JTB交流創造賞

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交流創造賞 ジュニア体験部門

第9回 JTB交流創造賞 受賞・入選作品

中学生の部

最優秀賞

旅のお土産

山中 良太

7月21日、まだ薄暗い5時35分、西広島駅から僕たちの旅は始まった。
今回の旅は、列車を乗り継ぎ、関西方面を巡るものである。
メンバーは、自称「広島学院鉄ちゃん友の会」の会員である四人。
青春18きっぷで朝から夜まで一日中ひたすら列車に乗るのが僕たちのいつもの旅のスタイルである。

ところで、僕には今回の旅に特別な目的があった。それは「たこ焼」を買うことである。ただのたこ焼ではない。三笠屋のおっちゃんが焼くたこ焼だ。三笠屋とは僕が小学校卒業まで住んでいた伊丹市にあるたこ焼屋である。狭い路地に面した小さな店で、おっちゃんは路地を通る人を見ながら暑い日も、寒い日も汗を拭き拭きたこ焼を焼いている。僕は自転車でそこを通り抜けながら必ず「こんちわ〜」とおっちゃんに声をかけた。おっちゃんも必ず大きな声で僕のうしろ姿に挨拶を返してくれたものだ。夏休み、プールに行く前には必ずたこ焼で腹ごしらえし、帰りにはかき氷でクールダウンした。これは僕の夏の大きな楽しみだった。かぜを引いて食欲のない時も、三笠屋のたこ焼なら食べられた。三笠屋のたこ焼は僕にとって伊丹の思い出の味なのだ。

そんな僕の気持ちを知るM君が、今回の旅の計画の中になんと15分間ほど伊丹に滞在する時間をとってくれた。ところが三笠屋は伊丹駅から徒歩九分のところにある。15分での往復はかなり難しいことが予想された。しかし、僕の三笠屋への思いとM君の思いやりが僕を三笠屋へと爆走させることとなった。

13時8分、尼崎に着いた。ここで宝塚線に乗り換えて伊丹まで快速で六分だ。僕にとっては慣れ親しんだ電車だ。外の景色を眺めていると、そこに住んでいないことがウソのようだった。いよいよ伊丹に到着。僕はいつも通り階段に一番近いドアから列車を飛び降り、いつも通り階段を駆け上がり、改札を走り抜けた。陸橋を渡り、左に曲がり、転がるようにスロープを駆け下りた。あとはいつも通り、よく行った本屋を右に、大通りを目指す。大通りを渡ったらあと少しだ。細い急な坂を下ると、そこが三笠屋へと続く狭い路地だ。僕は昔と同じようにたこ焼を焼くおっちゃんに「こんにちは!」と言ってみた。おっちゃんはいつも通り、たこ焼を焼きながら「いらっしゃい」と言って顔を上げて驚いた。「おおっ!」とたこ焼を焼く手が一瞬止まった。「予約していた山中です。」僕が言うと「電話の山中さんって、山中君のことやったんか?!」と店中の人が振り返る程の大声で叫んだ。ふと思いつき、「おっちゃん!弟にお土産を持って帰ったりたいんやけど、お願いできる?」と言ってみた。おっちゃんは喜んで「弟君の分5個程まけとくで!」と言って大急ぎでもう一箱たこ焼を包んでくれた。ちらっと店の中をのぞくと、扇風機の側の僕のいつもの席は空いていた。そこに座って焼きたてのたこ焼を食べられたら…でも次の電車まであと七分。「お父さん達にもよろしくな!」と叫ぶおっちゃんに、「ありがとう!おっちゃんも元気でね!」と返すと同時に僕はまた伊丹駅へ全速力で走った。

乗客の少なくなった列車の中で僕たちは包みを開いた。なつかしいソースの香り…走った時に傾いてしまったのか片側に寄ってつぶれていたにもかかわらず、そのたこ焼はやっぱり僕の一番好きなたこ焼の味だった。

その後、家に着くとすでに23時を過ぎていた。弟もとうに眠っており、長旅をしたたこ焼も弟が目覚めるまで一旦冷蔵庫で眠ることになった。そして翌朝、目を覚ましてたこ焼の包みを開いた弟一言「伊丹のにおいがする!」早速母が電子レンジで温めてやった。一口ほおばった弟はどんなにみんなが勧めてもどうしても2つめを食べようとしなかった。「みんなで一緒に食べよう。」と言って聞かなかった。僕は、たった15個しかないたこ焼なので、弟に全部食べさせてやりたかった。しかし、「せっかくだから、みんなで食べたい」と言いはる弟に、ついには母が「じゃあもらうね。」と1個、そして「やっぱりソースもかつお節も、三笠屋の香りがするね」と言った。その言葉にとてもうれしそうな弟の顔を見て父も1個。「うん、やっぱりうまい!」そして僕も遠慮しながら1個。2つ目を口に入れた弟は、「やっぱりみんなで食べると味がちがうね!」たこ焼を囲んで、みんなの口から、たこ焼を食べた時の様々な思い出話が続々ととび出してきた。

どうやら僕のお土産は、ただのたこ焼ではなく、みんなの伊丹の思い出だったようだ。

あらましと評価のポイント

●同級生との間で恒例となった青春18きっぷの旅の、今年の目的地は関西方面。筆者は小学校まで伊丹市に住んでいて、そこにあった思い出のたこ焼き屋に、友の計らいで再び訪れ、広島で待つ弟へのお土産を手に入れる。
●列車の短い待ち時間でたこ焼き屋へ走るシーンの躍動感のある描写が見事。また、出迎えてくれた懐かしのたこ焼き屋の店主や、家族で一緒に食べたいという弟など、人の温かみがあふれる作品。

※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。

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