JTB交流創造賞

  • トップページ
  • 受賞作品
  • 第15回JTB交流創造賞選考委員

交流創造賞 ジュニア体験部門

第15回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

最優秀賞

自分ルーツの旅

阿美 慈英(場所:鹿児島県徳之島)

ぼくの母方のそう祖父は奄美大島の離島にある、徳之島の伊仙町という小さな島の小さな町の出身だ。ぼくが生まれるずっと前、母が小学校の時に天国へいった。

そう祖父は十五才の時、一人で船に乗り東京へ向かった。そこで警視庁に就職をし、京都出身のそう祖母と出会い結婚をして五人の娘に恵まれた。四番目の娘がぼくの祖母だ。

祖母から聞いたところによると、なぜ知り合いもいない東京へ一人で来て、警視庁に入ったのかわからないそうだ。真面目で勉強ができたのと、体力には自信があったのは確かなようだ。都内のあちこちで署長や機動隊の本部長も務めた少し怖いお父さんだったと祖母から教えてもらった。

祖母が小学生の頃、突然正座をさせられ、日本列島を上から順に県名と県庁所在地を言わされ、間違えたり、できなかったりすると「非国民!出て行け!」と怒鳴られることがしょっちゅうあり、祖母にとっては少し近寄りがたいお父さんだったが、困っている人がいれば必ず助ける心の優しい人だったと祖母や祖母の姉妹が言っていた。

ぼくは会ったこともない、写真もあまり残っていないそう祖父に興味がわいた。自分のルーツを知りたいと思い、祖父母と母を誘い徳之島への二泊の弾丸旅行が決まった。

徳之島は一万人ほどが住む、手つかずの自然とキレイな海、冬にはザトウクジラが出産や子育てに来るような島だ。車で走ればあっという間に一周できてしまう。到着した日は雨でムシムシしていたが、徳之島空港に到着した時の祖母はワクワクしていて、若返ったように見えた。その日はホテルに一泊し、いよいよ伊仙町へ行く日、起きると太陽がまぶしいくらいに晴れていた。

車で伊仙町へ行ってみると、ただただ大地が広がる場所で、はっきり言って何もない。

そう祖父の戸籍は古すぎて、どこに住んでいたのか詳しい場所まではわからなかったが、恐らくこの辺だという下調べは祖母がしてきてくれた。その場所近くまで行ってみると、町に一つしかない伊仙小学校があり、そこには樹齢百年以上のガジュマルの大きな樹があった。百年以上ということは、そう祖父も見たに違いない。いくつもの幹がからみ合い、太い幹となっていた。そう祖父の頃はどれくらいの大きさだったのだろう。ぼくはガジュマルの太い幹に触れながら「ひいおじいちゃん、ばあばとママを連れてきたよ。」と話しかけた。祖母と母はお仏壇に持って行こうと、ガジュマルの下の砂をひとつかみファスナー式のビニールに入れて大切に持ち帰った。

伊仙町は起伏のある所で、急な坂を登れば海が見え、家もまばらにしかない。きっとこういう所を走り回っていたから体力があったし、身体も大きかったのねと祖母は嬉しそうに広がる景色をずっと見ていた。徳之島にも東京にも、もう親戚も知り合いもいないので、そう祖父がなぜ東京で警察官になったのかわからないまま徳之島の旅は終わってしまい、ぼくのルーツ旅も終わったと思っていた。

東京へ帰るため、徳之島から鹿児島へ行き、一泊した時のことだった。

ホテルから観光タクシーに乗り、市内をドライブしている中で、そう祖父が徳之島出身で、警視庁になぜ入ったのか誰も理由を知らないという話を運転手さんに話したところ、とても興味深い話をしてくれた。

日本の警察制度を作ったのが薩摩出身の川路利良という人物で、西郷隆盛や大久保利通らに評価され、明治時代に「日本警察の父」として初代大警視を務めた男がいた。川路という男は故郷をとても愛し、大切にしていて今でも鹿児島県民は川路利良を誇りにし、日本が安全な国として世界から認められているのは川路利良の功績だと教えてくれた。同じ時代に生きていたそう祖父は川路利良という人間を頼りに一人東京へ働きに出たのかもしれない。そう祖父は警察を引退した後も、東京で奄美県人会の会長や、東京で奄美に関する役員を長年続け、奄美緒島から出稼ぎに来る若者の面倒を見たり、そう祖父を頼りに警視庁に入りたい人に住まいを提供することを続けていた。情に厚く、男気のある人だったのだろう。

はっきりしたことはわからないままだったが、なんだか誇らしくもあり、嬉しくもあった。祖母の少し日本人離れした濃い顔、母の困っている人を見かけると平気で話しかけてしまうような性格と、父よりも男気のあるところ・・・・・・。

そう祖父とぼくの関係は少し遠くなるけれど、ぼくにも間違いなく奄美の血が流れていて、若いながらも一人で東京に出てきたそう祖父の強さを見習い、心の強い男になりたいと心の底から思った。

自分ルーツの旅はまだ始まったばかりだ。また新しい旅に出るために祖父母や両親から昔の話を聞こうとするか。

あらましと評価ポイント
【あらまし】

母方の曽祖父の生い立ちや人となりに興味を持った筆者は、祖父母と母を誘い、曽祖父の故郷である徳之島伊仙町へと自らのルーツを探る旅に出る。結局島では曽祖父の詳細を知ることはできなかったが、帰りに寄った鹿児島で、興味深い話を聞く。その話や祖母、母と曽祖父のイメージを重ねながら、自分のルーツである曽祖父への憧れと興味はますます大きくなっていく。

【選考委員の評価ポイント】

・珍しい世代感でのテーマが興味深い。今は亡き曽祖父を追う旅の形も新しく新鮮で、ストーリーに引き込まれていく。
・ストーリーを通じて筆者の優れた観察眼が見てとれる。歴史や時の流れの深み、それぞれの人間性などもよく描かれている。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。
※本文は作品原稿をそのまま掲載しています。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

  • 受賞地域のいま
  • 受賞地域の取り組み
  • 交流創造賞 組織・団体部門
  • 交流創造賞 一般体験部門
  • 交流創造賞 ジュニア体験部門

JTBの地域交流事業