JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第12回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

入選

「国を超えてつながる」

池田 有沙

「日本から贈られた桜が、こんなにも満開で、こんなにもたくさんの人に愛されている!」

今年の春、アメリカのワシントンDCのポトマックの桜を見た時の私の誇らしく嬉しい気持ちだ。何千本もの桜の木が一斉に開花し、その姿がタイダルベイスンの水面に揺れている。リンカーン記念館の方から吹いてくるやわらかい風と漂ってくるほんのり甘い香りも心地よい。

ここワシントンDCの春を彩る桜並木は、明治時代が終わる半年前に日本から贈られた桜だ。ジャーナリストでもあり旅行作家でもあったシドモア女史が、日本の桜の美しさに感動し、タフト大統領夫人に進言。当時の東京市長であり憲政の父と言われる尾崎行雄氏がこれに応え、日米友好の証としてアメリカに贈られたらしい。

しかし、ここに至るまでには、シドモア女史や水野NY総領事、アドレナリン発見者の高峰博士などの長年の努力と強い信念があったようだ。シドモア女史は、日本の桜をワシントンDCに植えたいという一心で実際に日本から桜の木を取り寄せて、アメリカに日本の桜の木が根付くか試したり、桜を鑑賞する為のお茶会を開いて桜の美しさをアメリカの人に広めたり…と、実に二十四年間もの長い間粘り強く活動した。又、水野NY総領事と高峰博士は、シドモア女史と尾崎東京市長、小林寿太郎外務大臣を結び、祖国日本とアメリカの友好の為にと奔走した。この桜は、たくさんの人の思いがこもった桜なのだ。

それから百四年。母と兄とジェファーソン記念館、キング牧師記念碑、フランクリン・D・ルーズベルト記念公園に囲まれたタイダルベイスンをゆっくり散歩した。そんな桜の歴史を知ってか知らずか分からないが多くの人が桜の花を愛でている。桜を指差して何やらおしゃべりするお母さんと子ども、のんびり座ってサンドイッチを頬張る白髪の老夫婦、桜の下で着物を着て結婚式の記念撮影をしている外国人カップルもいた。みんな笑顔。笑っている。日本から送られてきた桜は、パンテオンのような白亜の殿堂ジェファーソン記念館をも取り込み、すっかりワシントンDCの景色にとけこんでいた。

実は、ここワシントンDCに来たのには一つの目的があった。それは、母が最も尊敬する研究者の上野博士と久能博士に私と兄を会わせる事だった。二十数年前、アメリカに渡った両博士は、画期的な新薬を発見した素晴らしい研究者で、その薬は世界中の人を苦しみから救っている。そのお二人は、ジョージタウンの歴史的建造物「エバーメイ」で私たち三人を迎えて下さった。

「遠いところをよく来ましたね。」

おだやかな声の久能博士。

「今はね、第一線を退いて科学者や研究者、芸術家を、ここワシントンDCで支援する活動をしているのよ。今日は、その演奏もあるから聴いていってね」。

ピアノとバイオリンの演奏が始まろうとしていたが、私の目は両博士に釘付けだった。彼らの話すアメリカ人顔負けの流暢な英語は、まるで宝石箱からアルファベットが流れ出してきたかのようにキラキラ輝いていた。

「私は今まで色々な人に助けてもらってここまで来たの。次は、人種や国籍を越えて、これからの人たちの役に立ちたいと思っているのよ。」

「桜、綺麗だったでしょう?桜まつりでは、私たち在米日本人も、茶道などの日本文化を紹介したり、音楽を演奏したりして日本とアメリカの交流を深めているの。」

そう話す久能博士とシドモア女史が重なって見えた。

演奏は、誰もがどこかで聴いた事のあるサンサーンスの名曲だった。その場にいたアメリカ人も日本人もドイツ人もみんな、耳慣れたメロディに頭で拍子を取って、音楽と一体になっている。私は、軽快で明るいメロディにも関わらず、体中が熱くなって涙があふれてきた。明らかに今までとは違う何かが、私の体の中に入ったような不思議な感覚だった。

ぼんやりとしか将来について考えた事のない私に一つの感情が生まれた。

「私も世界に出て行きたい。国籍や人種を越えて人と人はつながる事ができるんだ。」

ふと外を見ると、「エバーメイ」にもやっぱり桜があった。とびきり大きな幹の桜が。

本当に旅はすごい。今やネットで色々な情報は収集できるし、世界中の景色さえも色鮮やかに見る事ができる。しかし、今回のように実際に行って目で見て言葉をかわし、体で感じないと出会えない感情もたくさんあるのだ。そしてきっと旅をするたびにそういった感情が、私の心の幹を太くさせるのだ。あのワシントンDCで見た桜の幹のように。

※会社名・団体名等は、各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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