受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。
昨シーズンの講習で認定指導員に合格した16人
北海道にはパウダースノーを求めるスキーヤーが世界中から訪れる。アジアの旅行者が増加しているが、スキー初心者が多く、レッスンの要望が増えてきた。しかし、外国語で指導できるインストラクターは少ない。特に英語以外の言語への対応が課題。日本人インストラクターに外国語を習得してもらうより、北海道在住の外国人にスキーを習得してもらう方が早いのでは。スキー・観光関係者が着目したのが留学生だ。
留学生スキーインストラクター「おもてなしスノーレンジャー」の育成プロジェクトが2013年、産学官連携チームによって始められた。留学生に理論・実技講習を提供し、認定指導員の資格を取得してもらう。こうして誕生したインストラクターがスキーレッスンに活躍している。同時に、彼らが自分たちの活動や北海道の魅力をSNSで発信したことが宣伝効果を生み、外国人スキー客の誘致拡大に貢献している。
実技講習でのレッスン
「おもてなしスノーレンジャー」の募集は、札幌市を中心に道内に約2700人いる留学生を対象に大学などを通じて行う。受講希望者は年々増えている。13年度の応募者は28人、14年度は30人だったが、15年度は58人に上り、書類選考を実施したほど。15年度の受講者は定員いっぱいの30人で、16人がスキーの技能を認定する「SAJバッジテスト2級」に合格し、初心者の指導に必要な北海道スキー連盟の「SAH認定指導員」の資格を取得した。
スノーレンジャーは、これまでの3カ年で33人誕生している。現在道内に居住しているのは25人(中国21人、台湾4人)。留学期間を終えた後、帰国せずに道内の企業に就職したメンバーがいるほか、ある台湾の男性は、さらに上級のSAJバッジテスト1級に合格し、スキーインストラクターとして道内で活躍している。
「昨シーズンは中国を中心とする個人客からレッスンの希望が増えた。母国語の指導へのニーズは高く、札幌市内のスキー場からは『来シーズンは毎日3人のインストラクターを送ってほしい』という依頼を受けている」。スノーレンジャーの育成、スキー場との連絡・調整を担うNPO法人おもてなしスノーレンジャーの副理事長、安田稔幸氏はそう話す。道内各地のスキー場から派遣依頼はあるが、インストラクターの学業や仕事、移動手段の都合で現状では札幌市のテイネスキー場、藻岩山スキー場などが活動の中心だ。
スキーの楽しさも実感
事業開始から3年目だった昨年度も、JTB交流文化賞の受賞などでスノーレンジャーに注目が集まり、国内外のメディアの取材が相次いだ。現在も、道内のスキー場が加盟する北海道索道協会から安田氏のもとに道内各地の研修会での講演依頼が寄せられている。
今年度以降も毎年30人程度の受講者を募り、インストラクターを増やし、活動の場を札幌周辺のスキー場やリゾートスキー場にとどまらず、ローカルスキー場へと広げたい考えだ。「少子高齢化や施設の老朽化で閉鎖となるローカルスキー場が増えている。住民に長年親しまれ、北海道のスキー文化を支えてきたローカルスキー場に外国人客を増やしたい」と安田氏。
ローカルスキー場の活性化のヒントになりそうな事例が、15年2月に北海道で実施された中国・上海の小中学生12人によるウインターキャンプ。上海のテレビ局の主催で、JTB北海道が手配を担当し、スノーレンジャーがスキーを指導した。「この時は札幌、留寿都のスキー場での活動だったが、スノーレンジャーの指導はとても好評だった。スキー以外の活動も周辺観光、雪の中でのバーベキューなど滞在全体を通じて満足してもらえた。こうしたプログラムの実施はローカルスキー場で十分に対応でき、訪日スキー教育旅行の誘致に可能性を感じた」(安田氏)。
外国人スキー客の誘致拡大にあたっては旅行会社への期待が大きい。ウインターキャンプの成功は、JTB北海道が、札幌市内の中学校への学校訪問を提案するなど、ビザ(査証)が免除になる教育旅行に組み立てたことも要因の一つという。安田氏は「こうした提案は旅行会社にしかできない。JTBをはじめ旅行会社と連携して誘客に努めたい」と話す。
NPO法人おもてなしスノーレンジャー副理事長の安田氏
受賞を契機に取り組みへの認知度が高まった。地元住民も、地域活性化に果たすスキーの価値を再認識した。事業の実施には財源が課題なので、応援してくれる賛助会員を募って持続的な取り組みにしていく。
来年は札幌で冬季アジア大会がある。2018年は韓国・平昌で冬季五輪、22年は中国・北京で冬季五輪。アジアのスキー人口は増加が見込まれる。スキーによる外国人観光客の誘致に今後も力を入れていきたい。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。