谷川 純白
ふわぁーっ、ゴンドラがはなれた。心はドキドキです。どんなけしきが待っているのだろうか。夏休みに、十勝平野で気球に乗りました。
朝早起きして空を見ました。天気が悪かったら気球体験は中止です。いつもは、ねぼすけのぼくも、夜が明ける前に目が覚めました。空は、どんよりとしてうすくキリがかかっていましした。
「無理かもわからんね。」父の言葉がショックでした。「もしかすると、実行されるかもしれないので、したくして。」私は、その言葉を信じて車に乗りました。
集合場所には、気球クルーがすでに到着していました。
スタッフが「おはようございます。」声をかけてきました。ぼくは、次に出てくる言葉がこわくてたまりませんでした。「中止です。」そう言われたらどうしよう。ぼくは、耳をおさえました。だけど、期待もあるので、指のすき間をつくりました。次の言葉が出るまでとても長く感じました。
「キリがかかっちゃいましたね。少し待ってみましょうか、たぶん飛べると思います。」
やったー、ぼくは飛び上がりました。
出発する場所を探しに車で走り回り、少し開けた河川しきを見つけました。気球を広げ、大きなせんぷう機二つで、ふくらませます。球皮は、そうぞう以上に大きく、おどろきました。八割がたふくらんだところで、バ−ナーの点火です。
「ジュボー」大きな音といっしょに、バーナーの炎が発射されます。辺りは、炎で、いっしゅん熱くなりました。気球は、みるみる立ち上がり、今にも、りりくしそうな勢いです。
ゴンドラには、ぼくら家族が乗りました。じょじょに上がっていく気球は、何とも言えない気分にしてくれます。だんだん、地上スタッフが小さくなっていきます。
ぼくは、思いっきり顔を上げ、周りを見ました。ゴンドラの下には、広大な十勝平野が広がっていました。しゅうかく直後の玉ねぎ畑は黄緑、大根畑は緑、麦畑は茶色、しゅうかく後の畑は黒、そば畑は白、色とりどりの畑が、折り紙を並べたように見えます。
今、ぼくは、鳥になったのです。
よく見ると、麦畑に、一直線のすじが見えました。エゾジカが走ったあとでした。
風にのって進んでいるので、風を感じません。バーナーが、ときどき「ジュボー」とひびく以外は、物音ひとつしません。空をスーッと、すべっている感じでした。
見るもの、感じるもの、すべてが初めての体験で、感動の連続でした。楽しい時間は、あっという間に過ぎました。
広々とした北海道で、鳥になり、風に乗れた気球体験は、知らない世界を知ることのよろこびを教えてくれました。
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