三村 統
今年の夏休み、僕はイギリスのアスコットという町に、十六日間の短期留学に行った。現地の学校の寮に宿泊し、そこで各国の学生たちと一緒に英語のレッスンを受けたり、スポーツなどの活動をしたりした。この留学に僕が参加するのは二回目だったので、アスコットの町並みや学校の風景を、とても懐かしく感じた。学校のスタッフさんの中には、僕の名前を覚えてくれていた人もいて、より一層この学校のことが好きになった。しかし、いくつかあった再会の中でも特にうれしかったのは、ある友達とのものだった。
セルビア人のウロシュ君だ。去年、英語のレッスンで彼と同じクラスになったことをきっかけに、今ではメールや手紙のやり取りもしている。彼はとても積極的で、レッスンでもよく発言したり、プレゼンテーションを中心的に進めたりしていた。そして僕には、彼との、特に忘れることのできない思い出がある。それは去年、レッスン後の休憩時間でのことだった。僕は彼に思いがけない言葉をかけられたのだ。
「君はシャイなところがいい。」
それまで僕は、自分のおとなしい性格に少し負い目を感じていた。口数が少ないので話題に乗り遅れることもあったし、ノリが悪いと言われることもあったからだ。そして、周りの反応を気にしすぎて、人とあまり会話できずにいた。もっと明るくならなくてはいけないと焦っていた。そんな僕にとって、ウロシュ君の言葉はとても新鮮で、驚くものだった。自分の悪いところだと思い込んでいたものが、実は良いところでもあったということに気づかされたからだ。僕はそれ以来、ウロシュ君の、人の良いところを見つめる姿勢を尊敬し、見習いたいと思うようになったし、余計なことは気にせず自分に素直でいればいいのだと、楽な気持ちでいられるようになった。彼は僕にとって、とても信頼できる、気のおけない友達だ。
久しぶりに会ったウロシュ君の顔つきは少し大人っぽくなっていた。まず最初に、サッカーをした。正直なところ、それまで僕は、彼は運動が苦手だと思っていた。以前サッカーをした時も、サッカーが得意そうには見えなかった。しかし今回、彼は以前よりもサッカーが上手になっていた。相手チームのパスをさえぎったり、確実にパスをつないだりと、彼は見事なプレーを見せ、さらにはゴールまで決めた。僕は、彼の成長ぶりを垣間見たような気がして、彼により親しみが湧いた。
その後、彼の部屋で二人で話をした。彼は日本のことについてとても知りたがっていた。
「日本語のあいさつを教えて。」
「僕の家族の名前は日本語でどう書くの。」
彼は僕に次々と質問してきたので、僕は驚いた。また、自分をきっかけに日本の文化に興味を持ってくれたのかと思うと、うれしかったし、少し誇らしかった。他にも、互いが母国から持ってきたプレゼントを交換したり、一緒に写真を撮ったりした。時々英語が分からず言葉に詰まりながらも、互いの思いが確実に伝えられている感触が得られ、心地良かった。言葉の上手下手は関係ない。自分の思っていることを伝えようとする気持ちや努力が何よりも大切なんだと、改めて実感することができた。今度は僕がセルビアについて知りたくなった。
また、今回の留学では、新しい出会いもあった。レッスンで、ウロシュ君のルームメイト、ディーン君と同じクラスになったのだ。彼は、僕と同い歳なのに英語がとても上手で、ディベートをした時なども次々に意見を述べていたので、僕は刺激を受けた。ウロシュ君やディーン君以外のセルビア人の人たちとも、会話をすることができた。
去年と今年の二回の留学で、僕はとても大きなものを得られたと思う。日本から遠く離れた、全く環境の異なる場所に住む人とつながりを持ち、それをより深め、広げることができたと思う。そして、人と人とが出会うということが、どんなに奇跡的で、貴重で、大切なものであるかを実感することができた。もしイギリスに行かなかったら、ウロシュ君に一生で会わなかったかもしれないと思うと、本当に行ってよかったと思う。そしてまた、国境も文化も越えて、人との出会いを導いてくれる旅も、素晴らしいものだと感じた。これからもいろいろな場所に旅に行き、様々な経験をし、たくさんの人と出会いたい。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。