JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第15回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

入選

大きなヒント

岸田 彩花(場所:フィリピン)

この夏、私は留学先で出会った少女に価値観を変えられる事となる。

「 Hello sayaka」

私の名前を書いたプレートを持つ小柄な女性が立っている。私の心臓はバクバクと音を立てた。留学に行く前、インターネットで「セブ」について何度も検索をし、予習をして心は期待で一杯で、楽しみで仕方なかった。しかし、空港に着いた途端、不安で心が締め付けられそうになった。なぜなら誰も知り合いのいない場所での英語だけの生活。三週間という期間、私はここで過ごせるのだろうか・・・女性のはじける笑顔に反するように、私の心は不安で満たされていた。

笑顔で手を振ってくれた女性は、私のガーディアンとなるヘラ。人懐っこい笑顔で話しかけられた。

「Nice to meet you」

英会話が苦手な私でも完璧に分かる言葉だ。しかし、この後の言葉はほとんど分からず、不安にさらに追い打ちをかける。だがヘラは私の気持ちを察し、笑顔でハグしてくれた。

今回の留学では語学を修得する事に加えてフィリピンの情勢なども学び、現地の小学校を訪問する事になっていた。語学の授業は順調に進み、合間にヘラはフィリピンの事について教えてくれた。

中でも私が驚いた事は、義務教育であるはずの小学生の卒業率が68%という事だ。家庭の仕事の手伝いなどで通えなくなる子供が30%もいるという事だった。今度訪問する小学生の3割が卒業できないのだ。

いよいよ、現地小学校を訪れる日が来た。ジリジリと地面が焦げるような日差しの中、バスに乗り、現地の小学校へ向かった。道の両側には小屋のような家が並び、舗装もされていない道を車が通るたび埃が舞い上がる。路上には車が通っていて危ないにも関わらず物を売り歩く人達がたくさんいる。小学生のような子供もいた。学校に行かず家計を支える労働者として、社会の一員となって働いているのだろう。

小学校に着くと子供達が笑顔で迎えてくれた。一緒に話したりゲームをしたりした。こんな子達の中にも卒業できない子が居るのだと思うと切なかった。私とペアになった子はマリアと言った。目がくりくりとしてゲームでもけらけらと笑う可愛らしい子だ。休けいの時間に入り留学先のスタッフが私達、留学生と小学生のケーキを一人一個ずつ配ってくれた。

周りの小学生がうれしそうに食べはじめ、みんなが半分くらい食べおわった時の事だ。マリアが全く自分のケーキに手を出していない事に気づいた。私は彼女に「ケーキが嫌いなの?」と声をかけた。マリアは小さくかぶりを振って、小さな手でケーキを大切そうに持っていた。その時、マリアは私に向かって何か言った。だがその小さな声は聞こえず私は聞き返した。するとマリアは

「Give me your cake」

申し訳なさそうに呟いた。私は小さいケーキだから二つ食べたいのかな?と思ったが他の子は一つしかもらえないのでマリアにあげていいのか疑問に思って、ヘラに聞いた。ヘラは「一人だけ二つケーキを持ってるのは他の子がかわいそうだからあげるな」と言った。私はマリアに「ごめん、あげれない」と伝えた。マリアは少し寂しそうに「分かった」と小さくうなずいた。その時、私は気がついた。彼女の靴がボロボロになっている事。そして私は「はっ」とした。なぜなら彼女が私にケーキをねだった理由が分かったのだ。それは、彼女はお腹の空いている家族の為にケーキをねだったのだろう、という事だ。彼女は自身もお腹が空いているはずなのに我慢しているのだ。そう思うと居ても立ってもいられない気持ちになる。今すぐに彼女にケーキを渡してあげたい。こう思った。

しかし、「時すでに遅し」とは、こういう事だろう。その事に気づいた時には、私も周りの人達と同様、ケーキを食べはじめていた。日本に帰ってからも、なぜもっと早く気づかなかったのか、と後悔している。彼女はきっと、皆が食べている間、お腹を空かして見ていたなど、むなしかっただろう。この優しい少女に申し訳なさがつのった。

この夏の留学を通し、私は「何故、途上国に産まれてきた子供達が貧困に苦しまなければならないのだろう」と考えるようになった。本当は貧富の差がなくなればいいが、それはありえないだろう。しかし食べ物に困ったり、子供が学校に通えない程の貧困はあってはいけない事だ。フィリピンを始め貧困に苦しむ国々の子供達を、せめて食べ物に困らない生活が送れるように世界中の人々が協力してこの問題に取り組むべきである。私は決してそうした問題を他人事として捉える大人になりたくない。この夏のフィリピンへの留学は私の人生に大きなヒントをくれた。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。
※本文は作品原稿をそのまま掲載しています。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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