JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第11回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

優秀賞

もうひとつの母国

タルノフスカヤ 藤原 瑛令奈

私は、夏休みに祖父母に会うために十二年ぶりにロシア連邦モスクワ市を訪れた。祖父母の心からの喜びと歓迎に胸を打たれた。

ほとんど初めて見るモスクワの町並みはどこも大変美しく感動した。赤の広場、クレムリン、ボリショイ劇場などは多くの日本人がテレビやガイドブックで一度は目にしたことのある有名な観光名所だが、そのほかにも広大な敷地に立つ巨大で美しい歴史的な建造物、細部まで手入れの行き届いた庭園が市内の各所にある。

町には行商人や、商品を指差して店員に手渡してもらって購入するソ連形式の商店がわずかに残る一方、ショッピングモールにはユニクロ・資生堂・スターバックス・マクドナルドといった外資系のお店を数多くみかけた。道路には多くの日本車が走り、スーパーやコンビニエンスストアでは、洗剤・消臭剤・栄養ドリンクやおにぎりまで、様々な日本のものも売られていた。一見したところ、人々は自由で豊かな暮らしを謳歌していて、東京に暮らす私たちとの違いは何もないように感じた。

冷戦下のソ連では、強い国家を作るために、国民に高度な教育が無償で提供されていた。特に科学・芸術の分野は世界の先端であったという話を祖母から聞いた。高度な教育があり、みな平等で、他人を思いやる心があった時代を懐かしく思う高齢者も多いようだ。一方、ロシアになった現在は、国家が個人の行動や考えを統制することは少なくなったが、経済的な豊かさと引き換えに、資本主義の社会で生きていくために競争が激しくなった。教育制度は崩壊し、経済格差が拡大、余裕のなさから人と人とのつながりが希薄になりつつある。そんな話を聞くと、ソ連時代とロシアの今とどちらのほうがよかったのか疑問に思った。どちらが好きかと祖母に尋ねると、「絶対に今のほうがいい。政府のコントロールの下で自由が制限された状態で生きていくのはとても大変なこと。自由であることは素晴らしいことだから。でも、よい教育や思いやりが少なくなってしまったことはとても残念だと思っている」という答えだった。

ロシアと日本は、永く関わりのある隣国で身近なところにたくさんのロシアがあるが、日本人が普段意識することは多くない。例えば、イクラやキオスクはロシア語がそのまま日本で使われている言葉だ。ピロシキやチャイコフスキー、童話の「大きなかぶ」は誰もが知っている。最近では「チェブラーシカ」も人気だ。日本の人々のロシアへの関心が低い一方で、ロシアの人々は日本にもっと関心を持っている。例えば、今、日本食は大ブームで町のいたるところに寿司バーや日本食レストランがたくさんある。日本製品への信頼も厚く、車や電化製品だけでなく、化粧品や衣類、日用品の品質のよさも評価されている。柔道や空手などの武道は昔から人気があるが、最近は音楽やアニメ、ファッションに強い関心を示す人が増えている。父の妹はお土産に「タビ・シューズ」を欲しがり、カラフルな地下足袋をシックなワンピースとうまくコーディネートして着こなしていた。日本のロシアに対する興味のなさとは対照に、ロシアにとって日本は信頼と憧れの国であるようだ。

今年は終戦から七〇年の年だが、ソ連はサンフランシスコ講和条約に調印していないことから、日本とロシアの間では現時点でも平和条約が締結されていない。冷戦が終結し、ソ連崩壊から二〇年以上たった今でも、北方領土やウクライナ併合といった領土問題、経済問題など、ロシアは西側諸国との間に多く問題を抱えている。汚職や経済格差などの国内問題、強硬なプーチン政権、笑顔を見せない国民など、私たち日本人が報道を通して知るロシアという国の印象は、決して好ましいものではない。

私は保育園に通っていた三歳のとき、同じクラスの男子に毎日、指を指され「外人!外人!」と呼ばれていた。わずか三歳の子供が「外人」という言葉の意味を本当に理解しているはずはなく、悪意を持ってクラスメートに使うことを、自ら思いつくとも考えられない。親や周りの大人が、自らが持つイメージや偏見を子供に植え込むことがどのような結果を生むのか、何も考えなかったのだろうか。

偏見や差別、対立や紛争は世界のどこにでもある。その原因のひとつに知識や理解の足りなさがあげられ、日露両国の関係にもあてはまる。若い人々がお互いのことを知る機会を持ち、それぞれの立場や考え方を理解し合い、ロシアと日本の新しい時代の新しい関係をつくっていくべきだと考える。

私は、もっとロシアについて深く知ることができるように、そして日本のことをロシアに伝えるためにロシア語を学びたい。私の母国である両国が親しい隣国の友人となれるよう、私が果たせる役割を見つけたい。

あらましと評価のポイント
【あらまし】

もう一つの母国 祖母のいるロシアへ。高度な教育が無償で与えられ人々が平等だったソ連の時代から、資本主義となり自由と引き換えに競争が激しくなったロシア。それでも祖母は自由は何より大切だという。日本からロシアへの関心は薄いと感じる筆者は、日本とロシアの新しい関係のためにもっとロシアを深く知りたいと考える。

【評価のポイント】

複雑な立場の筆者が自分のルーツの地を訪れたことで、日本とロシアの両国のことを考える契機になっており、旅の力が感じられる内容になっている。歴史的背景がしっかり描写できており、落ち着いた文章表現も良い。

※会社名・団体名は各社・各団体の商標または登録商標です。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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