受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。
にぎわう行楽シーズンの商店街
大分県の北部、国東半島の西側に位置する豊後高田市。過疎化や高齢化が進み、同市の小さな商店街はさびれきっていた。町の顔を再生させようと、商人、商工会議所、市役所の有志グループが立ちあがる。
商店街が元気だった昭和30年代の町並みがまだ奇跡的に残っている。これを活用して観光化しようと2001年9月に「昭和の町」がスタート。昭和初期の米蔵を改装した「昭和ロマン蔵」内に昭和のおもちゃなどを展示した「駄菓子屋の夢博物館」をオープンし、活気ある商店街をよみがえらせた。
今日では観光バスや視察団などが頻繁に訪れる活気ある商店街に生まれ変わった。
賞の選考では「地域に根付いた文化と観光客との交流は、観光による街づくりの代表例。綿密なリサーチに基づく計画性、町作りに向けた努力と組織力、豊後高田の独自の魅力を開発した独創性が過疎に悩む同市の活性化につながった」と評価した。
昭和の薫りただよう大衆食堂
「昭和の町の実力を問われた6年目の06年にJTB交流文化賞をいただいた。賞はこの町に価値があるという証明みたいなものだから、地域の人に自信を持たせてくれた。『昭和ブーム』はもうだめになるのではないかと不安も感じていた時期だったから、たいへんありがたかった」。観光施設や案内所を運営する豊後高田市観光まちづくり株式会社の代表取締役の野田洋二氏は、受賞をこう振り返る。
開業年の01年には2万6千人が昭和の町を訪れ、その後、観光客数は02年が8万1千人、03年が20万2千人、04年が24万9千人と順調に伸びてきた。しかし、05年は26万人、06年は27万5千人と小幅な伸びにとどまっていた。当時、野田氏が経営者として先行きを不安視したのもうなずける話だ。
この横ばい状況を脱するきっかがJTB交流文化賞の受賞であり、受賞翌年の07年は36万1千人と8万6千人も増えた。観光客数の増加は一過性のものでなく、以後、30万人を一度も割ることなく、近年は36万人前後で推移している。12年には38万人を数えた。
05〜07年の間には昭和の博物館「昭和ロマン蔵」の中に「黒崎義介 昭和の絵本美術館」やレストラン「旬彩 南蔵」、昭和の商店街や教室を再現した施設「昭和の夢町三丁目館」をオープンし、新たな魅力付けに努めてきたことが、07年以降の観光客増加の要因であるが、受賞が起爆剤になったことは間違いない。それは、「JTBのおかげで十数年間しっかり商店街が残っている。もし商店街が消滅していたら、地域の商人文化や祭り、イベントなどいろいろなものが地域からなくなっていたのではないか」という野田氏の言葉が裏付けている。
駄菓子屋の夢博物館内観
これまでJTBは、毎年、昭和の町へのツアー商品を企画するなど、賞を贈るだけでなく、送客やPRの面でも昭和の町をバックアップしてきている。実は旅行会社として初めて団体ツアーを組んだのもJTBだった。受賞が決まる以前の01年9月のことで、「観光バスが来るという話は商店街からすると感動ものだった」と野田氏。今や観光バスは年間2500台にものぼるが、その足掛かりとなった出来事だった。
JTBとは販売促進の面でもいろいろ取り組んできたが、なかでも3年前に共同で作ったポスターは好評だ。地域の人に昭和の町の魅力を分かってもらいたいとの目的で制作したもので、使用されている写真は地域の人と旅人が交流する場面がイメージされている。「外へ情報を発信するにはJTBの名前を一緒に出して行うのが一番効果的だ」(野田氏)。このポスターは日本観光振興協会主催の今年の「第61回日本観光ポスター展コンクール」で総務大臣賞に輝いた。
現在の課題は豊後高田市の広域観光を促進することだ。昭和の町は入り口。懐かしいボンネットバスを「昭和ロマン号」として土日祝日に走らせ、昭和の町から六郷満山ゆかりの寺社仏閣や六郷温泉、景勝地、食事処など市内の観光スポットを巡れるようにしている。野田氏は「3時間程度の観光では客単価は3、4千円程度。半日以上滞在してくれれば食事もとるし、泊まってもらえば土産も買って帰ってくれる。最終的にはJTBにも協力してもらい、着地型観光の商品を作っていきたい」と意欲を見せる。
豊後高田市全体で年間117万人の観光客が入ってくるが、市内に泊まるのは6%程度に過ぎない。宿泊客については10%の12万人にまで引き上げたい考えだ。
豊後高田市観光まちづくり
株式会社代表取締役
野田氏
地域の再生は、成功事例をコピーするのが簡単と思われがちだが、1800市町村が全部同じやり方で再生できるはずもない。地域ごとの個性をうまく生かすことが大事だ。
JTBの交流文化賞に応募してみると自分たちの取り組みの立ち位置がはっきりする。なぜなら、受賞すればもちろんだが、落ちても「魅力はあるが、やり方を変える」といったようにJTBからのアドバイスがあるからだ。地域の宝を見直すきっかけになるだろう。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。