竹下 慶
「えっ、私たちのために?」私にとって二度目となる台湾(高雄)でのことだ。私にはその意味がよく分からなかったのだが、“有朋自遠方來、不亦樂乎”という文字が並んでいた。
昨年の夏休み、私は「熊本青少年大使」として高雄を訪問し、そこでホームステイを体験した。忘れられないたくさんの思い出を胸に帰国した後もホストファミリーとは手紙で交流を続けてきた。
私より三歳年上のイヴァンと暮らすパパは会社員で、ママは銀行に勤めていたはずだ。それなのに、イヴァンが教えてくれたホームページには“休暇広告”が出ていた。彼らは今年、朝食用のお店をオープンしていたのだ。聞けば、基本的に休日は設定していないそうだ。私と母が三人に会いたいと言った七月二十五日、お店を休みにして朝からホテルのロビーまで迎えに来てくれた。「けいちゃんとママが来てくれるから!私たちは嬉しいの。」と優しく微笑んでそう言ってくれた。−心の友と呼べるような親友が遠くから訪ねて来てくれるのは、何と楽しいことではないか。−
そのような意味だと母から教えてもらったが、平日だったので少し会ってお茶でも飲みながらお話できたら…くらいに考えていた私たちにはやはり驚くべきことだった。それ以上にとても嬉しかった。台湾の人々は、相手に喜んでもらえることを自分の喜びとして非常に大切にし、次はもっと満足してもらおうと考えるのだそうだ。感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
私たちは笑顔で再会を果たした。実際には初めて会う母もそんなことを感じさせないくらい、思い描いていたとおりの家族だと嬉しそうだった。そうして私たちはパパの待つ車で高雄の街へと出発した。母たちは、ラインで連絡を取り合おうとWi-Fiを接続し、すっかり仲良くなっていた。
昨年同様、行ってみたいところや食べたいもの・飲みたいものがないかをいつも気にかけて率先して動いてくれる愛情いっぱいのもてなしは、私をとても幸せな気分にしてくれた。きっと母を安心させるために、私が昨年連れて行ってもらった場所(駁二芸術特区)や食べたもの(牛肉麺・タピオカ)を巡ってくれた。私も最新のガイドブックを研究し、トライした母との二人旅だったのだが、それにもまだ載っていない新しいスポットがあると疲れた顔を一切見せることなく案内してくれた。車で移動する間も街の様子を説明しながら、私たちが気になっているとすぐに立ち寄ってくれた。日本と違い、道路はバイクで溢れ、多くの車が路上に駐車しているところもあるのだが、パパのおかげで私たちはいつもドアの前で乗降させてもらった。夕方のスコールの後は、みんなの傘と荷物をパパが持ち、待っていてくれた。レディーファーストの文化は素敵だと思う。
食事の際に私たちが「いただきます」や「ごちそうさま」の挨拶をすると、イヴァンが慌てて同じ仕草をした。昨年、十分な英語力のない私が教えたことをちゃんと覚えていてくれた。私も一年前より少しだけ英語と中国語を勉強したが、まだまだ母の通訳なしでは理解できない。しかし、うまく話せなくてもお互いの表情やイントネーションで通じ合える時間を持つことができた。ちょっとしたことをこうして分かりあえる友が、家族が台湾にいるのだと実感できる一日だった。
別の日、母とはMRTを利用して市内を巡ったのだが、途中駅員さんが中国語のみしか通じず、細かな質問を英語でしても理解できず困った場面もあった。すると現地の男性が間に入って、私たちに英語で親切に説明してくれた。見ず知らずの外国人にスマートな対応のできる台湾の人に出会えたことで、私たちはさらに台湾が大好きになった。
一年前に初めて訪れた台湾に私の大切な友がいる。そこは私の大好きな場所だ。今後も訪れたいと思う。同じように、イヴァンファミリーにも是非、熊本に来てもらいたいと願っている。その日のために、私の住んでいる熊本のことをきちんと知り、誇りを持って紹介できるよう英語や中国語とともに学んでいきたい。
その後イヴァンから一緒に撮ったたくさんの写真が温かいメッセージで編集され、母のラインに送られてきた。私たちはこれからも時を重ね“心の友”として付き合っていこうと誓った。
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