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スープのレシピ
保坂 美季
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  公演の後、私は出口に立ち、来てくださった方一人ひとりに折り鶴をお渡しした。これは、渡航前、私が学校の友達と共に、丁寧に折ったものだ。「いつか日本に行ってみたい」と笑顔のアメリカ人。そして、「日本旅行をしたような気分。素晴らしかった」と、私の手を握り、英語で語ってくれた日系人のおばあちゃん。自分の目で見たことのない祖国、日本に思いをはせたのだろうか。私は胸がいっぱいになった。
  歴史に翻弄され、辛い過去を持つ日系人、その三世、四世となるアメリカ生まれのおじいちゃん、おばあちゃんたち。彼らとの出会いは、私に歴史を学ぶことの大切さを教えてくれた。人種の隔てを越え、多くの人に受け入れてもらえた私の劇、それを裏で支えてくれたロサンゼルスのあたたかい日本人コミュニティに感謝の気持ちでいっぱいだ。

  あれから三ヶ月。私は新たな出会いを求めて、またどこかに旅をしたい気分だ。私は旅が好きだ。行く先々で出会う人々や、新しい景色が、私に世界の広さとすばらしさを教えてくれる。
  私は今回、ハリウッドを歩くことも、ビバリーヒルズの豪邸巡りや本場のディズニーランドに行くこともできなかった。しかし、ロサンゼルスで過ごした一週間は、私の最高の思い出となった。ロサンゼルスは、本当にエンターテイメントの都だった。日々努力を重ね、いきいきと活動する、本物の「監督」「俳優」たちの姿。ハリウッド映画の大スターでなくても、彼らの存在そのものがロサンゼルスの魅力の一つなのだ。そして、中国系アメリカ人のホストファミリーが連れて行ってくれた、名前も知らない、小さな、観光客のいないビーチで、ホストシスターのオリビアと手をつなぎ、ゆっくりと沈んでゆく美しい夕日を眺めた時に一瞬だけホームシックになったことも、今となっては良い思い出だ。

  公演前日のこと。お世話をしてくださった県人会の方がこんなことを話してくれた。 「ロスは人種のサラダボウル。私たちの県人会のような、地域に根付いたコミュニティがたくさんある。支え合っていけるのは本当に心強いけれど、その裏には支え合わなければ生きていけなかった過去がある」

  公演直前の忙しさで頭がいっぱいだった私は、はっと目が覚めた思いがした。そういえば、ガイドブックに載っている小東京やチャイナタウンだけでなく、私が泊まっているホストファミリーのお家周辺には、韓国系・日系のスーパーがあるし、昼食を食べたのは、メキシカン料理店だった。何気なく通り過ぎてしまっていた景色の中に、様々な人種の人の暮らしがあった。
  確かに「ロスはサラダボウル」。でも、いつか世界が具だくさんのスープのように、互いが解け合い、それぞれの個性的な味を主張しつつ、受け入れ合ってひとつになれたらいいと思う。
  私がロスで経験した劇、それは監督の千絵さんや、俳優さん、県人会の方、陰でずっと支えてくれていた家族、そして私のみんなでつくりあげたものだ。誰ひとり欠けても、ロスの人々に喜んでいただける劇をつくることはできなかっただろう。一人ひとりの個性的なアイディアを、皆で積み重ねていったからこそ、おもしろく、味わい深い劇をつくりあげることができた。何度も話し合うことで、私たちは心を通わせ、ひとつにとなったのだ。このようなコラボレーションこそが、世界をひとつの「具だくさんのスープ」にするレシピではないか、と私は思う。
  無数に存在するコミュニティ、人種や文化、宗教の違い、世界は様々な「個性」であふれている。でも、その異なる一つひとつが互いを引き立てあえるような、そんなスープができあがる日が待ち遠しい。
  私は、いつか世界中を旅して、その地に暮らす人々との対話から、世界を見つめ、問題と向き合い、それを乗り越える方法を見つけたい。



評価のポイント
  筆者のオリジナル劇が、ロサンゼルスで現地の監督、俳優により公演されたことをきっかけとして、本物の監督、俳優、山梨県人会、家族と互いの心を通わせ、そのコラボレーションが、世界をサラダボウルから相互を引き立て合うスープにするレシピだと実感する。高校生の国際的な交流を通じた経験がよく描かれている作品。

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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。