NPO法人 神岡・町づくりネットワーク(岐阜県飛騨市)
創業当初はイベント的な運行でしたが、周辺の宿泊施設関係者の方からの熱いご要望もあり、毎年営業日数を増加させました。5年目の平成23年には10,000人以上の集客を達成、平成24年からは平日を含めた毎日の運行を開始し(水曜定休・冬期は積雪のため運休)、年間の利用客数は2万人を超え、営業開始以前には無かった飛騨地域の新しい着地・体験型観光スポットとして認知され、周辺の観光地にも大きな経済波及効果を生み出しています。この背景には全国的にも類を見ない乗り物のカタチ・地元住民が中心となって活動していることから、TV・新聞・雑誌などマス・メディアへの高い露出があり、以前は閑散とした過疎の田舎町が一躍脚光を浴びることとなりました。レールマウンテンバイク創業以前の飛騨市神岡町では基幹産業が鉱業であるため、「観光」という交流人口増加への切り口はほとんど皆無でしたが、現在では町の商工会議所がランチマップを作り観光協会が町歩きガイド事業を始めるなど、お客様を迎えるための団体が、改めてその役割に気づき活性化を図ろうという動きが見えてきました。
レールマウンテンバイク利用人数
■ 平成19年 1,301人(営業日数19日)
■ 平成20年 1,874人(営業日数32日)
■ 平成21年 3,208人(営業日数48日)
■ 平成22年 6,461人(営業日数60日)
■ 平成23年 11,718人(営業日数89日)
■ 平成24年 20,413人(営業日数198日)
■ 平成25年 19,412人(営業日数139日・平成25年9月19日現在)
*平成23年〜25年は利用者の半数以上が近隣の宿泊施設に宿泊(当事務局調べ)
平成17年(廃線の1年前)に当時の神岡鉄道協力会(神岡鉄道に対する有志のボランティア団体)が神岡鉄道が廃線になることを想定し、廃線後の利活用策を検討を始めました。幾多の試行錯誤と悪戦苦闘と丁々発止の末、現在のレールマウンテンバイクの原型となる車両を開発し試走を重ね、平成18年11月の廃線直前イベント「神岡鉄道・ラストサンデー」でお披露目乗車会を行いました。
平成19年のGW(廃線から4カ月ほど後)に、飛騨市観光協会主催でモニタリング乗車会(一般公募・無料)を始めました。その反響を頼りに同年の7月末から観光協会の収益性のある事業としてレールマウンテンバイクが有料の観光サービスとして発足し、その後、毎年営業日数を増やしながら、地域住民が主体となって観光協会の独自性に溢れた事業を展開していました。
平成23年6月。レールマウンテンバイクの収益が増えるにつれ、半官半民の社団法人格を持つ観光協会では事業を継続するために必要となる基金の積み立てが難しくなり、町内既存の非営利活動法人(現在事業を運営しているNPO法人神岡・町づくりネットワーク)に町づくり・町おこしの為の収益事業として専属事務局員ごと事業母体を移管しました。事実上、この事業を確立し育て上げた観光協会から独立・卒業を果たしたと言えます。
NPO法人神岡・町づくりネットワークに移管後は地元住民による事業展開の自由度が増したため、グッズの販売や新型車両の開発・コース延伸の為の計画・他の町おこしイベントの援助を進めているところです。
特定非営利活動法人の収益事業(交流人口増加を図るための事業)
特定非営利活動法人 神岡・町づくりネットワーク
会員数101人(ほぼ地元住民)・地元企業14社
レールマウンテンバイク事業にかかわる一切の経費(人件費・修繕費・車両製作費・広告宣伝費・光熱費・沿線保守管理費・通信費・施設軌道使用料・保険料・厚生費・法定福利費・等々)は、すべて事業収益(お客様の乗車料・オリジナルグッズの売り上げ等)から確保しています。行政等からの補助金や助成は受けておりません。
*今年の10月から運行予定のサイドカー型車両のみ、地元信用組合から「町おこし・地域おこしで頑張る団体のお力になれたら」ということで製作費を助成して頂きました。
レールマウンテンバイクの現在は、単線で運行区間が短いことと、自転車の台数が限られていることからキャパシティーが不足し、繁忙期にはお客様の乗車をお断りしているのが現状です。
現在の運行区間は全延長の15%(2.9km)に過ぎず、現在のコースの先にはその6倍弱の延長17kmの区間があります。そこには、旧神岡鉄道最大の魅力である雄大な渓谷や、清流高原川の澄み切った川面を眺めることができる素晴らしい風景があり、今も昔も神岡町民が「これぞ神岡」と胸を張って言える区間があります。
今後はこの素晴らしい区間の活用が地域内外の観光事業者の方々にも期待されています。 現在運行している区間よりも富山県側への軌道は、今も神岡鉄道時代から何一つ変わることなく残されており、その区間でのレールマウンテンバイクの走行となれば、全国に誇れる壮大なスケールの体験型観光スポットとなるばかりか、全国の廃線問題を抱えた自治体や団体に向けて「廃線=撤去」ではなく、利活用のモデルケースとして、奥飛騨の辺境の小さな取り組みが、全国的なエコプロジェクトへと発展していくものと考えています。
文字通り「ゼロ」から始めたレールマウンテンバイクは、来場者が2万人を超える新たな観光スポットになりましたが、まだまだ発展する可能性を秘めています。私たちは、常に夢を持ち、レールマウンテンバイクの魅力をさらに高め、旧神岡鉄道の保存と利活用を進展させ、より一層の交流人口の増加を図り、地域の活性化、元気あふれる地域の創造につなげて往きたいと考えています。
また、先人が果たしてきた鉄道建設までの努力や、廃線までの苦労などを忘れることなく、この貴重な財産を、地域の持つ個性を活かしながら、永遠に保存し、守り、後世に伝えていく活動を続けていきます。
江戸時代から日本の社会・産業の発展を陰で支えてきた神岡鉱山。馬車軌道から始まった神岡鉄道は、2004年の廃線まで飛騨神岡地域の歴史そのものであった。地域の人々にとっては廃線を交通近代化の結果と諦めるわけにいかず、地域の歴史である軌道を守ることへこだわり、地元有志のアイディアと熱い思い、地元企業のモノづくりの精神がレールマウンテンバイクを生み出した。シンプルながら軌道そのものを体感し楽しめる観光資源に転換したことが素晴らしい。そして、モノづくりへのこだわりから、様々なタイプのバイクを生み出し続け、山間から楽しさのこだまが伝わってくる取り組みである。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。