嶋村 康
「なぁなぁ、この機械って何?」
デンマーク・コペンハーゲンに着いた日の夕食を買いに行ったスーパーで、ぼくは使い方のわからない機械を発見した。
自動販売機の様な大きさの機械。だけど、自動販売機ならお金を入れる部分には、片腕が入る位の穴があいていた。説明書きには、デンマーククローネの金額とデンマーク語の文字があり、ぼくには読めない。母は、
「なんだろうね。デンマーク語はお母さんにもわからんわ〜」
と言って、さっさとレジに並んでしまった。
しばらく機械を観察していると、地元のおばさんがやって来て、穴に空のペットボトルを入れた。それからボタンを押し、機械からレシートが出てきた。
ぼくは近くにいた祖母をつかまえて、
「今、何をしたのか聞いて!」
と頼んだ。祖母はおどろきながらも、
「これは何をする機械ですか?今、何をしたのですか?」
と英語で質問してくれた。地元のおばさんは
「これは、リサイクルのための機械。ここにあるマークが付いている空き缶・ペットボトルを穴に入れると、初めにデポジットとして払っていた分の金額が書かれたレシートが出てきて、次の買い物で使えるのよ」
と、英語で答えてくれ、祖母が日本語で訳してくれた。祖母は、その後、
「いい方法ね!日本のスーパーには、こんな便利な機械は置いていないわ」
と、英語で話を続けていた。
ぼくは、二つのことにいいなと思った。
一つは、英語が話せること。
七〇代の祖母と五〇才くらいの地元のおばさん。どちらも英語の国の人じゃないけれど、共通の言葉を使って話をすることができる。ぼくも、来年からの中学では、英語をしっかり学習しようと思った。
もう一つは、もちろんあの機械。
いらないものを入れたら、買い物に使えるレシートが出てくる機械。スーパーというすぐに買い物できる場所に置いてあるのがいい。お使いのついでにとか、子どもでも知らないうちにリサイクルに協力できる。ぼくも、後日、実際に空き缶とペットボトルを入れてみた。穴に吸い込まれてグシャッとつぶされ、レシートが吐き出されるのは面白かった。
この機械に興味を持ったので、夏の自由研究はデンマークのゴミ回収について調べることに決め、帰国まであちこち観察した。
街角には黄緑色に統一されたゴミ箱や袋が多数あり、ゴミ箱を荒らす人が荒らさないですむように、施しを目的にしたゴミ箱も見つけた。ホテルからは、朝五時前にゴミ回収をしている回収車を毎朝目撃した。
デンマークは、ゴミ処理を考える際に「きれいな街を保つためにどうするか」考える国なのだと感じた。
現地で観察する面白さを知った旅だった。
コペンハーゲンのスーパーでたまたま見かけたペットボトル回収機。それを利用した現地の人と祖母の会話から英語の学習意欲も生まれた。リサイクルに関する興味も増し、環境保全にも興味を持った。
●海外旅行での体験から「なんだろう」という好奇心を発展させ、自分自身でいろいろと調べながら考えをまとめている。
●冒頭からの上手な文章、素直な表現で情景が浮かぶ。
●祖母、母、自分という3世代で、祖母や母、周囲の人々との会話が良く描かれている。大人を良く観察し、出会った人々との交流が良く表現されている。
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