受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。
風を切って走るレールマウンテンバイク
江戸時代から日本の社会・産業の発展を陰で支えてきた神岡鉱山。馬車軌道から始まった神岡鉄道は2006年の廃線まで飛騨神岡地域の歴史そのもの。地域の人々にとっては廃線を交通近代化の結果とあきらめるわけにいかず、地域の歴史である軌道を守ることへこだわり、地元有志のアイデアと熱い思い、地元企業のモノづくりの精神が「レールマウンテンバイク」を生み出した。
レールマウンテンバイクとは、市販のマウンテンバイク2台を鉄道のレール幅に合せた特製のフレームで固定し、マウンテンバイクを2人でこぐことで前進する新感覚の乗り物。レールとレールのつなぎ目で「ガタンゴトン」という現役時代さながらの音を響かせ、「廃線」のネガティブなイメージを払拭しながら走り続ける。子供世代にはGattan Go!!(ガッタンゴー)のニックネームで呼ばれる。シンプルながら軌道そのものを体感し楽しめる観光資源に転換した。
枕木交換イベントの様子
廃線後に残された軌道は、見晴らしのいい高架や真っ暗なトンネル、四季折々の風景が広がる大自然、混沌とした鉱山の町並みが広がるスリル満点のコース。レールマウンテンバイクは、本物の線路だから楽しめる新しいレジャーとして、またさまざまな補助席を付けることで老若男女を問わず楽しめることから人気を集める。自転車が特製のフレームに強固に固定されているため、障がい者の利用も多く、「自転車に乗ることを初めて体験した」という感動の声も届いている。
創業から8年でレールマウンテンバイクの利用者は10万人を超えた。現在、定休日を除いて4月中旬から11月中旬まで営業している。NPO法人神岡・町づくりネットワーク レールマウンテンバイク事務局の田口由加子氏は、「保有する車両の種類や台数を整理し、大型バス1台分に当たる45人まで1度に対応できる態勢も整った。利用者の多い名古屋方面の都市部からの募集型ツアーについては、交通や宿泊なども含めた募集型手配の要望にも応じている」と話す。
地元の飲食店や土産屋に協力してもらい、飲食や購入が割安になる「おもてなしクーポン」も新たに作成。レールマウンテンバイクの利用者へ配布している。
延伸希望区間の漆山地区
現在、レールマウンテンバイクの運行区間は全延長の15%(2・9キロメートル)に過ぎない。運行区間が短いことと、自転車の台数が限られていることからキャパシティが不足し、繁忙期には利用できない場合もある。そこで待合の人や乗車できなかった人が楽しめるよう、ツアー集合場所である旧奥飛騨温泉口駅の構内では、側線を利用した「手こぎトロッコ Battan Go!!」の運行も開始した。レールマウンテンバイクの付加価値をさらに高めるため、「鉄道」というテーマを深く掘り下げていく努力も怠らない。
JTB交流文化賞の最優秀賞を受賞したのは13年のことだ。以来、JTBからの送客は年々増加しており、今年度はオプショナルプランなどで月に十数件、多い時は30件ほどのツアー客が訪れる。
支店だけでなく、代理店、提携店を含めた全国的なネットワークを持つJTBとの連携が深まったことによって、ツアー企画としてレールマウンテンバイクが販売される機会が増大した。田口氏は「日本全国の人が奥飛騨の小さな廃線利活用の取り組みの話をしているというのは正に奇跡のような出来事だ」と感慨深げに語る。
レールマウンテンバイクは神岡で開発された新しい乗り物。「車両のラインアップや運行規定なども複雑で、全ての窓口の担当者やお客さまに理解してもらうのは難しい。手配の際には、担当者とお客さまが『レールマウンテンバイクって何だろう』『どうすれば家族で楽しめる乗り方ができるのか』といったやり取りをしているのだと思う」と想像する田口氏。
運行区間の先には、17キロメートルの区間が延びている。沿線には渓谷や清流など神岡町民が誇る素晴らしい風景、スリリングな鉄橋など、現行のコースとはまったく違う楽しさがある。この区間にレールマウンテンバイクを走らせたいというのが創業当初からの夢だ。
NPO法人神岡・町づくりネットワークレールマウンテンバイク事務局
田口氏
大手旅行社であるJTBからの賞はスタッフ一同の大きな自信につながった。廃線利活用という全く新しい切り口のレジャーに対して本当に自信がなく、半信半疑の見切り発車的な事業の滑り出しだったからだ。
地域の活性化は、人数は少なくても、関係する「人」がどれだけの熱意とプライドを持ってその取り組みを「楽しんで」いるかどうかに関わってくる。それがお客さまに伝わり、実績となって結びつく。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。