JTB交流創造賞

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受賞地域のいま

受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。

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「花嫁のれんのまち」のと・七尾 一本杉通り「語り部処」でふれあい 「茶の間の観光」

試験的に公開している花嫁のれん館の展示

石川県七尾市には、幕末から庶民の暮らしの中に溶け込んできた婚礼の風習がある。花嫁は、婚礼の時に「のれん」を持参し、婚家との縁の第一歩を踏み出す。一本杉通りの「花嫁のれん」は、この風習をモチーフに2004年にスタートした商店街活性化の取り組みだ。店々がのれんを飾って見せるイベント「花嫁のれん」と、店舗内でのれんの由来や家業をはじめ地域の生活文化を語る「語り部処」の二本立て。花嫁のれんは毎春の期間限定だが、語り部処は年間を通じて行われている。
選定では「加賀友禅と仏間の生活文化そのものが、自分たちの文化財という地域の誇りが感じられた。ノスタルジックな点がむしろ新しい」と評価された。当初は50枚ほどを飾る規模だったが、11年目の今春は170枚を数えた。展示期間中の交流人口は10万人を超え、語り部処と相まって交流文化賞にふさわしい進化を遂げている。

交流文化を顕現する「語り部処」

有形文化財指定の一つ醤油醸造店
有形文化財指定の一つ醤油醸造店

石川県七尾市では、メーンストリートの御祓川通りに接する全長450メートルの商店街「一本杉通り」が、まち中観光の舞台になっている。毎年4月29日から母の日(5月の第2日曜日)まで開催する「花嫁のれん」の展示と、通年の「語り部処」が舞台の主役。展示の期間中には、伝統の「青柏祭」(5月3〜5日)も開催され、重要無形民俗文化財指定の曳山行事(でか山)が繰り広げられる。

商店街が人口減少やそれに伴う経済活動の低迷に悩む姿は、全国各地に共通した現象といえる。一本杉通りでは、その打開策として2003年ごろから、町づくりと活性化策の推進を同時に取り組んだ。町づくりでは、かつての繁栄ぶりを残した店舗や邸宅の登録有形文化財化で、5件が登録された。

一方の活性化策では、交流人口の拡大に向け「花嫁のれん」のイベント化にたどり着いた。花嫁が実家の家紋が入ったのれんを持参し、嫁ぎ先の仏間の入り口にかけ、それを潜って先祖の仏壇に参ってから結婚式が始まる。旧加賀藩治世の幕末に始まり、庶民の婚礼風習として受け継がれてきた。

一本杉通り振興会の鳥居正子会長は、「観光客向けだけでなく、この町の人が身近にあって誇りに思っているものを見つけようとした。各家庭に眠っているであろうのれんを展示するだけなので、お金もかからない。1回目の呼びかけでは、商店街の38店舗で合計50枚を飾ることができた」と04年当時を述懐する。タイトルの花嫁のれんは、嫁入りに持参する「のれん」からネーミングされた。

1回目の成功は、七尾を「のれんの町」として喧伝した。ただし、のれんの期間展示だけが成功のカギではなかった。交流文化を顕現しているのは、まち中で展開されている「語り部処」にある。これが「お茶の間観光」の形態を生み出した。商店街を歩くと、店先に「語り部処」の看板が数多く出ている。その数25軒。語り部(店主など)が不在でない限り対応している。

花嫁のれんの話だけでなく各店の稼業や諸々の話に花が咲く語り部花嫁のれんの話だけでなく
各店の稼業や諸々の話に花が咲く語り部

交流文化賞の受賞は旅行会社へも大きなインパクトを与えた。例えば、11年にJATAのツアーオブザイヤーで国内旅行部門グランプリと観光庁長官賞を受賞したJTBの団体向け「地恵のたび」でも花嫁のれんが商品化された。

「語り部の話を聞きながら散策すると2時間は必要になる。教育旅行での体験学習にも効果的だ」(JTB国内旅行企画中部事業部・浅井学地域統括部長)と旅行会社の期待も大きい。

一方、いつ訪ねても花嫁のれんが見られる。あるいは花嫁のれんを潜る体験をしたいーーなどの観光客の思いとともに、旅行会社もそれらがあれば商品化し易い。だが、安直な展示や体験は地域文化の精神性を損ね、形骸化した展示に陥る危惧もある。そのジレンマ解消は、花嫁のれんの両輪、展示と語り部処にある。また、試験的に公開している「花嫁のれん館」は、16年春に七尾市の「観光交流センター」として開館を予定。

そして、花嫁のれんを糸口に交流の拡大を進める中、東京都世田谷区の喜多見商店街振興組合との姉妹提携も実現した。今春に続き9月27〜28日には「七尾物産展」が小田急線喜多見駅前で催され、商店会ならではの新たな取り組みへも発展している。

JTBも「支援を惜しまない」(浅井部長)としているが、旅行会社の支援を得て交流人口の拡大を図るには、「事務局となるコーディネート組織の充実が欠かせない」(能登半島広域観光協会・福田忍次長)との指摘もある。これらは、受賞を契機に多方面で高まっている期待の声とも言える。

一本杉通り振興会会長 鳥居氏
一本杉通り振興会会長
鳥居氏

交流文化賞受賞の声

地元の人々も活動を評価

受賞は、商店会だけでなく地域の人々と一緒に継続できた10年間が評価されたと受けとめている。来訪客が展示イベントを「すごいですね」と言ってくれるだけでなく、七尾の人々が私たちの活動を評価してくれたことがうれしい。
地元にいても花嫁のれんと縁の薄かった若い男性や、観光に興味を持っていなかった人々にとって、のれんは観光への関心をもつきっかけになった。受賞による観光客の増加があってのことと言えるだろう。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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