交流やコミュニティをサポートしている。また、空き家の改修にあたっては、建築の技術・技能者の集団「NPO八女町並みデザイン研究会」から町家の修理等の技術的な指導を受けながら、町家の価値を損なわないような修理工事をサポートしている。

A町家の魅力を伝えるイベントの開催
市民や来訪者に町家の魅力を知っていただくため、保存活用している再生町家で期間限定の「町家カフェ」、「町家一般公開」などを展開している。
また、町家所有者の高齢化が進み、昔から定期的に行ってきた外壁等へのベンガラ柿渋塗り(防腐などのため)ができなくなってきたため、希望する家主さん(材料費を負担)に代わり、市民参加のワークショップ形式で、ベンガラ柿渋塗りをサポートしている。

3.NPO法人八女町並みデザイン研究会(理事長 中島孝行)

@修理・修景事業を担える技術・技能者の育成、

住民相談業務及び設計監理と施工の業務

八女福島の伝統様式に沿って町家等の修理・修景事業を展開していくため、地元の建築士及び工務店等が伝統様式や伝統構法の知恵を共有し継承していくために、修理・修景事業の現場を利用しての研修会及び痕跡調査・履歴調査の学習会などを取り組み、日々、研鑽を積んでいる。
また、地元住民向けの無料相談や修理・修景工事現場の見学ツアーなども定期的に行い、町家等の維持や保存の大切さなどの普及活動及び町家と匠の技術の魅力の発信を継続的に行っている。そして、八女市では、伝建事業、街環事業の補助事業として年に9〜10棟の修理・修景事業があり、この事業の設計監理と施工を担っている。特に設計は入念に現況調査・履歴調査を行い、施主と時間をかけて協議し、大学の専門家の指導も受けながら取り組んでいる。あわせて修理・修景した建造物のデータベース化も進めている。

A地元小学生に伝統構法体験学習会
未来を担う子どもたちに町並みの知恵や文化を継承していくために、地元小学校を対象に出前授業や体験学習会を実施している。出前授業では、体験学習の予備知識として、八女福島の歴史や町家の特徴、伝統構法等について説明。体験学習会は修理中の町家の現場で行い、土壁塗り体験では左官職人の指導を受け行う。子どもたちが郷土の歴史文化への誇りと愛着を持つことをサポートしている。

4.NPO法人八女文化振興機構(理事長 高橋康太郎)

@大規模な歴史的建築物を保存再生する活動
八女の文化遺産を後世に伝え残していく活動をとおして、伝統と文化を活かしたまちづくりを推進している。近年力を入れているのが、八女福島の町並みの保存継承で、その中でも、歴史的建築物で規模が大きいなどの理由から保存再生が困難な物件(旧八女郡役所、旧寺崎家など)に対して、市民と行政の恊働の取り組みを模索して活動を展開している。

5.八女福島白壁ギャラリー企画室(室長 許斐健一)

@八女福島を舞台に毎年秋に「暮らしをめぐる小さな旅」をコンセプトに八女福島白壁ギャラリーというイベントを企画実施している。生活の匂い漂う麹屋、和菓子店、茶舗、仏壇店、提灯店、蒲鉾店などで職人さんの実演や展示、体験など約60の催しを行う。キーワードは、八女の伝統工芸、手仕事、暮らしである。

6.八女町家ねっとの様々な取り組みの結果、町並みの来訪者は徐々に増え、当初の10万人から約20万人に増えている。また、来訪者はリピーターが多いのが特徴である

 

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

  • 受賞地域のいま
  • 受賞地域の取り組み
  • 交流創造賞 組織・団体部門
  • 交流創造賞 一般体験部門
  • 交流創造賞 ジュニア体験部門

JTBの地域交流事業