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カナダで百人一首
後藤 桂子
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ランチ付き絵画教室
 カナダはもともとイギリスやフランスなどヨーロッパから渡ってきた人たちが造った国である。今でも英語とフランス語が公用語である。昔から移住者に寛容な国だったそうだが近年は台湾や韓国を初め世界各国からの移住者が年々増加していて、少し条件が厳しくなっているそうである。
 千恵子さんは日本に住んでいた時から絵が得意で、カナダに来てから自然に油絵を教えるようになったそうだ。お昼にお得意の料理をふるまう内に『ランチ付き絵画教室』として口伝えに人気が広まり、今では多くのアジアの人たちが彼女のB&Bに絵を習いに集まってくるのである。
 ショパンの曲が静かに流れる部屋の中で私も生徒さんたちと一緒に油絵を描いた。時々中国語や韓国語や英語の会話が心地よく聞こえてくる。部屋の壁には一面に彼女と生徒さんたちの作品が掛けられている。みんなすごく素敵な絵である。生徒さんたちはほとんどが近所に住む奥さんや若い女性だ。また外国の人と結婚してカナダに住んでいるという日本人の女性もいる。この絵画教室が異国で暮らす彼女たちの大切な交流の場になっている。テラスでのランチタイムはとても楽しい。お料理はおいしく、みんな会話が上手で話題が豊富。庭には千恵子さんが丹精こめた花が美しく咲き乱れ、芝生の上を吹く風も心地よい。
 しかし千恵子さんがこの地でここまでの信用と交友関係を築かれたご苦労は、並大抵なことではなかったはずである。多くは語られなかったが、最初は英語がほとんど話せなかったので第二言語を学ぶ人たちのための英会話学校に行ったのだが、なかなか親しい人もできなかった。また台湾や韓国の人たちとは「日本人」ということだけで言い知れぬ垣根ができているのを感じた。絵を教えることをきっかけに、周りの人と少しずつ交流ができ、次第にその輪が広がっていったということだった。そしてB&Bホテルに泊まられる日本からのお客様も徐々に増えてきているそうだ。本当にこんな広い異国で孤独にも耐えよくがんばられたと、彼女の芯の強さに感服した。


アジアの若い女性たちと
  土曜日には若い女性の生徒が3人、にぎやかにやってきた。台湾人の娘さんたちである。千恵子さんが私のことを「日本で英語の先生をしていた」と紹介してくれた。するとすごくにこやかに英語で話しかけてくる。さすがに若さあふれて物怖じしない。皆さんこちらの大学を出て、銀行や証券会社で働いているということだった。
 私はこのB&Bに百人一首をお土産に持ってきていた。この娘さんたちと、絵画教室のあと百人一首をすることにした。「これは一種のジャパニーズカードゲーム」というと、彼女たちは臆することなく興味を示した。まずは坊主めくりをすることにした。ルールは簡単である。絵札を見せながら、英語を交えて説明をし、トライしてみるとすぐに理解してくれた。
  「オー、プリンセス。ワンスモア」           
 「ヘイ、アイ・ガット・エンペラー」
 絵があるのですぐに慣れて、一枚めくるごとに楽しい笑い声が湧き上がり、すごく盛り上がった。日本人と同じ反応、いやもっと純粋に喜んでくれる。一ゲームを終わり、今度は百人一首をやろうと提案すると、みんな「O.K.」と乗り気である。異国の文化を理解しようとする気持ちがうれしい。
  まず短歌について少し説明をする。そして百人一首の遊び方を、ひとつずつカードを指しながら説明すると、結構すんなり納得してくれた。そして冒頭の楽しい百人一首大会が展開されたのである。彼女たちは最後まで楽しんでくれ、おたがいに心がつながったような思いだった。


民間の文化交流
 私は今まで海外に出かけるときは、お土産にお箸や風呂敷や折り紙を持って行った。それをただ渡すだけでなく、どう使うかを教えてあげて日本文化の紹介をしてきた。この先は海外旅行には百人一首も持って行き、日本にはすばらしい伝統文化があることを少しでも伝えたい。絵札で日本の美しい文字や着物姿や生活様式まで伝えることができる。福笑いもすごろくも羽子板もベーゴマも良いな。皆で楽しく遊んでいるうちにお互いにうちとけあい仲良くなれたら、ささやかな民間の文化交流になるのではないか。今回の「カナダで百人一首」のひと時は、私にとって貴重ですてきな体験となった。また異国の地で強く逞しく生きていらっしゃる千恵子さんから多くのことを学び、私も明るく前向きに生きていこうと心に誓ったのである。



評価のポイント
 共通の悲しみを持つ友人を訪ねることで、英語教師時代の価値観を思い出し、日本文化である「百人一首」が友人を通して知りあった外国人の方々との交流を深め筆者が再び活力を得ていく内容を評価。

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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。