JTB交流創造賞

  • トップページ
  • 受賞作品
  • 第15回JTB交流創造賞選考委員

受賞地域のいま

受賞地域はいまどのような取り組みを進めているのか、観光経済新聞社さんにリポートいただきました。

この記事をプリントする

漁村の暮らし体験が地域を再生する「番屋エコツーリズム」

漁業体験の参加者を乗せて走るサッパ船

岩手県田野畑村には、美しいリアス式海岸とそこで営まれる素朴な漁村の暮らしがある。昔ながらの漁師番屋が立ち並ぶ地元で当たり前の光景は、観光客を誘引し続けてきた三陸海岸の景勝地・北山崎に勝るとも劣らない第1級の観光資源だった。
体験村・たのはたネットワークは、「番屋」を田野畑村の自然と調和した暮らしの象徴として、生活体験プログラム「番屋エコツーリズム」を展開。漁船や漁業作業、魚捌き、農林業、漁師風工芸などを体験プログラム化した。
それらは東日本大震災で一変したが、多大な被害を受けた中で「被災地見学、防災教育という新たな体験の視点を加え、果敢に地域の人々の手による着地型観光をいち早く復活した」と称賛された。これがJTB交流文化賞の受賞につながり同時に地域復興へのエールにもなっている。

受賞を震災復興の力に

流失する前の机浜番屋群
流失する前の机浜番屋群

田野畑村は、岩手県の沿岸北部。三陸復興国立公園内に立地して海の自然が大きな観光資源。特に北山崎は、1999年に公益財団法人日本交通公社による全国の観光資源評価で、海岸では唯一の特A級評価を受けた景勝地だ。

だが、景観だけでは「写真を撮ったら通過されてしまう」との認識もあった。そして観光を核に据えた地域活性化策が模索され始めた。村の日常性に埋没していたものを、財団交通公社などのアドバイスを受けながら、漁村の暮らしを体験する体験観光プログラムへと磨きをかけた。

およそ13年前から取り組んだそれらは、地元発の「番屋エコツーリズム」として進化を続けてきた。だが、2011年3月11日、東日本大震災で状況が一変。のどかな漁村が一瞬にして失われてしまった。

田野畑の自然と調和した暮らしの象徴だった「机浜番屋群」は、跡かたもなくなってしまった。通過型観光から、体験や滞在型観光へのシフトで、その中心に位置付けられていた机浜の番屋群は、水産庁の「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」(06年発表)の一つにも選ばれていた。さらに、他の地域の体験プログラムと一線を画すアクティビティ「サッパ船アドベンチャーズ」の要である小型漁船・サッパ船は、ほとんど流失してしまった。

田野畑では、物理的に計り知れない震災や津波のダメージを受けたが、体験型観光を支える地元民の思い入れまで奪われることはなかった。震災から1カ月ほど後の4月には、復旧復興と観光による地域活性化が模索されていた。そうした一連の流れの中で特筆すべきが、JTB交流文化賞へのエントリーだ。この時点での入賞は未知数だったが、JTB交流文化賞への応募が観光を核にした地域一体の動きに目標を与え、地元関係者を鼓舞したことは想像に難くない。そこでのスピード感は、交流文化賞の選定理由の一つになった「いち早い復活」の一文にも見てとれる。

番屋跡で説明する武井氏番屋跡で説明する武井氏

それらは、交流文化を通して震災復興を支援しようとするJTBの企図(きと)=地元発の取り組みで継続的に行われる事業への支援=という意味で合致していた。また、地元にとって交流文化賞の受賞には、直接効果と間接効果があるようだ。

直接効果は、「観光業界で注目されている賞であり、多くの旅行会社の人たちも視察に来てくれた。大学のフィールドワークなど新たな客層を送りこんでくれる会社も出てきた」(体験村たのはたネットワークコーディネーター・武井俊樹氏)と、認知度のアップや経済効果を含めた地域活性化があげられる。また、JTBネットワークでのさまざまな活用に、今後への大きな期待感も生まれた。

間接効果としては、地元発で継続的に行ってきた事業が、的を射ていたものであることの証明だ。それは、村一体の取り組みであることを勘案すれば、村全体が全国レベルで高く評価されたことにほかならない。震災後4カ月ほどで再開したサッパ船、津波経験を風化させない取り組みとして被災地の住民による大津波ガイドなど、どれもが今後の展開に向けて大きな自信につながった。

いま、田野畑では流失した番屋の年度内の再建に取り組んでいる。方向性作りでは「JTBや財団交通公社の知恵も拝借したい」(同氏)とするなど、交流文化事業の再生への動きが盛んだ。間接効果としての地元の自信が、ここでの牽引役になっているようだ。

体験村・たのはたネットワーク コーディネーター 武井氏
体験村・たのはたネットワーク
コーディネーター
武井氏

交流文化賞受賞の声

地域見直すきっかけ

賞は、地域を見直すきっかけになる。また、地域には地元の日常など、住民では気がつきにくい観光資源がある。JTBや財団交通公社の人々にも加わってもらい、地域の宝の掘り起こしと、地元の人々による磨き上げが大切だろう。
さらに、受賞した地域を生かすために、受賞団体が集まった交流の場や相互視察の機会などがあれば、互いに切磋琢磨できるだろう。それらに一般の方が参加できれば、事業としても期待できる。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

  • 受賞地域のいま
  • 受賞地域の取り組み
  • 交流創造賞 組織・団体部門
  • 交流創造賞 一般体験部門
  • 交流創造賞 ジュニア体験部門

JTBの地域交流事業