唐木 秀徳
今年の1月下旬に、家族で新年旅行を楽しんできました。行き先は、もうしばらくすると、六年生の修学旅行で行く箱根です。初日は、箱根湯本温泉の宿に直行しました。
旅館の係員の方がぼく達の荷物を持って、気持よく部屋まで案内してくれました。
「このお部屋になります。ごゆっくりしてください。女将がのちほどご挨拶に参ります。」
と深々とお辞ぎをして立ち去っていきました。
「女将?誰のことを言っているの・・・」
とぼくのつぶやく声を聞いていた母が、
「この旅館の女主人のことよ。各部屋を回って、おもてなしの気持ちを伝えに来ます。」
とぼくに分かりやすく教えてくれました。
翌日は宿を早めに出て、箱根登山電車、箱根登山ケーブルカー、そして箱根ロープウェーと乗りつぎ、大涌谷に到着しました。谷底には緑がなくて、大地からふき上がるふん煙が、迫力満点でした。しばらくすると、
「秀徳、黒タマゴを買ってきたよ。食べよう。」
と姉が紙袋を差し出してきました。姉と並んで黒タマゴを食べながら、去年姉が修学旅行で大涌谷を観光したことや、修学旅行の思い出を、ぼくに色々話してくれました。
大涌谷からさらにロープウェーに乗って、桃源台駅に着くと、目の前は芦の湖でした。これから乗船する海賊船も見えて、ぼくの心の中は、箱根旅行の感動で一杯です。海賊船の終点港で、箱根登山バスに乗り換えます。帰路の箱根湯本駅を目指しますが、バスの中は満員でした。やっとの思いで、バスの前方に乗り込むと、発車しました。しばらくするとバスの運転手さんが
「お疲れの皆様に申し上げます。次の停留所で、このバスに乗りたいお客様が数人おります。このバスに乗らないと、電車に間に合わなくなってしまう方々です。箱根観光を楽しんできた者同志です。気持よく、乗車させてあげましょう。あと半歩でもいいので詰めていただけませんか。ご協力をお願いします。」
と伝えました。バスの中が一瞬静まります。するとバスの後ろのほうから順々に、詰め合っていく様子が分かりました。ぼく達が立っている場所も空間ができて、二歩下がれました。
ぼくはこの光景を見て、胸が熱くなりました。なぜなら、バスの運転手さんの想いが、旅行計画を立てた母の心配りと、宿でおもてなしの言葉を伝えに来た女将の姿、そしてぼくを思う姉の優しさと結び付いたからです。
「一期一会」という言葉があります。一つ一つの出会いを大切にし、出会った人々を受け入れたり、支え合うことが大切なのだと教えている言葉です。だからこそぼくは、出会いを大切にしてもてなす気持ちと、思いやる気持ちを持ち続けていきたいです。新年旅行が、ぼくに教えてくれました。箱根と再会できる11月を楽しみにしています。
※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。