上路 有音
キハ40の車内で、僕はおじさんを待っていた。たばこを吸ってくる、と言ってから十分、おじさんは手にコンビニの袋を持って帰ってきた。
今年の夏休み、鉄道が好きな僕は、東北地方へ一人旅に行ってきた。東京から、常磐線、磐越東線、東北本線を乗り継ぎ、新幹線を使わずに仙台まで行った。それだけではなく、さらに四日間東北地方の鉄道に乗ってきた。計五日間の旅で僕が印象に残ったのは、人々との“出会い”だった。
一人目の出会いは一日目、水戸と郡山を結ぶ磐越東線の車内で起きた。この列車には約二時間程、乗っている。立っているのは辛いので、ボックスシートの相席をお願いした。そのおじさんは僕と同じ鉄道マニアで、とても話がはずんだ。今までの長旅ではスマホで暇を潰していた僕は、こんな楽しみ方があると気付いた。気が付けばそこは郡山で、二時間はとても短く感じた。もちろん、磐越東線から見える景色はとても綺麗で、都会には見られない気動車の風情も味わうことが出来たが、おじさんとの会話は、凄く楽しかった。
二人目の出会いは感動的だった。四日目は三陸鉄道に行く予定で朝早かった。その列車は、青い森鉄道線三戸駅から、八戸を経由し八戸線の鮫まで行く直通列車である。キハ40の車内は国鉄時代の名残があって、車内空調などあるわけがなかったが、椅子は柔かいし、窓も開く。これは楽しそうだ、そう思った。そんな列車に揺られること十五分、途中の苫米地駅で、たくさんの人が乗ってきた。僕の座っていた四人掛けボックスシートの反対側に、そのおじさんは座った。今度は僕の方から話しかけてみた。
「どちらまで行かれるんですか」
おじさんは鮫に行き、釣りをするという。僕が東北の鉄道を一人旅で廻っていると伝えると、おじさんは八戸線や青い森鉄道の歴史や変化、そして沿線の魅力を語ってくれた。列車は八戸駅に着く。八戸では停車時間が三十分あるため、僕はおじさんに荷物を任せて駅弁を買いに行った。津軽海峡・海の宝箱。パッケージも中身も魅力的な駅弁だった。僕が席に戻ると、今度はおじさんがたばこを吸ってくると席を立った。待つこと十分、おじさんはコンビニの袋を持って帰ってきた。そして、僕に一つお菓子をくれた。まきば村のバターゴマせんべいというもので、おじさんが小さいころから食べていたという。一枚食べて、僕は感動した。シンプルなごませんべいにバターの風味がある、なんとも懐かしい味だった。おじさんが今まで食べ続けてきた理由がわかった気がした。生産量が増えたのか今は東北地方のほとんどのコンビニに売っていたがそれでも歴史のあるお菓子なのだろう。おじさん、ありがとう。
人々の出会いというのは最近少なくなってきた気がする。特に若い人は通勤・通学の時間スマホなんかをいじっていて、見知らぬ人と実際に会話するなんて、殆どないだろう。今回の旅で、僕はコミュニケーションの大切さを学んだ。今度電車に乗った時も、また誰かに話しかけようと思う。おじさんのくれたせんべいの味は、一生忘れないだろう。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。