JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第14回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

最優秀賞

第二のふるさと

池田 幹央(場所:沖縄県石垣島)

「なんくるないさ」

僕が大好きな人に教えてもらった言葉です。沖縄県の方言で「まじめにたくさんの努力をしてきたのだからきっと大丈夫」という意味があるそうです。

沖縄県にある石垣島は、僕の第二のふるさとです。なぜ第二のふるさとなのかというと、それは家族全員生まれも育ちも東京で、おばあちゃんの家も車で二十分くらいで行けるところにあるからです。夏休みや冬休みにニュースから流れてくる「ふるさとに向かう車の列」とか「帰省ラッシュ」などという言葉を聞くたびに

「僕にはふるさとというものがないな。」

と思っていました。そこで、毎年家族で旅行に行く石垣島を勝手に僕の心の中で第二のふるさとにしてしまおうと考えました。

両親は僕が生まれる前から石垣島へ何度も何度も行っています。島で出会った多くの人たちと友達です。行くたびに大きくなる僕を見て、一緒に成長を喜んでくれる島の人たちは本当のおじさん、おばさんのようです。

「幹央は海人(うみんちゅ)になるといいさ〜。」

「おじちゃん、僕は上手に泳げないんだよ。」

「それなら島人(しまんちゅ)でいいさ〜。」

なんて会話もとても楽しく、ときには一緒に夕ご飯を食べたりします。

石垣島はとても静かな島です。昼間は人のいない真っ白な砂浜で飽きることなく波を見続けます。たまにヤドカリが近くに来て僕の横をせかせかと動いていきます。夜は空を見上げるとたくさんの星が輝き、たまに流れ星を見ることもできます。島の天文台にある大きな望遠鏡で輪までくっきりと分かる土星を見たときには、遠い夜空の星をとても身近に感じることができました。

今年の春は、月桃という植物の茎や葉を使ったコースターづくりに挑戦しました。樹木がたくさん生い茂り、木の葉が風にゆれてザワザワという音を立てる以外何も聞こえない静かな場所で、ゆっくりゆっくり編んでいきます。僕の隣には、何日もかけてカゴを編んでいるという地元の方がいました。

「黒糖をどうぞ。甘くておいしいわよ。」

と声をかけられ、差し出された黒糖を

「ありがとうございます。」

と言っていただき、口の中に入れると

「おいしいでしょ。おばさんはこの黒糖が一番好きなのよ。ところで、お兄ちゃんはどこから来たの。」

と聞かれたので、

「東京です。」

と答えました。すると、

「まあ、こんな何もないところに遊びに来るの。退屈でしょ。」

と笑いながら会話を続けます。僕が返事に困っていると、

「何もしないことをするために石垣島に来るんです。」

と母も笑いながら答えていました。

その言葉を聞いて、両親が石垣島を好きな理由がわかりました。東京では常に時計を見ながら行動することが多いです。電車の時間、バスの時間、学校や会社に行く時間・・・全てが時間にしばられている気がします。でも、石垣島では旅行ということもありますがめったに時計を見ません。ゆっくりと流れる時間の中で過ごすことがどれほどぜいたくなことか僕は初めて理解した気がします。

おしゃべりの時間が終わった後、またコースターづくりを続けました。出来上がったコースターは形は悪いけれど月桃の良い香りがする最高の宝物になりました。

楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。東京へ帰る日、宿泊していたホテルに島の知り合いの人たちが来てくれました。半分泣き顔で

「さようならっていう言葉は悲しいから、行ってらっしゃいと言うね。」

と言って、僕の手をぎゅっと握ってくれたみんなの手の温かさを僕は忘れません。

「お父さんやお母さんに話せないことがあったら連絡してきてね。相談にのるよ。何かあったら島で待っているからすぐに帰ってくるんだよ。」

と言ってくれたみんなの優しさも忘れません。

あらましと評価のポイント
【あらまし】

東京在住で、毎年家族旅行で行く「第二のふるさと」である石垣島での経験を描いている。毎年出会う島の住民との交流や、東京とは異なる時間の流れの中で過ごす贅沢さを感じた自身の経験を描く。

【評価のポイント】

・子どもの頃から両親と繰り返し訪れている石垣島で、日常と異なる時間を過ごし、島の人々と心温まる会話を交わして、新しい視野を得た本人の成長が素直に表現されている。
・石垣島で出会った人々の表情まで読み取れそうな生き生きとした会話の描写が素晴らしい。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。
※本文は作品原稿をそのまま掲載しています。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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