受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。
ガンガラーの谷を象徴するガジュマルの根
沖縄本島南部に位置する「ガンガラーの谷」は、古代と現代が交錯する"奇跡の谷間"。数十万年の時が作りあげた景観、1万年以前から人が暮らしてきた痕跡、そして今日に続く素朴な子宝信仰の祈りの場が、開発の手を免れて現代に伝えられた。1972年に公開されたが後に閉鎖、08年にガイドツアー専用エリアとして再公開された。
自然と人間が、それぞれの時代に調和を紡ぎ出してき証拠のような自然環境や文化、歴史など谷の価値は、未来へ伝えなければならない。ガンガラーの谷は、交流文化賞の選考で「その土地の価値を守り伝えるために、専門ガイドと歩くツアー」である点が注目された。さらに、「生命はどこから来たか」というガイドツアーの隠れたテーマについても、「最新の研究成果と共に目に見えない世界をイメージできるような工夫が印象的だ」と評価された。
沖縄トラベルナビのパンフ
沖縄県南城市の玉泉洞とガンガラーの谷は、県南部に明るい観光地を創りたいと、1972年4月に公開された。このうち玉泉洞は、今日まで公開を続けている。一方、ガンガラーの谷は、公開後わずか数年で谷内を流れる河川へ上流からの畜舎排水が流れ込み、その環境悪化から公開を中止した。その後、河川環境回復の状況を待ち続けながらも30余年もの間、閉鎖状態が続いた。
閉鎖している間に谷の存在は多くの人々から忘れ去られ、社内でも地域でも「この場所に価値はないのでは」という雰囲気が流れていたが、創業時からの「この場所にあるさまざまな価値を伝えたい」という想いに基づき、河川環境回復の状況から07年には公開へ向けた計画が始動、翌年8月に再公開となった。
特筆すべきは、ガイドツアー専用エリアとしてスタートしたことだ。見せるだけの観光と一線を画した取り組みは、着地型商品としての魅力を備えていた。それは、地元のJTB仕入部門にも強くアピールした。JTBによるガイドツアーの販売は、その再公開時から今日まで続いている。
ガイドツアーの企画によりJTBとの関わりが生まれた。これは観光客を増加させただけではなく、JTB交流文化賞へのエントリーにつながり、優秀賞の受賞に結び付いた。
この受賞は、「本土でガンガラーの谷の価値が認められたことで、沖縄の人たちにもその価値を再認識させるきっかけになった。また、観光関係者でない人々にも、ガンガラーの谷を沖縄人として応援していこうという意識を芽生えさせた」(南都公園部部長・高橋巧氏)。
ガイドの説明が一方通行で終わらないのも
魅力
同時にJTBでは、「受賞を契機に、もっと注目してもらえるよう取り組みの拡大に努める。沖縄の着地型観光を象徴するツアーに育てていきたい」(JTB沖縄国内商品事業部仕入企画担当課長・照屋昭子氏)と、販売強化にもつながった。例えば、受賞発表後の今年5月には沖縄のオプショナルプラン「ガンガラーの谷・非公開エリアを含む祈りのアドベンチャーツアー」を設定。このプランでは高橋氏を、訪れた人々に地域を愛する心で新たな感動を与えてくれる「感動魅力人」として紹介している。
さらに、JTB沖縄が運営するウェブサイト「沖縄トラベルナビ」では、今年4月から10月まで「第8回JTB交流文化賞受賞」と銘打った商品を設定している。これは、沖縄を訪れた観光客に着地の最新情報を提供するものだ。
ガンガラーの谷が独自に主催するイベントもある。毎年11月には谷の入り口にある多目的の洞窟・ケイブカフェで「魂の音楽祭マブイオト」を開催する。この音楽祭はアコーディオニストのcobaさんがプロデュースする。
JTBが着地型商品として注目する「ガンガラーの谷ツアー」とは、「ここにしかないフィールドの価値を守るために、より多くの人に価値を伝える」を運用理念に、案内板など景観を損ねる物は置かず、自然な状態の中でガイドが価値を伝えるもの。そのガイドには、学歴はさまざまだが、皆「この場所が好き」という人が集まり、カフェや谷の管理業務にも携わりながら研鑽に努めている。
こうした理念や着地型商品としての実例は、地域が交流文化事業に取り組むうえで参考になる。再公開時から一緒に取り組んできたJTBの照屋氏は「観光客向けとは異なる視点で地域や旅行業者などへの訴求価値も大きい」と今後の可能性も示唆している。
南都公園部部長
高橋氏
思考錯誤で行ってきた活動を再確認できた意義は大きい。東京でのプレゼンテーションでは、テレビでしか見たことのない先生方が居並ぶ前で、自分たちの取り組みを伝えられるだけでも、価値はあった。
授賞式にも驚いた。全国から観光関係者が集まっており、貴重な経験とともに、地域の取り組みを見てくれる仲間が、日本中にいることを感じることができた。
トライして損はないし、受賞後はかけがえのない経験が待っている。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。