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第2回 JTB交流文化賞 受賞作品紹介
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〜イベント「小樽雪あかりの路」を通じて〜

小樽雪あかりの路実行委員会
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5 イベント「小樽雪あかりの路」
  さて、近年こうして多くの観光客が訪れている小樽ですが、冬季には観光客が著しく減少する閑散期となります。この時期に何とか集客を図れないか、歴史的建造物等を数多く有する街並みや景観を有効活用した新しいイベントが開催できないか、通過型観光から宿泊型観光にしていくにはどういった方策があるのか、こんな発想から官民一体となった議論の末、イベント「小樽雪あかりの路」が平成11年に生まれました。厳寒の2月に小樽全体がろうそくの温かなあかりに包まれる幻想的なイベントであり、イベント名は小樽ゆかりの作家伊藤整の詩集「雪明りの路」に由来します。主催する小樽雪あかりの路実行委員会は、主に地元企業や商店街などの有志によって構成されており、事務局は小樽市経済部観光振興室が担当しています。
  イベント期間中の小樽市内は、メイン会場となる「運河会場」と「手宮線会場」のほか、市内全域が会場となって15万本のろうそくに彩られ、運河の水面に浮かべた約400個の浮き玉キャンドルや散策路に設置されたスノーキャンドル・オブジェなどが冬の幻想的な世界を創出し、温かなあかりが来場者を魅了します。これらの会場では、スノーキャンドルの製作からろうそくの点火まで、全ての作業がボランティアスタッフらによる手作業で行われています。かじかむ寒さの中で壊れたスノーキャンドルを補修したり、風で吹かれるろうそくに、消えても消えても火をともすという、地道で、ある意味では非生産的な作業を繰り返す忍耐が必要です。「小樽雪あかりの路」がこだわり続けている基本コンセプトの一つが、「手作り」のエコイベントであり、雪の中に揺れるあかりの美しさは、こうしたボランティアスタッフの手によって支えられています。
  スタッフがスノーキャンドルを作っていると、それを見た来場者から自然と「お疲れさま。寒いですね」と声がかかり、「どこからいらっしゃったんですか」と会話が始まります。
  運河の水面に浮かべている浮き玉キャンドルも、中に電気をともすのであれば手間もかからず簡単なのですが、あえて、ろうそくのあかりにこだわって手間をかけています。波の高い日には中に水が入って火が消えてしまうため、ロープを手繰りよせて一つひとつろうそくを交換しなければなりません。氷点下では、さらに大変な作業となります。そばで見ているカップルから、自然と「ご苦労さま」と声がかかり、この声でしばれたスタッフも温かくなれます。現代社会では希薄になりがちな人と人とのつながりが、厳寒の夜「雪あかり」という情景の中で生まれ、スタッフがもてなしのあかりを決して絶やさぬよう雪や寒さに苦労している姿が共感を呼び感動を与えます。来場者とスタッフとのこうした会話やふれあいこそが、このイベントの真の醍醐味といえます。
  「小樽雪あかりの路」で使用するろうそくは、道内で唯一となる市内のろうそくメーカーの協力により、風にも強く長時間もつようにとイベント専用に作ったものです。前述の浮き玉キャンドルも、元はといえば鰊漁の網につけていた漁具で市内の職人が吹いてくれたものであり、小樽産にこだわっているのもこのイベントの特徴です。
  イベントの普及に向けて、町会や幼稚園、保育所、小・中学校などに積極的に参加を呼びかけるとともに、実行委員のメンバーが市内各所へ雪とろうそくを使ったスノーキャンドルやオブジェの製作の指導に出向いています。また、市内に80箇所以上のろうそく販売店を設け、ろうそくを入手しやすくしたり、オブジェの出来栄えを競うコンテストなどを実施しています。これらのことが功を奏し、回を重ねるごとに町会や学校などの単位で参加する市民の数も増え、市内に「雪あかり」が着実に広がりを見せています。冬の小樽では、どこにでもある「雪」と「ろうそく」という身近な素材を用いて、誰でもオブジェづくりが手軽に楽しめ、家の中にこもりがちになる冬季における健康増進のほか、町会や学校単位での参加は、近年、希薄になりがちな地域コミュニティの醸成にも大きく貢献しています。
  こんなイベントに共感し、学生から主婦、お年寄りまで多くの皆さんが、ボランティアスタッフとして参加してくれており、その数は延べ1,600人に上っています。また、遠く海外からの参加もあり、とりわけ韓国からは小樽を舞台とした映画の影響などによる「小樽」の知名度の高さからか、学生を中心に毎年40名程が団体で参加してくれています。参加者をインターネットで募り、数百名の希望者の中からメンバーを選抜してくるのだそうです。一方、迎え入れる小樽では、韓国語の勉強会をして待っているボランティアスタッフたちがいます。イベントを通じた国際交流も着実に進められています。
  こうして、多くのボランティアスタッフに支えられている市民手づくりのイベント「小樽雪あかりの路」は、同時期に開催される「札幌雪まつり」とは対照的な「静」のイメージにこだわって、着実に来場者を増やしています。


6 おわりに
  平成18年(2006)3月、「雪」と「歴史的街並み」という地域資源を有効活用し、地域住民の力でまちに新たな魅力を生み出してきたことなどが評価され、財団法人地域活性化センター主催「ふるさとイベント大賞」において、最高賞である大賞(総務大臣表彰)を受賞するなど、「小樽雪あかりの路」は、知名度も年々全国的に高まってきております。
  これからも、おもてなしの心のこもった市民手づくりのイベントにこだわり続け、ボランティアスタッフと観光客とがふれあうことのできる体験メニューの充実など、人と人との繋がりを大切にした魅力づくりを進めていきたいと思います。



評価のポイント
 小樽運河や手宮線の廃線跡を利用して市民有志が手作りで始めたイベントが北海道の冬の風物詩にまで成長。景観保存から通年観光への努力と継続性、市民ボランティアと観光客との交流、外国人ボランティアの参加など官民をあげてますます拡大していることを高く評価した。

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※賞の名称・社名・肩書き等は取材当時のものです。