JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第13回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

入選

伝統工芸の未来を考えるin結城

森田 佑香

私の祖母は、長年アルバイトを続け、そのお金で着物や帯を少し集めていた。それを見せてもらった私は、日本の伝統工芸に興味を持ち、春に河口湖近くの久保田一竹美術館へ「辻が花」という絞り染めの着物を学びに行った。その第二弾ということで、この夏は「結城紬」という絹織物の産地である結城市を訪れた。

電車に三時間ほど揺られて、やっと着いた結城市は小さな町で、私の住んでいるところに比べると電車の本数やコンビニが少なくて驚いた。しかし、レンタサイクルで市内巡りをしてみると、昭和の名残がある商店街や、歴史のある大きくて立派な家を見つけ、私はのどかな雰囲気の結城市が好きになった。

まず、私は伝統工芸館に足を運んだ。結城紬は、なんと奈良時代から続く最高級品で、蚕の繭から糸を手でつむぐ「糸つむぎ」、布の柄をつける作業である「絣くびり」、そして「機織り」の三つの工程は、国の重要無形文化財に指定されているそうだ。二〇一〇年には、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。私は、結城紬が「紬の最高峰」と言われるまでのものとは知らなかった。

次に、実際に結城紬の着物を見ることのできる展示場を訪れた。広い畳の空間に、たくさんの着物が並んでいる。そこでまず、着物の持つ風合いにひかれた。一竹辻が花の着物は華やかでダイナミックな美しさがあったが、結城紬は奥ゆかしい、気品のある美しさだった。係の方によれば、すべての工程が職人の手作業だからこそ、味わいのある着物ができるそうだ。近くで見てみると、目がかなり細かくてとても驚いた。

その次は、機織りの体験として、結城紬のコースター作りをした。「地機」という機織り機で経糸に緯糸を打ち込んでいくと、だんだん布ができていく。慣れてくると、パタンパタン、とリズムが生まれて、本当に職人になったみたいだった。できあがった物は、目の大きさがきれいに揃わなかったけれど、思い出の詰まったコースターになった。

その後、一休みに大きな十字路の横にある、屋根付きの休憩所に座っていると、散歩中のおばあさんも隣に座った。そして、

「どこから来たの。」

と声をかけてくださった。おばあさんは、私が住んでいる場所の近くから結城市へ嫁いだそうだ。ローカル電車やおいしい魚のことなど、おばあさんにとって懐かしい話をした後、話題は結城紬のことになった。

今年八十二歳になると言うおばあさんは、もう何十年も結城市に住んでいるけれど、結城紬の着物を着たこと事は一度もないそうだ。唯一持っているのは、結城紬の小さながま口財布だけ。私は衝撃を受けてしまった。美しい着物が近くにあるのに…。しかし、考えてみれば本場の結城紬はすべて手作業だから最高級品であり、私達のような普通の家庭に手が出せるようなものではない。さらに、そのおばあさんは夫が早くに先立ち、一人息子を育てるのにかなり苦労されたそうだ。自分の町の特産品なのに、手が届かない。おばあさんの寂しそうな顔は、私の胸に深く刻まれた。

産地で結城紬のことを学んで、私はますます伝統工芸のすばらしさを感じていた。しかし、近年は需要の減少と後継者不足によって日本の伝統産業全体が消滅の危機に瀕している、という話をよく聞く。こんなに美しい伝統工芸品が消えてしまうなんて、もったいない。

結局、帰りの電車でも、家に着いた後でも、おばあさんのお話は頭から離れなかった。どうして、日本の伝統産業は危機に迫ってしまったのか。そして、私はある考えを持った。

現在、日本の伝統工芸品は芸術品や作品としてみている気がする。私も、今までそのように捉えていたかもしれない。芸術品として高価になり、おばあさんや庶民には手の届かないものとなってしまった。そして、西洋の文化が輸入され、筆よりもペン、着物よりも洋服となった今、伝統工芸品を買い求めるのはごく一部の人だけになってしまったのではないだろうか。しかし、ほとんどの伝統工芸品は、本来は日常生活で使われるもの。だからこそ何百年も人々に受け継がれてきたはずだ。

そこで、これからも日本で伝統工芸が受け継がれていくためには、人々が身近に感じられるような工夫が必要だと考えた。工夫をすることで、伝統工芸に興味を持つ人が増えると思う。そして、私のように、伝統工芸の良さを多くの人に知ってほしい。さらに、二〇二〇年の東京オリンピックは、外国の方にも日本の伝統工芸を知ってもらうチャンスだ。

今回の旅では、実際に見て、体験することで結城紬についてたくさん学ぶことができた。そして何より、地元の方の考えに触れ、伝統工芸について深く考えるきっかけを得られた。私は、この経験を通して、旅は人を成長させてくれるものだと感じた。

さて、次はどこへ旅をしようか。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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