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トップ > JTB地域交流トップ > JTB交流創造賞 > 受賞作品 > 交流文化賞(組織・団体対象) > 「ハットウ・オンパク」を通じた地域資源開発と町づくり
4 オンパクのテーマとその進化 オンパクの大目標は、温泉と健康をベースにした長期滞在地の形成にある。 すでに歓楽目的の温泉地は陳腐化しており、次世代温泉地の姿を描き、作り直す作業を始めないと地域はさらに疲弊する。このような危機感をもって、当初の組み立てが行われた。 資金も権威もないスタートだったが、すでに多くの人材が育っていた。この人材がオンパクを支えることになる。 第1回の01年秋から第12回の07年秋のオンパクまで一環したテーマは、次の5つである。これらのテーマに基づいて地域資源を活かした個人参加型プログラム商品を作っていくわけである。 1)天然温泉力の体験プログラム 温泉資源の豊富さは世界でも比類ない別府であるが、それをお客様が体験する機会は非常に少なかった。このために温泉マニアから、綺麗になりたい女性向けまで、多くのプログラムを作ってきた。 同時に旅館ホテル施設の内湯の解放も進め、その数は40軒以上に達している。かつては宿泊客以外は入れないことを前提に作った内風呂を外湯化していったのは画期的なできごとであった(99年開始)。 プログラムは、酸性泉と塩化物泉を組み合わせお肌がすべすべになる「二湯巡り」、温泉名人が同行する「五感で入る温泉巡り」などであるが、別府のマーケットにとっては、真にコアとなる温泉ファン層を伸長させていった。 その証左には、88カ所入湯すると温泉名人になれる別府八湯温泉道(01年開始)の名人位に1,500名が達し、挑戦者が常に5,000名程度存在する。 2)散策で地域文化の体験プログラム 疲弊した町、老朽化した町を見直して、過去の物語を現代に再生させることは町のアイデンティティーを再構築するうえで極めて重要なステップである。 この過程を市民レベルの町歩きから、自然と観光客が入り込むように仕向けてきた別府全域にわたる「散策プログラム」は時代の先駆けであった。 戦災を受けなかった路地裏を歩くと、かつての花街だった木造2階屋に格子戸があり、その風情が町歩きガイドの説明から彷彿と見えてくる。408本あると言われる鉄輪温泉の湯煙も、その仕組みはさまざまで、何気ない風景がガイドの蘊蓄とともに輝いてくる。 このような試みは、風景が日常化した市民を目覚めさせ、そして観光客にはここにしかない風景を提供することになった。現在、市内で定期化した町歩きは10コースに及んでいる。 春、秋開催するオンパクでは日常化した散策コース以外の新たなコースを開発し、町の再発見、町の文化発掘に努めることにしている。 年間の散策参加者はオンパクで把握しているだけでも1万人近くに達した。 3)温泉と健康(癒しと美)のプログラム オンパクの中枢を担うテーマは「温泉と健康」。団体歓楽型温泉地からの次世代温泉地づくりには欠かせないテーマである。 別府では98年以降、欧州温泉地との交流が盛んになったが、その中心になったのがイタリアのアバノ温泉とのファンゴ(温泉泥)の技術交流であった。この結果「ファンゴティカ」という別府独自の温泉泥エステ商品もできあがることになる。 またこの分野では別府に人材を集めるために、エステ系、スポーツ療法系、スピリチュアル系、マッサージ系と数多くのプロのインストラクターを募集し、オンパクの女性スタッフとともに売れるプログラムづくりを行った。 この過程のなかで、心身ともに元気になるウエルネス産業育成事業が大きな柱として育ってきた。交流人口増加を支える新たな産業としての役割を担うことになる。このためにスポーツ系インストラクターやエステ系の人材育成事業にも関わることになった。 一方で、地道な医療的エビデンスづくりも大分大学医学部や医師会と協働で行っている。ダイエット系プログラム、糖尿病プログラムの実施と簡易なエビデンスづくりを行い、最近では砂湯や蒸し湯の効能(ストレス検査やQOL検査)エビデンスなど、将来の布石として実施している。 4)自然の体験プログラムと広域プログラム このテーマは03年の第4回から加わった。別府の新たな発見は中心部から離れた中山間地域にあった。まずは、棚田100選にも選ばれた内成地区の棚田の魅力の掘り起こしから始まった。 別府では忘れ去られていた自然が周辺部に埋もれていた。これを地元の住民と一緒にプログラム化していく作業が始まる。 その後、周辺地域として別府市外にも遠出することになり、現在ではエコツーリズム系のエコバス企画として近くは国東半島、遠くは佐賀関、バスから船まで利用することになった。別府市民参加が多いプログラムだが、極めて好評で予約日即満員となる状況が続いている。 広域にわたるプログラム開発は、現地住民との協働作業で行われており、地域資源の開発にも役にたつうえ、別府の宿泊拠点化に欠かせないオプショナル商品としても期待されている。 5)地元ならではの日常の「食」の掘り起こし 集客交流人口を増やすには「食」は必須だが、オンパクの食は、別府人が日頃食べている「食」の提供である。 まず、手がけたのは鉄輪温泉の地獄蒸し屋台。鉄輪の湯治宿に残る地獄蒸しは温泉の噴気だけで、食材を蒸す伝統的料理法である。ざるに野菜、魚介類等を入れてそのまま所定の時間蒸すだけで、食材の味そのものをヘルシーに食べることができる。この味を殆どの人が体験したことがなかった。 町づくりに熱心な湯治宿の主人と相談し、野外に地獄蒸し屋台を作り、その地獄釜を見ながら料理を食べられる場をオープンした。これが今では大評判になっている。 また、中心街では竹瓦温泉前の広場で路地裏食堂をオープンするなど、地元の食を提供することに徹している。その後、中心街含めたB級系グルメのお店を特集、オーナーとその時にしか食べられない食プログラムなどを展開している。
5 地域活性の手法としての「オンパク」 以上みてきたように、オンパクの活動は地域の住民、小集団、中小事業者、大学などを巻き込み多様な形で日常的に推進されている。 春と秋のイベントとして起こし、これらの活動を整理して、地域のプロモーションのためにコンセプトやテーマ、対象マーケット等の方向性を決めて、総合的に集客効果を上げる技術を磨いてきたことに成功の要因がある。 その運営を支えるのは、予約システム、顧客システムなどのIT基盤整備(オンパクASPサービス)でもある。これらを総合して、オンパク的手法は地域活性化のための地域資源の商品化に役立つことが実証されたといえる。 オンパクが蓄積したきたこれらのノウハウを他地域へ波及・移植する事業を昨年度から始めている。「ジャパン・オンパク」事業と称し、06年秋には「はこだて湯の川オンパク」が開催され成功裡に終えることができた。 その後、07年5月には長野県鹿教湯温泉(「里山のパッセジャータ」)でも開催、今後は大分県内での展開を(社)ツーリズムおおいたと行うほか、いわき湯本温泉などで導入が図られる。 さらに、07年度からは経済産業省の「地域新事業活性化中間支援機能強化事業」にてオンパク的な手法で全国20カ所程度の地域活性を行う3カ年計画を立案している。 このようにオンパク的手法は地域活性に有効であることが徐々に証明されてきてはいるが、別府の地域目標とする滞在型観光地づくりにはまだまだ時間が必要である。あくまでオンパクは地域資源を商品化し、コミュニティ・ビジネスの起業や中小企業の活性化に役立ちはするが、これらは町のソフトウエアとして有効なのであり、一方では町並みや景観などのハードウエア整備も必要とされている。 観光地では地域資源が商品となりソフトウエアとして流通するようになったとしても、町並みや景観の破壊が生じることは致命的マイナス要素となりうる。 サスティナブルな活性は、ソフトが求めるハードを作り、バランスよく地域の空間が維持されていくことに他ならない。 地域づくり、コミュニティ・ビジネス起業としてのオンパクは成功しているとは言えるのだが、今後の町のハード投資が別府の観光地としての魅力を決定付けるものと考えている。