6 地域と旅行業者等との連携による受け入れ態勢の構築
こうした安心院のGT体験学習の受け入れが次第に評判を呼び、エージェント関係者が安心院の取り組みに関心を示すようになってきた。今後増加が予測されるGT体験学習の受け入れ態勢の整備をし、ひいては、大分県に修学旅行を誘致する目玉として、安心院方式と呼ばれる農村民泊活用型の教育旅行の仕組みを県下に普及し、広くPRしていくなどの建設的な協議をエージェント関係者を交え重ねていった。
住民組織と行政の連携による安心院の実績とエージェント関係者の熱い熱意と大きな力とが一つになり、さまざまな新しい動きを創出しようとしている。現在までに、平成19年度からの実施に向け4つの課題を以下のように解決していくことを決定した。
(1)受付窓口を日本修学旅行協会へ
従来は行政が窓口となり、各種連絡調整を一手に引き受けていたが、予測される需要の増大への対策として、教育旅行に関する調査・研究機関としての公共性もアピールできる(財)日本修学旅行協会へ窓口業務委託を行った。対行政との委託契約ではなく、今後のかかわりを期待し、また、弾力的な運用を可能にするためNPO法人格を取得したGT研究会と契約の締結を行った。これにより一層の官民協働体制の確立、公平性、透明性の維持や教育旅行研究機関との連携による信頼度向上が期待できるものと予測している。
(2)価格設定の明確化と清算ルールの構築
受け入れ農家への手取り収入のみを明示し、価格設定を行っていたが、今後を考えたときに、行政のみではなく民間組織(GT研究会)も体験学習の受け入れ事務にかかわっていくことが不可欠となる。そこで受け入れ家庭プログラム料、行政等事務事業基金、GT研究会活動支援基金、(財)日本修学旅行協会業務委託費、賠償責任保険、旅行会社手数料それぞれの価格を定め、総額をプログラム販売額として公平かつ明確な料金開示を行うように決定した。これにより、受け入れ家庭はより安定した収入が入り、何よりも補償の充実が大きな魅力となった。また、清算方法や取り消し料等の細部にわたる規定も新たに作成した。
(3)農泊保険誕生による危機管理の充実
安心院の農泊の課題を洗い出す中で、新たな農泊用保険の必要性が生じてきた。今までは学校側の加入している各種保険を適用することを条件に受け入れを実施してきたが、協議を繰り返す中からいち早く、旅行業にかかわりのある傷害火災保険会社が国内初の農泊専用保険を安心院をモデルに開発してくれたことにより、より安心、安全に農泊体験学習が実施できる環境が整うことになった。これは、安心院のみならず、全国に広がる農泊実践者にとっても朗報であり、まずは安心院から。そして日本中に拡大するものと期待している。
(4)エージェントによる効率的な販売促進
口コミにより安心院のGT体験学習は拡大してきたが、今後はこれにプラスして、エージェントという教育旅行のプロフェッショナルによる市場ニーズの収集や提案、魅力的な販売ツールづくりなどの戦略的立案や実践等にかかわってもらうことにより、農村側のやる気を引き起こし、安心院だけではなく、大分としてのGTの推進にも大きく影響を及ぼすものと思われる。
7 教育旅行を大分に呼び込もう
(1)エージェントによる新大分物語の立案
安心院のGT体験学習に県外から学生が訪れていることにエージェントが着目し、「安心院の農泊」や「APU立命館アジア太平洋大学」への訪問による国際交流、障がい者に優しい職場環境を整備している会社「ホンダ太陽」での福祉社会教育、そして有数の観光地別府市の活用等を「新大分物語」として商品化し、大分県にもう一度修学旅行生を呼び込もうとする動きにも中心的な役割を果たしている。
(2)大分県教育旅行誘致促進協議会の設立
別府市観光協会が呼びかけ及び事務事業の中心になり、賛同する自治体関係者等で大分県教育旅行誘致促進準備会を立ち上げ、昨年10月18日正式に協議会を設立した。宇佐市安心院町も当然ながら本協議会に参画している。これにより、修学旅行形態の変化に伴う大分県内の受け入れ整備や積極的な情報の受発信に努めることを、全県的にスクラムを組み実施していこうとする態勢が確立された。九州各県の激しい誘致合戦に勝ち抜こうという強い意識が、今大分県にも生まれようとしている。現在、安心院単独でも誘致が可能な状況なのだが、全県的な組織に加入しGTを推進していくことが、安心院だけではなく、大分県全体のGTのレベルアップに繋がっていくことを強く願っている。
8 安心院型グリーンツーリズムがもたらしたもの
GTという農村にこそあるオリジナリティを最大限に活用した取り組みが都市と農村の心を動かす感動産業へと動き始めている。第1の効果として、地域住民もGTは無い物ねだりではなく、「農村にあるものを活かす」ことにこそ価値があることに気づきはじめ、交流により地域への誇りや自分自身の輝きといった気持ちを取り戻してくれている。「田舎には何もない」という従来からのマイナス思考が「都会にないものがいっぱいある」というプラス思考に変わるのである。特に、この活動に関わる女性たちは生き生きとしている。「農家に嫁に来て本当に良かった」と素直に思えるようになったという。人と人とのふれあいやつながりが重視されるため、感動を呼ぶ新しい旅のスタイルとして多くの安心院ファンを生んでいる。
また、ハード事業不要の地域資源活用型事業ともいえる。第2の効果として、農村を舞台に、あるがままの農村の生活を都市住民や子どもたちに味わってもらうという、地域住民が主役のツーリズムを実践しているため、莫大な資金を投下して施設を造ったり開発を行う必要もなく、安心院だからこそある地域資源を最大限に守り活かすという農村に相応しいまちづくりにつながっている。
そして、第3の効果がGTは地域づくりだと断言できる点である。農業や観光のみならず、産業、文化、福祉、教育、環境等を一体的に取り込み、農村だからこそ推進可能なまちづくりの手段として実践している。いろんな施策との連携によるGTの取り組みが、宇佐市としてのPR効果や地域全体に人的かつ経済的波及効果を与えてくれている。
9 おわりに
GTは、まだまだ普遍化しているとはいえない。農山漁村施策としては叫ばれてはいるものの、都市住民がGTという旅のスタイルを知らないという現実がある。しかし、今教育の場では体験学習、総合学習において農山漁村の出番が増えつつある。だからこそ、自信と誇りをもって田舎のすばらしさをこれからも伝えたいという気持ちが膨らむ。地域住民と行政とが一体となって都市農村交流を推進してきた結果、先進地と言われるようになった安心院。しかし、これには地域の取り組みを評価し応援してくださる方々の存在があったからである。小さな町の小さな体験学習の受け入れが大きなうねりを起こすまでになったのも応援してくれる人や組織のお陰だと感謝している。
これからも、農村を舞台に、農村資源、特に人と人を繋ぐ心を大切にしながら、謙虚な気持ちを忘れずに住民が主役の交流文化を創っていきたいと思う。そして、「本当に安心院には心がある」と言われるような宇佐市安心院町を目指していきます。 |