JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第13回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

優秀賞

私の心に刻まれた「Cheers」

天野 可奈子 (旅先:オーストラリア)

えっ。そんな小さなことでも言うの?

「Cheers」という言葉をホームステイ先の家族から何度も聞いた。

私は、安城市の中学生交換留学生として、オーストラリアのホブソンズベイへ行った。受け入れ先の家族は、どんな些細なことでも感謝の気持ちを言葉に表していた。母親のジュリーが自分の娘にも家事を手伝ってもらったら「Cheers」と言い、娘のヘイリーも母に向かって、ベッドを整えてくれたときでも「Cheers」と、いつも言っている。

最初「Cheers」は「乾杯」という意味だと思って戸惑ったが、それは「ありがとう」という意味があるらしい。オーストラリアは移民の国。互いに知らない者同士で、意思を通じあうには「ありがとう」という言葉がけをしないといけなかったそうだ。ジュリーが教えてくれた。日本の私の家では、そんな些細なことで感謝の気持ちを伝えるのは少し堅い気がしていたけれど、オーストラリアではその一つ一つの気遣いに対して必ずお礼をしていた。

次の日、私はヘイリーが「Cheers」の言葉を何度言うか数えてみた。一日に二十八回も言葉にした。私のために家族でビーチやショッピングに行って楽しんだときも、「Cheers」の言葉は家族の誰からともなく係員や街の人に対し自然に出ていた。島国育ちの日本人は社交的ではなく、引っ込み思案であると言われている。私ももっと明るく積極的に関わらなくてはならないと思い、勇気を出して「Cheers」という言葉を使ってみた。ジュリーやヘイリーを始め、家族全員がこちらを向き、笑顔で笑ってくれた。私が「Cheers」の言葉をいつ使うか気にかけていたようだ。三日かかった。でも、その日からホストファミリーと私との間にあった垣根がなくなったように、お互いに笑顔が多くなった。ジュリーは料理が得意。特にチキンパイは、チキンと野菜の煮込み料理をパイで包んであって、スパイスがきいていておいしかった。日本にはない味で日本に持ち帰りたかった。味を聞かれたときも、もっと食べたいと言ったら、とてもうれしそうに笑ってくれた。

現地の小学校を訪問したときも、私が現地校の先生や子どもたちに「Cheers」という言葉を言うと喜んでもらえた。やっぱり「Cheers」は魔法の言葉なんだと痛感した。お別れの日、私もヘイリーもみんなこの言葉を言い合い、泣いてくれた。

帰国後、私は父母や姉妹から何かしてもらったときには、必ず「ありがとう」の言葉をかけるようにした。母から

「可奈子、どうしたの。人が変わったみたい」

と言われるようになった。私は、

「当たり前のことをしても感謝されれば、うれしいでしょう。ヘイリーがきたら、私みたいにしてね」

と、言葉を返している。半月が過ぎ、今度はヘイリーが私の家にホームステイにくることになった。私は、ヘイリーの家庭から学んだ「Cheers」の言葉を我が家にも広め、ヘイリーが心からくつろぎ、日本文化に触れてほしいと思い、家族にも協力を頼んだ。私の家族も理解してくれ、ヘイリーが来日するのを待った。

来日初日からヘイリーの前で「Cheers」の単語を家族の誰もが言うのを、彼女は笑ってうれしそうに聞いていた。我が家の歓迎が分かったのだろう。仕事で休みがあまりとれない父を家に残し、母と姉と私と彼女の四人で名古屋に行った。電車、バスを乗り継ぎ、名古屋城へ行った。彼女は列車の発車時刻の正確さや列車を待つとき二列に並ぶマナーの良さに驚いていた。また、お年寄りに席を譲る若者に感心していた。食事の時の「いただきます」「ごちそうさま」の挨拶などの日本文化にも興味を示した。日本人の人をもてなす文化にも関心を持ってくれた。彼女が帰国するときも「Cheers」の言葉で別れを惜しんだ。

私はオーストラリアで二週間ホームステイを経験し、観光旅行では味わえない、オーストラリアの人々の国民性を肌で感じることができた。異文化の人同士が共存するとき必要な感謝の言葉から発する、相手を尊重するという意味を体験的に学ぶことができた。人として大切なものホストファミリーから教えられた。そして、二週間ヘイリーを我が家に迎えることで、学んだことを活かすこともできた。また、交換留学で互いにもてなしあうということは、お金をかけたりものを贈ることだけではなく、心のもてなしが重要であることが分かった。

私は「Cheers」の言葉を常に心の奥に持って生活していきたい。この言葉のように、多くの外国の人と接し、異文化体験や日本文化の再認識を図ることのできる職業に将来就きたいと考えるようになった。

本当にありがとう。「Cheers。」

あらましと評価のポイント
【あらまし】

オーストラリアのホストファミリーが些細なことでも感謝を伝え合うことに初めは戸惑っていたものの勇気を出して感謝を伝えことで、相手との距離が縮まり、相手を尊重する、心のもてなしの意味を体験的に学んだ/また自分がホストファミリーとなりその経験を生かした

【評価のポイント】

●オーストラリアのホストファミリーが些細なことでも感謝を伝え合うことに、初めは戸惑っていたものの勇気を出して感謝を伝えことで、相手との距離が縮まり、相手を尊重する心のもてなしの意味を体験的に学んだ。
●「Cheers」という1つの単語でその国の文化に溶け込んでいく様子が表現されている。

※文中に登場する会社名・団体名・作品名等は、各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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