古谷 櫂
4月からぼくは自転車クラブに入った。小学校卒業の時に遠くまで走ることを目標に、少しずつきょりをのばしている。最初は20キロだった。5月の暑い日で、キャンプして翌日は海で遊んだのでクタクタになった。おかげで次の日の国語のテストでは、先生の「あと2分」の声で目が覚めた。
次は40キロ。日帰りで川遊びもしたけれど、2回目で体力がついたからか、あまりつかれなかった。ただますます黒く日焼けした。
そして夏休みに入って、福岡市から宗像市の大島までおうふく80キロの旅に出た。子ども10人大人2人、仲良しのヒロノリとタイガもいっしょだ。
自転車の整備をして、お母さんたちに見送られて出発。待ちに待った80キロ走行が始まった!うきうきしてペダルが軽い。人の多い天神では、列が途切れたりブレーキをひんぱんにかけたりしたが、すぐに細い道に入り一列になってぼくらはスピードを上げた。
ぼくとヒロノリは「マンホールよけゲーム」をしながらこいだ。マンホールの上にタイヤがのるとマイナス1点。思ったよりたくさんあるので、ハンドルを切るのが大変だった。
古賀市に突入。目的地までの半分を走ったことになる。いきなり周りは殺風景な道路と田んぼだけになった。日射しをさえぎるものがない。道が永遠に続きそうだ。アスファルトがはがれて穴になっていて、ガタガタして走りにくい。
急な長い坂に出た。それまでは平気だったのに、少しずつペダルが重く感じられる。きついけど、前に重心をかければ進む。汗で服がぬれて気持ち悪い。3、4人が自転車からおりたのでぼくは追い抜かした。坂になる度にこんな風に列はバラバラになる。でも先生はいつも一番前ですいすいこいでいた。
ぼくは塩アメが気に入った。後からすっぱいシゲキがくるので力が出るのだ。塩アメパワーでなんとか大島までたどりついた。
翌朝は、少しおそめのスタートだった。ぼくは昨日の走行とその後の海水浴のせいで体力100%ではない。足首はグキグキしてふとももも痛い。でもハンドルのふらつきはなく、ペダルも重く感じなかった。
帰りはゆるやかな道を通る。肥えだめの近くは息をとめて走った。カメやサギを見つけた時は盛り上がった。が、その元気もプールに寄って使い果たしてしまった。タイガは顔が真っ赤だし、無言の人もいる。ぼくも信号停車の度にハンドルにもたれてうつらうつらしていた。きつい。でもこの時間が続けばいいのに。
ゴールに近づくと「お帰りなさい」というお母さん達の旗が見えた。うれしかった。とうとう80キロ走ったんだ。でも終わっちゃうさびしさもいっぱいだった。よし、決めた。いつかヒロノリ達と九州一周しよう。ペダルを強くふんで、ぼくは行く。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。