中川 大聖
夏休みの家族旅行は、一年に一回の楽しみだ。今年の旅行は、家族の予定がなかなか合わず、行き先もぎりぎりまで決まらなかった。
でも、お母さんのリクエストで、おぜに行くことが決まった。
おぜってどんな所だろう。ぼくは、おぜがどこにあって、何ができるのかわからなかった。
「ずっと、行きたかったんだ。」
とお母さんの声は、はずんでいた。
新かんせんやバスでのりついでおぜにとうちゃくした。おぜは、ぼくの好きな自然いっぱいの場所だった。
ガイドさんの案内でおぜたんけんが始まった。トンボがあちこちにとんでいた。よく見るとアキアカネだ。ガイドさんが、そっと手をさし出すと、トンボはガイドさんの手にふわっととまった。ぼくもやってみたいなと思った。手を高くあげて、一本指を空にかかげてじっとまってみた。すると、トンボがすっと寄ってきて、ぼくの指にとまった。すごくびっくりしてうれしくなった。何度もくり返すと、トンボも何度もぼくの指にとまった。まるで友達になったみたいだ。
カニとコウモリをいっしょにしたみたいなカニコウモリという葉。クマが大好物だというミズバショウの実。花火みたいな白い花がさくシシウド。むらさきの花がかわいいツリガネニンジン。たくさんの植物の名前を教えてもらった。
川をのぞいてみるとイワナがいる。ここのイワナは、人間がとったりしないから、にげることが少ないそうだ。ぼくは、「けいかいしんのないイワナ」と名前をつけた。
考えてみると、トンボも花もイワナも、人間にとられたり、つかまえられたりしないので、のびのび自由にしているように見える。ぼくの心もいつもよりなんだかすっきりしているし、おぜは、自然にも人間にも気持ちよい場所なんだなと思った。
おぜを歩いていると、いろいろな人とすれちがった。歩くのはとてもつかれるのに、みんな、
「こんにちは。」
とえがおであいさつをしてくれた。みんな、自然っていいなと感じているんだと思う。
おねえちゃんが、生物多様性(viodiversity)という言葉を教えてくれた。人も生き物もみな支え合って生きていくことという意味があるのだそうだ。
人間と自然は、いつも共にある。いっしょに助け合って生きていくといいと思う。ぼくの出会ったアキアカネは、人間のことをとても信らいしているように感じた。
おぜの旅行は、自然ってとても楽しいということを教えてくれた。お母さんが、ずっと行きたかった意味もわかった。このおぜのすばらしい自然がいつまでも続いてほしい。ぼくが大人になったら、また家族をつれてきてあげよう。
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