4 大分方式となった会員制農村民泊
(1)安心院独自の会員制
ごく普通の民家の空いた部屋に宿泊し、農村の生活そのものを体験していただくシステムであるが、農家が宿泊場所や食事を提供する場合、旅館業法や食品衛生法が適用され、その認可には多額の資金投資と厳しい審査が必要とされていた。安心院町では不特定多数を対象とはせず、会員制にして特定の人を宿泊させるという方法で、謝礼として農村文化体験料を受け取る方式にしていた。これによって、農家等は新たな改築等を必要とせず、「農泊」を行うことができ、経済的に無理をしていないことが「惜しみのないもてなし」を支え、それが感動を呼び体験宿泊者を増加させる好循環をつくってきた。現在年間4,900名(平成17年度実績)の方に農泊を利用していただいている。
(2)大分県が農泊の緩和措置
しかしながら、会員制だと旅館業法等の規制をクリアできるという法的根拠が明確ではなく規制緩和が大きな課題であり、町としても強く要求していった。これを受け、大分県は町内で実践している農村民泊を具に調査し、平成14年3月28日、県内各保健所あての生活環境部長通知によって、画期的な全国初のGTに関する運用の緩和措置を下記の図のように行った。
この通知は安心院町の実施してきた「農村民泊」事業の実績を評価して行われたものである。これによって多額の資金投資が不要となった。「安心院方式」が「大分方式」と言われるようになり、平成15年4月1日には国が民泊の規制緩和を盛り込んだ旅館業法施行規則の改正を行うまでに至り、官民協働による地道な活動の前進が、日本のGTにも大きな影響をあたえる第一歩となった。
(3)安心院方式の特徴
安心院方式の「農村民泊」は、観光の浮揚策として民宿業者が農業体験と結びつけて行うものでもなく、ハード事業で箱モノを造って宿泊や体験を行うというものでもない。あるがままの農家等の生活や家を活かし、無理をせず楽しみながら行うことを基本に、訪れていただく方々に本物の農村の暮らしに入り込んでもらうというもの。何もないところからスタートし、まちづくりとしてみんなで取り組んでいる点が他地域との違いであり、最大の特徴でもある。
5 注目を集めるグリーンツーリズムの教育的活用
GTはまちづくり、という理念の下、安心院型GTの最終的にめざすものは、次代を担う子どもたちに農業・農村のすばらしさを伝えることにより、「都会だけが素敵な場所ではないんだ。田舎も都会も素敵な場所なんだ」ということを地域に生まれ育った子どもたちはもちろんのこと、都会に生まれ育った子どもたちにも理解してほしいということである。国が提唱している「都市と農村との共生と対流」を実現させるためにも、このGTを地域内外の子どもたちの体験学習や修学旅行に活用することは、従来の教育旅行のスタイルにない「心の教育」に大きな効果をもたらすものと考えている。
現在、市内の約60軒の家庭が受入れにかかわっていただいている。
(1)安心院型体験学習の特徴
農村体験学習というと、従来はホテル、旅館、民宿に宿泊し、ごくわずかな時間を区切りプログラムに沿って農業、漁業体験をさせるという方法が一般的だった。しかも、生徒全員に仲良く同じ体験をさせたいというのが学校側の要求でもあった。
安心院では、少人数毎に農村のごく普通の民家に泊まり、農業農村体験を通じて、都会とは異なった農村というもう一つの生活があるんだということを農村生活体験として学んでいただくことに重点をおいている。制限された短時間の中でメニューを消化するのではなく、チャイムのないゆっくりと流れる農村時間に身を委ね、受け入れ家庭と一緒に農作業や食事づくり、川遊びなどを体験したり、食卓を囲んで家族の一員となって食事をしたりしながら、ふれあいの時を過ごす。当然、会話の中から、礼儀や体験学習の意義、農業農村のことを学んだり、お互いの家族のことなどを語らいながら、子どもたちは人の優しさや家庭の温かさにふれる機会を得ている。「心の交流」と本物の非日常的体験こそが、子どもたちには新鮮であり、人との接し方や農村に対する新たな認識を学んでいる。
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[1] |
ごく普通の民家に泊まる「農村民泊」という新たな農村の過ごし方を提供する。 |
[2] |
親戚の子どもを迎えるような気持ちで接する。農村の生活スタイルを変えずに受け入れ、家族同様の時を過ごす。 |
[3] |
統一された体験や食事を提供するものではなく、受け入れ家庭毎に得意なメニューで対応する。普段着の飾らないもてなしや生活体験こそが重要であり、統一された体験プログラムを並べ立てることは重要ではないと考えるからである。 |
[4] |
安心院には日本初のグリーンツーリズム専属の係(GT推進係)を設置している。この係が窓口となり、旅行業者や学校との調整、農泊家庭の募集、受け入れ説明会の実施などを、民間組織であるGT研究会と連携して地域一丸となって取り組んでいる。 |
[5] |
農村民泊体験の受け入れは会員制という形をとっている。一般の方のみならず子どもたちの受け入れの際にもメンバーズカードを発行し、農泊会員になってもらう。カードの裏面には受け入れ先の方の印鑑を10個(1泊で印鑑1個)押せる仕組みになっている。「1回泊まれば遠い親戚、10回泊まれば本当の親戚」を キャッチフレーズに、これまでにも多くの利用者がリピーターとなっている。子どもたちにも、また必ず安心院に来てほしいという願いを込めてカードを発行している。
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(2)農業農村体験の内容
受け入れ家庭によって、体験内容がまったく異なるのが安心院の特徴であるが、以下の3点を基本として各家庭毎に体験内容を組み立ててもらっている。
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[1] |
農業体験
畑・果樹園・菜園作業・動物の飼育作業など、季節に応じた作業を受け入れ家庭と一緒に行い、汗を流して働くことの大切さや農業の厳しさ、楽しさを学んでもらう。 |
[2] |
農村体験
安心院の名勝旧跡の見学や釣り、キノコ狩り、竹工作など、日常的には都会で経験できない農村ならではの体験をし、農村の楽しさを実感してもらう。 |
[3] |
農作業体験や農村の食材を使った料理作り体験などを通じて、安心安全な食へのこだわりや日頃無意識に口にしている食材に対する関心や感謝の気持ちなどを学んでもらう。 |
(3)体験学習等の受け入れ実績と効果
上記を基本的な考え方として平成12年度、県内の公立高校を1校受け入れたのが始まりであった。以後、徐々に受け入れも増加し、平成13年度には5校。平成14年度には初めて埼玉県の公立高校生を修学旅行で受け入れるまでになった。その後も安心院型の受け入れが本物の農村体験であるとして認知され、平成17年度は26校2,793名を受け入れ、本年度は既に32校3,800名を受け入れるまでに実績を上げてきた。
また、地域外の子どもたちだけでなく、地域内の子どもたちにとっても総合学習等の学校教育において、GTを学んだり農泊したりするように身近な存在となっている。GTが地域から認められることが推進への大きな力となっている。「GTを語れる子どもたちの数日本一の町」と言っても過言ではない。地元の高校では、地元学の時間にツーリズムを学ぶ授業も行われるまでになった。
安心院方式と言われる体験学習は、農村の家族と一緒に過ごしながら、家庭の温かさや人の優しさに触れるため、わずか1泊2日でも、別れ際には声を上げて泣き出す子どももいるほどである。「もっと安心院にいたい」といううれしい声もたくさん聞かれる。同時に先生方も、日頃学校では見せることのない子どもたちの輝いた表情に驚きが隠しきれないといった様子で、「まさか安心院でこんな無垢な姿が見られるとは」と喜んでいる。
また、受け入れる農村側には、町の賑わいや農業農村への誇りの気持ち、経済効果などを子どもたちから与えてもらっている。合併を契機に旧安心院町のみならず、旧宇佐市、旧院内町からも積極的に体験学習にかかわってもらい、新宇佐市としての受け入れ確立にも大きく寄与してくれている。このように農村の生活体験とふれあいを重視した新しい形の体験学習が子どもたち、そして受け入れる農村側、双方に大きな感動を与えてくれている。農村にこそある資源を活かしたGTの展開が、今、子どもたちに情操教育の手段として、また、農業・農村や安全な国産農産物への理解を深める食農教育の手段として力を発揮しているのである。
これまでと新たな取扱いの違い
関係法令 |
これまでの取扱い |
新たな取扱い |
旅館業法 |
[1]ホテル 主として洋室で客室は10室以上、1客室床面積9m2以上
[2]旅館 主として和室で客室は5室以上、1客室床面積7m2以上
[3]簡易宿所(バンガロー等に限定) 客室の延床面積は、33m2以上
※S33.8の厚生省通知により、通年的に宿泊客を受け入れる場合はホテル、
旅館の施設基準を満たすことが必要
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グリーン・ツーリズムは実態を踏まえ、簡易宿所の営業許可対象とした(H15.3大分県条例改正) |
食品衛生法 |
宿泊客に飲食物を提供する場合は、
[1]客専用の調理場などの施設基準(条例)のクリアが必要
[2]飲食店(旅館)営業の許可が必要
ただし、自炊型などで宿泊客自ら調理し飲食する場合は、営業許可不要
※S33.8の厚生省通知により客専用の調理場を設けることとされている |
グリーン・ツーリズムで宿泊客が農家と一緒に調理、飲食する体験型であれば客専用の調理場及び営業許可は不要とした |
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※H15.4より厚生労働省令により農林漁業者が営む農林漁業体験民宿施設は簡易宿所営業の客室延床面積の基準を適用しない
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