潮田 千尋
私は中学三年の夏休み、学校主催のカナダ語学研修に応募し、晴れて参加することが決まった。ずっと前から行きたいと思っていたのでとても嬉しかった。合格を母に伝えたら母は泣いて喜んでくれた。多額の研修費用を払ってまで行かせてくれるのだからしっかりいろいろなことを吸収して帰らなきゃとその時思った。実際に私はたくさんの人と出会い、たくさんのことを学んだ。新しい友達もたくさんできた。それをこれからここに書こうと思う。
私はバンクーバーに近い島の港町ナナイモでホームステイした。とても穏やかで自然が美しいところだった。街の人はみんな親切でフレンドリーでいつも笑顔だった。私がこの街で一番初めに会ったのが私のホストファミリーだった。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの二人だ。お祖母ちゃんは口が達者で私によく話しかけてくれた。でも私はあまり理解できなくてその時はいつもお祖父ちゃんが助けてくれた。これが私の日常だった。家に帰るとリラックスできた。お祖母ちゃんは顔が広くていろんな人と知り合いになれた。みんな私が英語があまり話せないからゆっくりでもたくさん話してくれて本当に嬉しかった。次の出会いは学校の先生と現地学生だった。私たちが楽しめるように本気でサポートしてくれているのが伝わってきて毎日がとても楽しかった。特に私のクラスの先生と学生は三人ともすごく個性的で面白くて優しくて見ているだけでもお腹が痛くなるくらい笑った。学生の人たちとは毎日おしゃべりして休み時間はバスケットボールやバレーボールをして、日本の友達と同じくらい仲良くなれた。最後に出会ったのが、私の考えを一番大きく変えた添乗員ののり子さんだった。彼女は四十年間バンクーバーに住むベテランのガイドさんだ。とても明るく面白い人で芯がしっかり通っている女性だった。若い頃に海外へ渡航した経験があるから私の知らない世界を知っていてそれを全部話してくれた。私が聞いたことは主に三つある。まず、私が彼女と話して最初の方に彼女が子供と言っていたので私は何の迷いもなくハーフですか?と聞いた。そうしたら彼女は、その質問には答えられないなと言った。なんでだろうと思ったけど理由はとても正論で、人間を半分と呼ぶのは変だから、だった。私はこれを聞いた時今までハーフの意味を知らずに使っていた自分が情けないと思った。確かに思い返してみると、日本では国際結婚は珍しいけど海外は多民族国家がほとんどだから国際結婚は当たり前のことだ。私は自分の知っている世界が狭すぎることを改めて痛感した。彼女は、私は二つの文化を持っている子という意味でダブルちゃんと呼んでいるよ、と言っていた。日本で使うと変かもしれないけど私は今日からハーフのことはダブルちゃんと呼ぶことにする。少し大人になった気がした。次に私が彼女から学んだのは外国の人の価値観だ。カナダの人は、その人がどういう文化に触れて育ってきたのかその人の人間性を知りたがるのだそうだ。初めて会った人と話をする時、日本人はその人の身なりや年や学歴を気にする人が多いように感じるらしく彼女は日本の若い人は化粧をしすぎで自分に自信が無さそうに見えると言っていた。カナダ人の中でルックスは二の次で化粧は大人になってからが常識らしい。そのままでみんなキレイなのよという彼女の言葉を私は信じることにした。こういうところにも国民性が出てると思うと世界は面白いと思う。最後に私が学んだことは、私も研修中に感じたことだったから一番心に残っている。それはカナダ国民みんなが友達なように生活していることだ。それがよく分かるのがお店のレジで店員と客は知り合いでも無いのにあいさつから始まってプライベートなことまで毎回分くらい話していたことだ。日本では有り得なかったから初めて見た時はとても驚いた。他にも通った人と目が合えばあいさつしてニコっと笑い合っていた。私はここで世界と日本の差を見せつけられた。これを日本でやったら変な人だと思われて敬遠されるし、レジで話しこんだら後ろの人に睨まれたり怒鳴られたりするだろう。彼女は、カナダはみんなが友達だから一人旅でも大丈夫。でも今の日本での一人旅は楽しめない。と言っていた。私はこれを聞いて悲しくなったのと同時に焦りも感じた。このままだったら世界から取り残されるような気がしたからだ。オリンピックもあるのにこれではいけないと思ったから私は日本を変えなきゃとまで考えた。
私は今回の研修でたくさんのことを体験し知ることができた。もちろん帰国してから分かる日本のいいところも改めて実感できた。いきなり日本は変えられないからまずは学校から変えると一緒に行った友達と誓った。私はいろいろな面で成長できたと思う。
カナダでのホームステイで、日本の習慣とは異なる数々の交流を通じ、おおらかな人々に共感した。現地ガイドの女性から広い視野での考え方を学び、日本を変える(学校から変える)決心に繋がった。
●良い出会いがあった。その出会いを通して女性の生き方をはじめ多くのことを学ぶことができた旅の様子を良く描いている。
●「ハーフではなくダブル」など、カナダだからこその体験が良く表現されている。
●学歴や身なり、気にしてばかりいる女性、みんなに読ませたい作品。
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