JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第14回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

優秀賞

ベトナムでのボランティア活動

谷川 あさひ(場所:ベトナム)

「八月八日午前八時福岡空港」、ハチドリ隊の集合時間だ。私はこの夏、ベトナムへ植林活動と平和を考える旅に出た。親元を離れて一人で飛行機に乗るのも旅に出るのも、もちろん海外へ行くのも初めての経験だった。楽天的な私は、軽い気持ちでボランティアに申し込み、出発日を心待ちにしていた。しかし、英語が苦手な私は、姉から出国方法や入国方法の説明を受けるたびに、だんだん不安になった。

集合場所には、私以外に賢そうな中高生が十九人集まっていた。それに、OBの大学生が二人と添乗員と主催者の大人二人の総勢二十四人のハチドリ隊だ。周りを見回し、上手くやっていけるか緊張感は最高潮に達した。そこで、事件がおきた。

手荷物検査でやってしまった。「筆記用具としおりは手荷物にね。」見送りに来た母の直前の一言が、原因だった。緊張した私は、何も考えずにカッターナイフとハサミの入った筆箱を手荷物に入れてしまったのだ。「お客様、お荷物拝見してもいいですか。」ハチドリ隊の最後に手荷物検査をした私が、止められたのだ。複数の検査場に分かれたので、私の後ろはだれもいない。さっき顔を合わせたばかりの女の子は、しばらく待っていたが、私を置いて行ってしまった。最悪の出だしだ。「なんも入っておらんけん、早よして」心の中で叫んだが、とてつもなく長い時間だと感じた。慌てて、荷物を受け取り進むと、ハチドリ隊の数名が心配そうに待っていた。顔を見た瞬間、ほっと安心した。しかし、このことがきっかけで、同じ班の参加者とすぐに打ち解けることができた。

五時間のフライトで、ホーチミンの空港へ到着した。酷暑の日本より気温が低く快適だった。街は、車とバイクに溢れ、活気に満ち溢れていた。とても、私一人で道路横断はできないと思った。南国の日差しのせいもあったのか、見るものすべてがエネルギッシュでパワーを感じた。国が成長途中にあることが一目で分かった。

いよいよマングローブの植林だ。前日の大雨で、土はぬかるんでいた。全員、日本から持参した地下足袋に履き替え、作業に取りかかった。剣さきに丸太の棒が付いた、使いにくいスコップで穴を掘り、苗を植えた。粘土質の土がスコップにまとわりつき、思うように作業は進まなかったが、四百二十本の植樹をすることができた。目標の五百本には届かなかったが、とてもさわやかな気持ちになった。同時に、植林前の事前説明を思い出し、複雑な気持ちになった。

この地域は、ベトナム戦争で枯葉剤作戦の被害にあったところだ。大量の除草剤を散布され、この地域一帯の植物は枯れ、多くの生き物が死に絶えたそうだ。すみかのジャングルを失い、多くの植物や昆虫が犠牲になった。また、この地域に住む人々にも多くの被害をもたらした。ベトちゃん、ドクちゃんに代表される結合性双生児、多くの障害を持つ子供たちが誕生し、死産も多発したということだ。

どうして、戦争という愚かな行為を行うのだろう。なぜ、手を取り合い生きていくことができないのだろうか。クチトンネルはじめ多くの戦跡も訪ねた。日本は先の大戦で被爆国となった。ベトナムも枯葉剤作戦で甚大な被害を受けた。また、両国とも主戦場となり、多くの民間人が犠牲となった。近代戦争の主戦場となった両国が、先頭に立ち、戦争や貧困のない平和で幸せな世界の構築を目指すべきだと再確認させられた。

人の都合で、罪もない小さな虫もヘビもサルも決して殺してはいけない。地球上のどんな命もかけがえのない尊いものだ。植林活動は、ベトナム戦争の反省とともに、今問題となっている植林消失にともなう地球温暖化を軽減する目的もある。森林の消滅は、多くの生き物の生活の場を奪い取るとともに、地球全体の異常気象を引き起こし、世界各地で不幸な出来事を招いている。今、私たちが、森林保護の活動を起こさないと取り返しのつかないことになるのではないか。

中学二年で、海外でのボランティア活動や見聞を広められたことは、私に自信を与え、将来に大きな影響を与えたと思う。私は、獣医師になり自然保護に従事したいと考えている。そして、同じ地球に生を受けた仲間たちが、幸せに過ごせるような環境を作りたい。

人と野生の動植物が、ともに共存できる世界を作る手助けをしたいと改めて感じた旅だった。

あらましと評価のポイント
【あらまし】

親元を離れた一人での海外旅行。旅先のベトナムでのボランティア活動を通じて行った植林活動と、平和について考えた経験を描いている。この旅を通じて、筆者は人と野生の動植物がともに共存できる世界をつくる手助けをしたいと感じ、将来は獣医師になり、自然保護に従事したいと志すようになったという。

【評価のポイント】

・初めて外国へ行く不安や緊張感を素直に表現している。一方で、自分が関心を持つ社会的課題については、客観的・論理的な文が書けている。
・海外でのボランティア体験をもとに、将来は獣医師になり、自然保護に従事したいと真面目に進路を考えていることも好感を持った。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。
※本文は作品原稿をそのまま掲載しています。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

受賞作品

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