受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。
整頓された工場内できびきびと作業する上田合金の従業員
東大阪は、旧・河内の国の中にあり「モノづくり」の町として知られる。東大寺の大仏を作ったのも河内鋳物師(かわちいもじ)といわれる職業集団で、その伝統は脈々と現在まで伝えられている。しかし、最盛期には1万2000社あった中小企業は今や6000社。
このままではモノづくりの灯が消えるという危機感から、モノづくりを通して、子供たちに、その楽しさ、大切さ、働くことの意義を、町工場の職人がこれまでの生き様とともに直接語りかける独自の「モノづくり観光」プログラムを構築した。
「夢を持つこと、挑戦すること」をテーマとしてホテルセイリュウが提唱し、町工場が賛同して始まったこのプログラムは、教育旅行で訪れた多感な生徒たちの心を揺さぶった。一方、職人にも、生徒たちとの交流により、教える喜びという新たなモチベーションが加わり、地域に少しずつ活気が出てきている。
上田合金の外観
「いかに良い物を作り、日本の国のためにもお役に立つ物を作るか。この基本的なことを忘れてはいけない」。船舶バルブなどの鋳造メーカー・上田合金は、従業員5人の中小企業。79歳の上田富雄社長は、父親から何度も言われ続けたというこの教えを自分にも言い聞かせるように語る。
東大阪の「モノづくり観光」プログラムでは、上田社長をはじめとする町工場の“おっちゃんたち”がモノ作りの技術と精神を伝える。参加者は学校団体を中心に年間7千人にものぼる盛況さだ。
モノづくりにスポットを当て地域を元気にする取り組みが始まったのは2008年で、JTBはこのときから深く関わっている。大阪モノづくり観光推進協会の足立克己専務理事・事務局長は「JTB西日本の社長も運営組織に入ってもらって、一緒に作っていこうと言ってくれた。行政の組織ではない純民間の組織にJTBが加わるのは珍しい。よく踏み切ってくれた」と振り返る。
11年にはJTBの団体企画商品「地恵のたび」として商品化。翌12年は「第7回JTB交流文化賞」の優秀賞を受賞するなどして、DMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー)を強く推進するJTBの中で、着地型商品の好事例として年々評価が高まった。「地域には宿泊やお土産購入による経済効果をもたらし、企業や自治体の視察も増えている。地域の新たな強みになっている」(煖エ広行JTB社長)。
今、次のステップを踏み出す時期に来ている。町工場のおっちゃんたちが「自分たちの思いを若者たちに伝えたい」と始まったプログラムだけに参加料金は最低限に設定。町工場は小さいから1回60分の見学、体験には20人ぐらいしか参加できず、利益とは程遠い。企業研修での利用も少なくないが、すべて同一料金としている。
鋳物で復元された銅鐸と銅鏡
足立専務によれば、町工場は大小あるが平均の年商は5億円ぐらいで、1時間に25万円を稼ぐという試算。見学時間中は作業が止まるわけだから、その時間の利益が消え去る。上田合金では修学旅行シーズンの半年間で約50校を受け入れており、「上田社長には頭が下がる」と足立専務。それでも「子供たちに何かを感じてもらえるし、子供たちが来てくれることでおっちゃんたちの心も元気になっていく」として、現在、町工場など約70社がプログラムに参画してくれているが、このままでは長く続かない。
次のステップでは、子ども、大人を分けて、企業や教職向けの「尖った」研修プランを作ること。第一弾として進めている企画は、考古学の専門家から話を聞いたうえで、鋳物の技術で銅鐸や銅剣、銅鏡の復元を目指している上田合金で、鋳物職人の指導を受けて銅鏡を作るというプラン。価格は20万円ぐらいを見込む。旅行商品として販売するために、地域限定旅行業登録も8月19日に申請。9月には登録を完了し、この組織でしかできない「尖った商品」を発表する計画だ。
その先に見据えているのは、インバウンド市場の開拓だ。「モノづくりは日本文化」というコンセプトで特に、日本文化に関心の高い欧米系の人たちをターゲットにして、モノづくりの原点を案内する仕組みの構築を目指す。地元の近畿大学に学生のガイドクラブを立ち上げてもらえるよう働きかけてもいる。
これらの新たな取り組みもJTBの協力を得て進めている。
東大阪市は50万人都市でありながら今も観光のセクションがない。足立専務は「町工場のおっちゃんたちを引っ張り出して勉強会をして、市長へモノづくりを核とした観光振興の提言を行っていきたい」と考えている。
大阪モノづくり観光推進協会専務理事
足立氏
JTB交流文化賞にはぜひ応募した方がいい。天下のJTBの情報発信力の中に入り込めるからだ。
JTBの営業担当者が自分たちの営業担当者として、地域を売ってくれる。経費的な換算をしたら、何百万、何千万にもなる。
私たちも単体でやっていたら、ここまでの広がりはなかっただろう。だが、JTBとの関係はどちらが川上でも川下でもなく、常にパラレルだ。そう思って互いに協力していけば絶対にいい結果が出る。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。