Vol.12
2020.1.10
流大選手インタビュー
日本中を熱狂させ、感動を与えたラグビーワールドカップ 2019™日本大会(以下、ラグビーW杯)。全試合に先発出場し、史上初のベスト8進出に大きく貢献したラグビー日本代表の流大(ながれ ゆたか)選手(サントリーサンゴリアス所属)に今大会を振り返っていただくとともに、これから始まる国内社会人ラグビーの全国リーグ「ジャパンラグビートップリーグ2020」についてお話をうかがいました。
撮影:竹見脩吾
平井理央さん(以下、平井):ラグビーW杯、本当にお疲れさまでした。少し日にちは経ちましたが、未だに日本中でラグビーフィーバーが続いています。今回のこの盛り上がりについて、流選手はどのように感じていますか。
流大選手(以下、流):すごい!のひと言です。僕が所属するサントリーサンゴリアスのホームグラウンドにも毎日大勢の方が観に来てくださいますし、(昨年)12月11日に行われた丸の内仲通りのパレードにも約5万人が来てくれたと聞きました。この状況は大会前には想像できなかったことなので、今回のラグビーW杯でこれまでやってきたことが少し報われたかなと改めて思っています。
平井:ファンの方とのふれ合いは、流選手にとってどんな力になっているのですか。
流:まず観に来てもらうだけですごくうれしいですし、子供たちが「流選手みたいになりたい」と言ってくれるのもうれしいです。子供たちの夢や目標であり続けることが、僕たち選手の使命だと思っていますから。
平井:今回、流選手のラグビーW杯出場という夢の一つが叶いましたが、その時の気持ちを教えてください。
流:言葉にならない、心の奥から湧き上がるものがありました。夢の実現のために全てを捧げてきたので、それが叶ってすごく幸せだったというのが一番の感情です。
平井:試合自体はタフな時も苦しい時もあったと思いますが、それも幸せでしたか。
流:そうですね。試合のなかでは苦しい場面も多くありましたし、南アフリカ戦は負けてしまいましたが、それも含めて夢の舞台だったのですごく幸せでした。
撮影:竹見脩吾
平井:自国開催のW杯で実際にプレーしてみていかがでしたか。
流:まずプレッシャーがすごかったです。ここで勝って、決勝トーナメントに進出しないと日本のラグビーは終わってしまうという危機感がありましたから。それに本当に大勢の方がサポートしてくれており、結果を残すことが使命だと思いましたので、すごくプレッシャーを感じました。実際、開幕戦のロシア戦は、ほとんどの選手が緊張していました。なかなかうまくいかない場面もありましたが、それでもみんなで乗り越えてボーナスポイントまでとって勝つことができ、当時世界ランク2位のアイルランドにも勝てたので、波に乗っていけました。
平井:その大きなプレッシャーのなか、緊張でガチガチでも自分たちのプレーを遂行できた要因はどんなところにありましたか。
流:ひとつはプレッシャーに対してネガティブにならないように、チーム内でとことん話し合っていたことです。もうひとつは、プレッシャーに自ら飛び込んでいくというか、試合よりもプレッシャーのかかる状態を作って練習していたことも大きいですね。
平井:それはどういう練習ですか。
流:例えばキッカーの田村優選手はゴールキックを蹴る練習の際、実際に(ジェイミー・ジョセフ)監督に横に立ってもらって10本中10本入らなければ練習が終わらないというものです。
平井:監督自らが横に立っていると確かにプレッシャーがありますね。
流:立っているだけでもプレッシャーがありますが、監督もわざと、より一層プレッシャーがかかることを言ったりしますから。
平井:流選手自身はどんなことをしたのですか。
流:僕の場合はメンタルコーチがいて、脳波を測る器具を使いました。それを頭に10分間装着するのですが、自分の心が落ち着いていると“ピヨピヨ”と鳥のさえずりが聞こえてきて、何か雑念があったりすると“ザァー”と波の音が聞こえるんです。例えば、移動中のバスで隣に誰も座らず目を瞑れば、鳥のさえずりが聞こえます。でも、横に選手に乗ってもらったり、それこそ監督に座ってもらうと“ザァー”となるんです。それを大会前から何度も試みて、どうしたら心が落ち着くか、どういうイメージをするといいのかというトレーニングを続けてきました。
平井:どうすると鳥のさえずりが聞こえるようになったのですか。
流:まずはしっかりと深呼吸します。次に自分が今までプレーしてきたなかで良かった試合を思い浮かべることで、ラグビーを楽しんでいることを思い描きました。それが自分の心が平静になって楽しめるマインドになることへつながりました。
平井:今大会での、ご自身のベストプレーを選ぶとしたらどれですか。
流:大会後にいくつか取材を受けていて、そこでもよく聞かれるのですが、自分の中でベストプレーが本当になくって……。僕の役割は自分がトライをするというような目立つものはなくて、周りと周りをつなぐコミュニケーションとか、コーチ陣の考えを誰よりも理解してそれをみんなに伝え続けるとか、目に見えにくいものなので自分のプレーを評価するのは難しいです。でも、チームから与えられた役割は達成できたと感じています。
平井:大会が終わってからチームメイトや監督、スタッフから掛けられてうれしかった言葉はありますか。
流:僕はW杯前までは控えにまわることも多かったのですが、大会では全て先発で出させてもらいました。大会が終わった後で監督から「お前に託して良かった」と言われたのは、最大の褒め言葉だと受け取っています。
撮影:竹見脩吾
ファン目線で観るラグビーW杯も楽しい
平井:南アフリカ戦の国歌斉唱での涙が印象的でしたが、あの涙はどういう涙だったのでしょうか。
流:あの時は本当に自然に出たという感じです。会場の雰囲気もすごかったですし、日本代表のジャージを着て多くの方が「君が代」を歌っている姿と、ここに立つために頑張ってきたという思い、自分たちが4試合勝ってベスト8を達成して今グラウンドに立っているんだ等、いろんな感情が込み上げてきて涙が出ました。
平井:あの直前、ロッカールームではどんなことを話されたのですか。
流:基本的に話すのはキャプテンのリーチマイケルさんですが、“何も恐れることはない。やるべきことはやってきたからそれを存分に出そう”という話をしました。
平井:ラグビーW杯中、他の試合をご覧になりましたか。
流:観ていました。南アフリカ戦が終わって、次の準決勝と決勝は会場で観戦しました。悔しい気持ちはもちろんありましたが、でも、実際にファンとして観るラグビーW杯は会場がお祭りのようでもあり楽しい。たくさんのファンが応援する姿は、グラウンドの中ではわからないことでした。それに会場の運営面でもホスピタリティをすごく感じて、選手みんなが感謝しています。ボランティアの方をはじめ大勢の方が海外からのサポーターを誘導したり、道案内をしたりしておもてなしをしている姿を見てすごく幸せな気持ちになりました。それも観客として会場に行ったことで気づくことができたことです。
撮影:竹見脩吾
平井:ちなみにですが、(日本が強豪南アフリカに歴史的勝利を挙げた)前回2015年のW杯の南アフリカ戦はどこで観ていたのですか。
流:渋谷のスポーツバーでサンゴリアスの同期メンバーと観ました。店に入った時はスポーツバーなのに試合を放送していなかったので、店員さんにチャンネルを変えてもらいました。店には30人くらいいましたが、観ていたのは僕たちだけだったのでこんなにもみんな試合を観ないんだと思いました。日本代表を心から応援していましたが、実は僕たちも正直初めは勝てると思わなかった。ただ前半を戦っていくうちにちょっとずつ期待が膨らんでいって、後半の途中からは絶対に勝てると確信したので、周りにいたお客さんに「観たほうがいいですよ」と声をかけたんです。最後に勝った時には、みんなで“うわぁー”と大声で喜び合って、その時の店内の一体感と感動はすごかったです。初めて外でラグビーを観て涙が出ました。
平井:街のリアルな反応を前回大会では体感したわけですね。その当時の印象としては遠い世界のことというイメージでしたか。
流:南アフリカに勝利するとは思っていなかったので驚くと同時に、そこで4年後を目指したいなと強く思いました。
平井:今回、決勝戦を観客席で観て4年後にはこの舞台にという思いは湧いてきましたか。
流:一つひとつ階段を上っていかないといけないので、4年後に決勝に行けるかというとわからないところではありますが、目指すべきところは絶対に今大会以上の成績です。いつか日本のラグビーが優勝カップを掲げる姿を思い浮かべながら、そこに向けて後輩にバトンタッチしていけるように僕自身も頑張っていきたいです。
撮影:竹見脩吾
最終的にはONE TEAMになったのは最後
平井:日本代表チームの「ONE TEAM(ワンチーム)」という言葉が広く浸透して、2019年の新語・流行語の年間大賞にも選ばれました。チームとして本当にひとつになったなという実感が生まれたのはいつ頃ですか。
流:初めに感じたのは6月に行われた宮崎での直前合宿です。その合宿は朝から晩まで長時間練習をして本当に過酷でした。家族や子供がいる選手も多くいるなかで、1か月半という長い期間一緒にきつい練習を乗り越えたことで一つになったという実感がありました。それとラグビーW杯に入ってから。大会が始まり、今までやってきたことを出しきって一つの目標に向かっていく間にどんどん結束していって、最終的に本当にワンチームになれたのは最後だと思います。
平井:世界のトップ選手たちと戦って、海外でもプレーしてみたいという気持ちは生まれましたか。
流:海外でしか経験できないことも必ずありますし、日本人が海外へ飛び込んでいくことで未来の子供たちの道を切り開きたいという思いがあるので、チャンスがあれば行きたいです。
平井:子供たちに夢を与えたいとか、子供たちの道を切り開きたい等、ラグビー界の未来を見据えたメッセージが読み取れますが、将来は指導者というのが目標にあるのでしょうか。
流:もともと僕は社員選手としてサントリーに入りましたが、選手としてまず勝負したいという思いとセカンドキャリアで指導者として成功したいという思いがあって、今のプロ選手の道を選びました。将来はコーチ、指導者として子供たちも含めて未来のラグビー選手を育てていけるような人間になりたいです。
平井:現役、しかも全盛期から指導者の道をしっかりと思い描いているのは珍しいと思うのですが、なぜそういうふうに思うようになったのですか。
流:今まで僕が出会ってきた指導者は本当に素晴らしい方が多くて、その人たちにここまで引き上げてもらったという思いがあります。僕もそういうふうに一人の人間を大きくしていける人になりたいという気持ちと、実際にコーチングに対して興味があるというのが大きいです。
撮影:竹見脩吾
エキサイティングで華麗なプレーが魅力の7人制ラグビー
平井:ラグビーW杯の盛り上がりによって、東京2020オリンピックでの7人制ラグビーもより注目度が高まったと思います。流選手は7人制ラグビーにどのような期待がありますか。
流:すごくワクワクしています。前回の2016リオデジャネイロオリンピックでは4位で、それも素晴らしい成績ですが、自国開催ということで本当に盛り上がるでしょう。15人制がこれだけ注目されたので、ファンの方にはぜひ7人制の後押しをしてもらいたいです。7人制のメンバーには友達や後輩がいて、彼らにはラグビーW杯を心から応援してもらったので今度は僕たちが彼らをしっかりサポートしたいです。
平井:7人制で注目している選手はいますか。
流:サントリーの後輩・松井千士(まつい ちひと)選手。めちゃくちゃ足が速くてイケメンです。彼の7人制ラグビーに対する思いは以前から聞いているので、ぜひ頑張って欲しいです。
平井:改めて7人制ラグビーはどんなところが魅力か教えてください。
流:7人制ラグビーは15人制とコートの広さは同じでプレーヤーが1チーム7人と半分以下で行われます。その分一人ひとりのスペースが広くなり相手をなかなか止めることが難しくなるので、よりスピード感のあるラグビーというのが7人制の大きな特徴です。エキサイティングで華麗なプレーがたくさん観られるので、15人制とはまた違った魅力があります。
撮影:竹見脩吾
平井:お話をうかがっていると流選手のラグビー愛が伝わってきますが、生まれ変わってもラグビー選手になりたいですか。
流:絶対ラグビーをやりたいです。ラグビーをやっている人はいい人が多いですから(笑)。
平井:それ、みなさん言いますよね。元ラグビー日本代表の大畑大介さんを中心に(笑)。
流:やはり繋がりが強いので。15人制だけじゃなくて7人制もそうですし、女子のラグビー、車椅子ラグビーと、ラグビー界にはいろんなカテゴリーあります。今回のW杯でせっかくにわかでもファンになってくれた方にはいろんなラグビーを観てもらってラグビー界全体で日本を盛り上げたい。そのためのサポートを僕もしていきたいです。
平井:「にわかファン」という言葉も今回フィーチャーされましたが、選手の皆さんはありがたいと言ってくださる方が多いですよね。
流:多分、選手全員がそう感じていると思いますよ。ファンはファンなのでにわかもオールドも関係ありません。応援してくれることに変わりないので全てのファンを大事にしたいですね。
撮影:平井理央
ファンに満足してもらえるプレーをするのが使命
平井:これからジャパンラグビートップリーグが開幕しますが、ラグビーW杯の熱を受けてどんなトップリーグになっていって欲しいですか。
流:まずはレベルの高い試合をしないといけません。せっかく新しいファンが増えて、初めてトップリーグを観に来てくれる方もいると思うので、ラグビーW杯でのプレーのようなワクワクするようなエキサイティングなプレーをすることが僕たちトップリーガーに求められていることだと思います。トップリーグには今回のラグビーW杯に出場した世界トップレベルの選手も多く所属しています。これまで以上にトップリーグがより強くて素晴らしいものになれば世界に対してもいいメッセージを発信できるので、そこも意識しながらやっていきたいです。それとファンを大事にするというのもトップリーグの良さでもあるので、そこも大切にしたいです。
平井:今日は流選手の所属するサンゴリアスのホームグラウンドに来ましたが、練習を観にくるとこんなに選手との距離が近いのかと驚きました。写真もサインもOKなんですね。トップリーグも観に行きたいです。
撮影:竹見脩吾
Profile
流大(ながれ ゆたか)
ラグビー日本代表選手。1992年9月4日、福岡県生まれ。小学校2年の時に親の勧めでラグビーを始める。2015年、帝京大学4年時に主将として大学選手権6連覇を達成。現在、サントリーサンゴリアス所属、主将を務める。ポジションはスクラムハーフ。
【平井理央さんのラジオ番組が好評オンエア中!】
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TBSラジオ「From RIO to TOKYO」
月曜日~金曜日 17:00-17:10(「ACTION」内)
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